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【悲報】最弱インプ、勇者を事故死させてスキルを強奪してしまう~成り上がり魔王譚~  作者: 下総山中
西大陸と神々の正体

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第49話 全力の証と『本音』

建国から、およそ一年が経とうとしていた。

「――随分と、立派になったものだな」

俺は、城の露台から、眼下に広がる街並みを見下ろしていた。

黄色い妖精の力によって安定した土壌は、季節を問わず豊かな実りをもたらし、整然と区画された街には、活気ある店舗が軒を連ねている。経済は好調で、人々の暮らしにも、確かな余裕が生まれ始めていた。

(――成果は、出せている。……だが)

俺の胸中には、一つの焦りが、静かに燻っていた。

(――あと、一ヶ月ほどで、リアーナが、中央大陸へ帰ってしまう)

最初の約定通り、開拓が軌道に乗った今、リアーナがこの地を離れる日は、確実に近づいていた。

(――何か、しなければ)

だが、何をどうすればいいのか、俺自身、まるで見当がつかずにいた。

この一年、俺は、鍛錬を欠かしたことはなかった。

「――ハアッ!」

「まだまだ、甘いぞ、ディア!」

ルピンとの組手も、日に日に激しさを増していた。

「――我にも、挑んでみるか」

べべもまた、以前より一回り成長したその体躯で、俺の相手を務めてくれていた。

無限とも言えるレベリングと、実戦経験の積み重ねにより、俺の力は、着実に、以前とは比べ物にならない領域へと達しつつあった。

だが――それでも、リアーナとの距離は、なぜか、縮まっている気がしなかった。

「――リアーナ、少し、話が」

「――ごめんなさい、今、手が離せなくて」

素っ気ない返事と共に、目も合わせず、足早に去っていく背中。

「――リアーナ、この間の――」

「……あら、ダキオスが、呼んでいるみたい。また今度」

会話は、いつも、不自然に途切れた。

(――嫌われて、いるのか?)

俺は、日に日に、募る不安を、静かに抱え続けていた。

――一方、その頃。

リアーナもまた、密かに、悩みを抱えていた。

(――あの時の、アリマンの言葉……)

「番として、じゃ」

その一言以来、リアーナの心は、絶えず、揺れ動いていた。

(――今までは、こんなこと、なかったのに)

これまで、幾人もの魔王を支え、時に導き、時に叱咤してきた。誰かに対して、こうも動揺することなど、なかったはずだった。

(――ディアの、顔を見ると……。うまく、話せない。目を、合わせられない)

自分でも、その理由が、分からなかった。いや――分かっていて、目を逸らしていた、というのが、正しかったのかもしれない。

ある夜、自室で一人、リアーナは、静かに、自分の胸に手を当てた。

「――恋……、よね……。これって……」

数千年に及ぶ、独り身の日々。誰かを想うということが、これほどまでに、不慣れで、扱いに困るものだとは、思ってもみなかった。

(――どうすれば、いいの……)

答えの出ない問いを、リアーナは、静かに、月明かりの下で、抱え続けていた。

そんな折、俺は、一つの結論に至っていた。

(――魔族にとって、力を示すことは、何よりの誠意だ)

リアーナは、常々、「自分より強い者が好き」と口にしていた。ならば――今の自分の力を、まっすぐに、彼女の目に焼き付けるべきではないか。

その考えは、決して、間違ってはいなかった。魔族の価値観としては、真っ当な発想だった。

だが、俺は、まだ、知らなかった。リアーナの心が、既に、少しずつ、変化し始めていたことを。

「――リアーナ、一度、私と、全力の模擬戦をしてほしい」

俺は、意を決して、彼女を呼び出し、そう切り出した。

「自分が、どれくらい強くなったか、確認したいんだ」

「――あなたは、十分、強くなったわ」

リアーナは、静かに、しかしどこか、視線を逸らしながら答えた。

「――アリマン様には及ばないまでも、……スルートと、同じくらいには、成長してるわよ」

「――かもしれない。ただ」

俺は、静かに、しかし、真っ直ぐに、彼女を見つめた。

「――リアーナには、ちゃんと、見ておいてほしいんだ。……言葉には、うまく、できないんだけどさ」

その言葉に、リアーナの心臓が、僅かに、跳ねた。

(――ど、どういうこと……? 私は、特別ってこと……?)

「……わ、かったわ」

リアーナは、静かに、俯きながら、答えた。

「――私も、全力で、応えるわね」

「――ありがとう。……明日、訓練所で、待っている」

翌日、リアーナは、緊張のあまり、ほとんど眠れぬまま、訓練場へと足を運んでいた。

「――リアーナ、今日は、ありがとう」

「――わかったわ。……準備は、万端よ」

その声は、いつもより、僅かに硬かった。

「――お互い、降参するまでで、頼む」

「――ええ」

俺たちは、静かに、間合いを取った。

戦いは、瞬く間に、激化した。

「――『重力の(くさび)』!」

リアーナの魔法が、俺の周囲の空間を、一瞬にして押し潰そうとする。

「くっ……!」

俺は、瞬時に、飛行の力で空へと躱した。

「――甘い! 『黒炎の渦』!」

続けて放たれた火魔法が、追いすがるように迫る。

「――ハアッ!」

俺は、槍を振るい、その炎を、真っ二つに切り裂いた。

「――やるじゃない」

リアーナが、不敵に笑う。

「――まだまだ、これからだ!」

俺は、地を蹴り、一気に間合いを詰めた。

「――『予知』」

リアーナは、静かに、俺の動きを、寸前で読み切り、紙一重で躱していく。

「――速い……!」

彼女の体術もまた、洗練の極みだった。真祖としての、幾千年もの戦闘経験が、その一挙一動に、確かに宿っている。

俺とリアーナの速度は、共に、魔族の中でもトップクラス。互いの動きは、もはや、傍で見る者の目には、捉えられないほどの領域に達していた。

「――ハアッ!」

「――そこ、甘いわよ!」

槍と、彼女の繰り出す拳、そして魔法が、幾度も交錯する。

砂塵が舞い上がり、周囲からは、もはや、二人の姿すら見えなくなっていた。

その渦中、俺は、ふと、彼女の一瞬の表情――苦しさの中に滲む、真剣な美しさに、思わず、目を奪われた。

「――やはり、リアーナは、美しいな……」

「――なっ……!?」

思わず零れた本音に、リアーナの体勢が、僅かに崩れた。

「――こんな時に、何を……!」

「――悪い、つい」

その隙を、俺は、見逃さなかった。

「――ここだ!」

一瞬の隙を突いた俺の一撃が、彼女の防御を、僅かに、しかし確かに、上回った。

――ドガァァァンッ!!

大きな音と共に、砂塵が、辺り一面を包み込んだ。

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