第50話 誓いの言葉と『決断』
音が収まった頃、その中心には、静かに膝をついた、リアーナの姿があった。
「――……参ったわ」
その声には、悔しさよりも、どこか、隠しきれない、複雑な熱が滲んでいた。
「――流石は、リアーナだ。……紙一重だったな」
俺は、荒い息を整えながら、彼女に手を差し伸べた。
「――強くなったわね、ディア」
リアーナは、その手を取りながら、静かに、まじまじと俺を見つめた。
「――リアーナに、認められたい一心でな……」
俺の言葉に、リアーナは、僅かに頬を染めた。
「――照れるわね……。でも、嬉しいわ」
その微笑みに、俺は、胸の奥が、静かに熱くなるのを感じた。
(――今しか、ない)
「――リアーナ」
俺は、静かに、しかし、確かな覚悟を込めて、彼女を見つめた。
「――俺の、気持ちを、聞いてくれるか」
リアーナの表情が、一瞬、固まった。
「――い、いいわよ」
その声は、僅かに、上ずっていた。
(――き、来る……! これは、来るやつよ……!)
リアーナの心臓が、これまでにないほど、激しく高鳴っていた。
俺は、静かに、これまで、ずっと胸に秘めてきた想いを、一つ一つ、言葉にしていった。
「――リアーナ。……俺は、名前を貰った、あの日から、ずっと、あなたのことを、考えていた」
その声は、緊張で、僅かに震えていた。
「――美しく、強く、時に厳しい一面がありながら……、それでいて、優しさもある。……そんなリアーナに、認められたくて、俺は、ここまで頑張ってきたんだ」
リアーナは、静かに、言葉もなく、俺を見つめていた。その瞳が、微かに、潤んでいるように見えた。
「――まだまだ、頼りない、俺だけど」
俺は、静かに、しかし、真っ直ぐに、彼女に手を差し出した。
「――そんな俺の、そばに……。ずっと、いてくれないか」
「――え……。そばにいる、って……。それは……」
「――ああ」
俺は、静かに、しかし、はっきりと告げた。
「――番に、なってほしい」
その言葉が、静かに、その場の空気を、震わせた。
「――私、なんかで、いいの……?」
リアーナの声が、微かに、震えていた。
「――あなたの、周りには……。もっと、たくさん、魅力的な娘たちが、いるじゃない」
その問いには、数千年にわたって積み重ねてきた、自己評価の低さと、孤独が、静かに滲んでいた。
「――俺は、リアーナが、いいんだ」
俺は、静かに、しかし、揺るぎない声で、答えた。
「――リアーナじゃなきゃ、駄目なんだ」
その一言に、リアーナの瞳から、堪えきれない涙が、静かに、一筋、零れ落ちた。
「――もう……。そんなに、言われたら」
彼女は、静かに、涙を拭いながら、優しく微笑んだ。
「――答えは、一つしか、ないじゃない」
「――リアーナ」
「――ええ」
「――ありがとう、リアーナ。……愛してるよ」
「――ふふっ。……照れくさいわね」
リアーナは、静かに、しかし、心の底から、幸せそうに笑った。
「――私も、よ。ディア」
こうして――一組のカップルが、静かに、誕生した。
◇
「――リアーナ、アリマン様へ、報告に行こう」
「――そうね。……もう、しばらく、サポートを、延長してもらわないと」
リアーナは、俺の腕に、そっと寄り添いながら、そう答えた。
「――リアーナ……。く、くっつきすぎだ」
「――あら、いいじゃない。……嬉しいくせに」
「――ま、まぁ……、そうなんだが」
俺は、僅かに、頬を熱くしながら、素直に、そう認めた。
◇
魔王城の一室――アリマンの自室に、俺たち三人は集まっていた。
「――おまえら」
アリマンは、静かに、深い溜息と共に、口を開いた。
「――わしの前でも、イチャイチャしとるのは、いい度胸だな」
「――アリマン様……。申し訳、ございません……」
俺は、慌てて、頭を下げた。
「――リアーナが、浮かれてまして……」
「――あら、あなたが、西大陸へ行く前に、煽ったからよ?」
リアーナが、悪びれもせず、そう返す。
「――多目に、見なさいよ」
「――はぁ……。まったく」
アリマンは、静かに、額に手を当てた。
「――歴代の魔王を、育てた女傑とは思えん、緩みっぷりじゃな」
その言葉に、リアーナは、僅かに頬を染めながらも、幸せそうに微笑んでいた。
「――さて、ディアよ」
アリマンは、静かに、表情を切り替えた。
「――今日は、惚気を、見せに来たわけでは、あるまい。……何用じゃ」
「――はい」
俺は、静かに、居住まいを正した。
「――本日は、2点、ご相談がございます」
「――申してみよ」
「――1つ目は、リアーナのサポート期間の、延長です」
俺は、静かに続けた。
「――実務をこなしていた眷属たちは、こちらへお戻しします。……ですが、この浮かれた真祖に、もう少々、時間の猶予を、いただきたく」
「――ちょっと、浮かれたは、余計よ」
リアーナが、頬を膨らませながら、軽く俺の肩を小突いた。
アリマンは、静かに、その様子を見つめた後、微かに、笑みを浮かべた。
「――うむ。……よかろう」
「――数千年も、魔王国を、支えてくれたのじゃ。……しばらくは、ゆっくりする、といい」
「――ありがとうございます」
リアーナが、静かに、深く頭を下げた。その瞳には、確かな安堵と、喜びが滲んでいた。
「――2点目は」
俺は、静かに続けた。
「――ディスガイアに、3つ目の拠点を、作りたいと、思います」
「――ほう」
アリマンが、静かに、興味深げに、身を乗り出した。
「――1つ目の拠点は、大陸中央に建築したばかりの、首都です。俺が領主として、取り仕切っております」
俺は、静かに、これまでの成果を、丁寧に説明していった。
「――順調に開拓が進み、今では、約500名規模の魔族が、暮らしています」
「――2つ目は、ドラゴン族の集落。……こちらは、べべが族長となり、北側の山奥にあり、約400名が、暮らしています」
「――そして、3つ目は」
俺は、静かに、南の方角を、思い浮かべた。
「――大陸の南側に、建設を予定しております。……こちらは、人族、魔族、亜人など、種族を問わない、街にしたいと考えています」
「――ほう。共存する、村か」
「――はい。左様でございます」
俺は、静かに、力強く続けた。
「――それぞれの、長所を伸ばし、短所を補い合う。……そうすることで、チームワークを高め、よりよい成果に、導くつもりです」
アリマンは、暫し、俺を見つめた後、静かに頷いた。
「――よかろう。……聡い、お主のことだ。既に、良案が、あるのだろう」
「――人選は、ゴウロウ殿や、タラボーヤ殿。魔族側は、デルポポと、相談の上で進めます」
「――かしこまりました」
俺は、静かに、深く頭を垂れた。
こうして、番を得た喜びと共に、俺の――そして、ディスガイアの国づくりは、また一つ、新たな構想へと、歩みを進めていくこととなった。




