第45話 属国の『建国』
戦況の報告を終え、それぞれの帰路へとつく直前、俺はドラゴン族の集落で、タラボーヤとゴウロウと、最後の言葉を交わしていた。
「――俺は、正直、国の運営になど、大した興味はない」
タラボーヤが、豪快に、しかしどこか自嘲気味に笑った。
「ライオネル一国だけでも、既に手一杯でな。……だが、何もせぬというのも、性に合わん」
「――何か、考えがあるのか」
「ダンジョンの定期攻略くらいなら、力になれよう。……お前たちの国が落ち着くまで、時折、様子を見に来る。それくらいの支援は、惜しまぬ」
「――助かる」
一方、ゴウロウは、静かに頭を垂れた。
「――我らは、此度の戦、敗れた身。……まずは、我が国の復興を優先せねばならん」
その声には、静かな覚悟が滲んでいた。
「魔族の意向に従うのが、道理というもの。……だが、いずれ、この目で見た真実――アルカナと、モーチの話は、必ず持ち帰り、伝えよう」
「――頼む」
俺は、静かに頷いた。
「――俺は、一度中央大陸へ戻り、陛下に、今回のことを報告してくる」
「うむ。……良い返事を待っている」
タラボーヤとゴウロウは、それぞれの転移陣へと向かい、故国へと帰っていった。
◇
魔王城へと戻った俺は、すぐさま、アリマン、リアーナ、そしてデルポポを交えた会議の場に、呼び出されていた。
「――まず、良い報せから伝えよう」
アリマンが、静かに口を開いた。
「デルポポの傷、順調に癒えておる。……あと数日もすれば、完全に復帰できる見込みだ」
「――それは、良かった」
リアーナが、静かに、しかし確かな安堵を滲ませた。
「――ご心配をおかけしました」
デルポポが、静かに頭を下げた。眼鏡の奥の瞳には、以前と変わらぬ、冷静な光が宿っている。
「――さて、次に、ディア。西大陸の報告を、聞かせてもらおうか」
俺は、静かに、これまでの経緯を語った。
シャスドラの狂気とその原因、精霊王の力による応急処置、そして――モーチから聞かされた、神による搾取の真実。ドラゴン族と、モーチの意思。ライオネル、そして人族側の姿勢。
一つ一つ、簡潔に、しかし漏らさず、伝えていった。
会議室に、重い沈黙が満ちた。
「――そうか。……国を、興すとなると、一大事だな」
アリマンが、静かに、しかし重みのある声で呟いた。
「――今回のことは、ディアの功績によるものだ。既に、原住民であるドラゴン族や、モーチからの信頼も厚い。加えて、お主は、知略に優れ、武力もある」
アリマンの視線が、静かに俺へと向けられた。
「――デルポポも、復帰するタイミングだ。ディアよ、やってみるか」
俺は、静かに、隣に座るリアーナへと、視線を向けた。
彼女は、静かに、俺を見つめ返していた。その瞳に、何か、これまでとは違う、真剣な色が宿っているように見えた。
俺は、静かに、しかし力強く、頷いた。
「――はい。やらせてください」
「――よかろう」
アリマンは、静かに続けた。
「西大陸は、魔族の属国とする。管理者として、ディア、お主を配置する。……中央大陸は、四大守護者を、お主が来る前の体制に戻そう」
「はい」
「ディアは、西大陸の開拓に向かうメンバーを集め、出立の準備をせよ。……これより、お主は、西大陸の統治者だ」
アリマンは、静かに、しかし確かな重みを込めて、続けた。
「――して。西大陸の……国の名前は、どうする」
俺は、静かに、これまでの旅路を思い返しながら、口を開いた。
「――『ディスガイア』としたいと思います」
「――ディスガイア、か」
アリマンは、僅かに目を見開いた後、静かに笑った。
「――自分の名を入れるとは、良い度胸よ。……我らも、支援は惜しまぬ」
そして、その視線が、静かにリアーナへと向けられた。
「――リアーナよ。お主は、何代もの魔王を導いてきた。最初は、サポートを頼む」
「――承知しました」
リアーナは、静かに、しかし確かな決意を込めて、頷いた。
こうして、西大陸に、新たな国――ディスガイアの、始まりが告げられた。




