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【悲報】最弱インプ、勇者を事故死させてスキルを強奪してしまう~成り上がり魔王譚~  作者: 下総山中
西大陸と神々の正体

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第42話 虚獣と『異変』

「――異変の子細を、聞かせてもらえるだろうか」


俺の問いに、デェソンは、重々しく頷いた。


「――この大陸の北に、古くから、我らの手に負えぬダンジョンがある」


「……本来、ダンジョンから溢れ出た虚獣は、外界の理に馴染めず、霧散して消えるはずのもの。だが、あのダンジョンからは、時折、消えぬまま溢れ出る個体がおるのだ」


デェソンの声に、初めて、隠しきれぬ苦さが滲んだ。


「我らドラゴン族は、この地に住まう者として、その都度、溢れ出た虚獣を駆逐してきた。……だが、あの穴には、我らの巨躯では入ることが叶わぬ‥。だから原因も調査できずにいるのだ」


「――なるほど。だから、放置されてきた、と」


「人も魔族も足を踏み入れぬ、この西の大陸。……我らだけで、細々と対処するしかなかったのだ」


デェソンは、静かに続けた。


「――だが、ここ数年、明らかに様子がおかしい。溢れ出る頻度は増し、個体の強さも、年々増している」


「魔素の異常、ということですか」


「恐らくは。……だが、原因までは、我らには分からぬ」


俺は、静かに思考を巡らせた。


(――ダンジョンの内側で、何かが起きている。それも、外に溢れ出るほどの規模で)


「――北の先端、その岩穴から、内部に入れるのですね」


「うむ。……貴様らの体格であれば容易に入れよう」


「――我も大丈夫そうだな」


べべが、静かに進み出た。


「小柄ゆえに侮られてきたが、こういう時に役立つとはな」


「――貴殿が」


デェソンの視線が、べべへと向けられる。


「先の一戦で、その実力は見た。……頼めるか」


「無論だ」


俺は、静かに頷いた。


「――一旦、報告と準備のために、中央大陸へ戻ります。討伐隊を編成し、必ず、この地に戻ってきます」


「――約束だぞ、ディア」


デェソンの言葉に、俺は静かに頷いた。



俺とべべは、その場に、ノノの試作した転移陣を設置した。


「――これで、次からは飛行に一週間もかからずに済む」


俺は、静かに魔力を込め、陣を起動させた。淡い光と共に、視界が瞬時に切り替わり、俺たちは魔王城へと帰還していた。


「――便利なものだな、これは」


「ああ。……ただし、この陣を維持するには、貴重なマナストーンが必要になる。大量生産は、とても叶わない」


俺は、これまでの旅で拾い集めてきた鉱石の残りを思い浮かべながら、静かに呟いた。



アリマンへの報告は、迅速に行われた。


「――ダンジョンの異常な虚獣氾濫、か」


アリマンは、静かに眉を寄せた。


「放置すれば、いずれ、中央大陸にまで影響が及ぶやもしれん。……討伐隊を編成せよ」


「はい。……メンバーについては、既に、考えがあります」


俺は、静かに続けた。


「べべは確定。加えて、ルピン、黄色い妖精、そして――人族とライオネル王国に協力を要請したく思います」


「――三国合同、というわけか」


「はい。……この西大陸は、いずれ、どこか一国が独占すべき土地ではない。最初から、多国間で関わった土地として扱う方が、後々のためになるかと」


アリマンは、暫し俺を見つめた後、静かに頷いた。


「――良い判断だ。手配しよう」



タラボーヤは、報せを受けるや否や、二つ返事で快諾した。


「――面白そうな話だな! よし、俺が行こう!」


「陛下……! また、そのように軽々しく……!それに‥公務をまたすっぽかすつもりですね!まったく‥あなたという人は…」


側近が、慌てて諫めるのを、タラボーヤは豪快に笑い飛ばした。


人族側でも、国王から指名を受けたゴウロウもまた、静かに頷いた。


「――借りは、返さねばならん。デスペナルティで力は落ちたが、まだまだ、役には立てるつもりだ」


こうして、ディア、べべ、ルピン、黄色い妖精、タラボーヤ、ゴウロウの六人による討伐隊が、西大陸北端の岩穴前へと、転移陣を通じて降り立った。



「――ここが、入り口か」


見上げるほどの岩壁に、ぽっかりと口を開けた洞穴があった。


「随分と、狭いな」


ルピンが、自分の体躯を見比べながら唸る。


「ドラゴンの巨躯では、確かに入れないだろうな」


俺たちは、慎重に、その内部へと足を踏み入れた。



洞穴を抜けた先に広がっていたのは、見渡す限りの、荒涼とした砂漠だった。


「――これが、一階層か」


障害物らしいものは、ほとんど見当たらない。ただひたすらに、乾いた砂の大地が、地平線まで広がっている。


「――来るぞ!」


べべの声と同時に、砂塵を巻き上げながら、無数の虚獣が押し寄せてきた。


「隠れる場所もねぇ……! 真っ向勝負しかねぇな!」


ルピンが、盾を構えながら吼えた。


「――望むところだ! 力こそパワー、だったか!」


タラボーヤが、豪快に笑いながら、素手で虚獣を殴り飛ばす。


「ぬん!」


一撃で、数体の虚獣が同時に吹き飛んだ。


「――さすがは、魔王と互角と称される御方だな」


ゴウロウも、デスペナルティで衰えたとはいえ、その剣技は健在だった。


「――ハアッ!」


流麗な剣筋が、次々と虚獣を斬り伏せていく。


「『氷結槍雨』――!」


べべの氷魔法が、広範囲の虚獣をまとめて凍りつかせる。


「ボクも、頑張るー!」


黄色い妖精の魔法が、閃光と共に、押し寄せる虚獣の群れを一掃した。


俺もまた、槍を振るいながら、着実に虚獣を屠っていった。


「――終わりが見えないな、これ」


「ああ。だが、押されてはいない」


数時間にわたる激闘の末、ようやく、虚獣の波が途切れた。



「――あそこに、階段がある」


砂漠の中央、小さな石造りの階段を見つけ、俺たちは慎重に降りていった。


その先に広がっていたのは、これまでとは明らかに異質な、荘厳な広間だった。


「――ここが、マスタールーム、か」


つまり、この巨大な砂漠こそが、まだ一階層に過ぎなかったということだ。


「――随分と、広いダンジョンだな……」


ルピンが、額の汗を拭いながら呟いた、その時だった。


「――ヒヒヒ、来客、か……!」


耳障りな哄笑と共に、広間の奥から、その”存在”が姿を現した。


八枚の漆黒の翼を持つ、かつては神々しかったであろう、しかし今は狂気に歪んだ、堕天した天使だった。


「――久方ぶりの、来訪者……! 遊んでいけェ……!」


その瞬間、翼の一枚が、爆ぜるように弾け飛んだ。


――ドガァァァンッ!!


爆発の余波が、広間全体を薙ぎ払う。


「くっ……! 広範囲攻撃か……!」


俺たちは、咄嗟に散開した。


「『癒しの精霊風』――!」


黄色い妖精の淡い光が、傷ついた仲間たちを包み込む。


「――お前、回復も、できたのか!」


「ボク、精霊王だからねー! 攻撃魔法の方が好きだけどー!本来精霊術は回復魔法が起源なんだよっ!だから両方できるのー!」



戦いは、想像を絶する消耗戦となった。


「速い……! そして、頑丈すぎる……!」


タラボーヤの渾身の一撃すら、堕天天使の体に、決定的な傷を与えられなかった。


「自己回復も、絶え間ない……! これでは、削りきれん……!」


ゴウロウが、苦々しく呟く。


「魔法も、まるで通じん……!」


べべの氷魔法すら、僅かに掠める程度の効果しかない。


「――このままじゃ、埒が明かない」


俺は懐から1つの『勾玉』を取り出した。


「――俺が、囮になる」


「な……! ディア、正気か!」


「あいつの最大の一撃を、俺が引き受ける。……そして、この勾玉で、対象を、あいつ自身に指定する」


俺は、静かに槍を構えた。


「――こっちだ、来い!」


俺は、あえて隙を晒し、堕天天使の意識を、自分へと引きつけた。


「――ヒヒヒ、良い覚悟だ……! 死ねェ……!」


八枚の翼、その全てが、一斉に爆ぜた。


――ドガァァァァァァンッ!!!


その瞬間、俺は勾玉を握りしめ、静かに念じた。


『――身代わりの勾玉、発動』


対象が、俺自身から、堕天天使本体へと、瞬時に切り替わる。


「な……!? これ、は……!?」


自らの最大攻撃を、そのまま受け止めることになった堕天天使の体が、大きく抉れた。


「――今だ! 全員、畳みかけろ!」


「応よ!」


ディアの神殺しの槍が、ルピンの棍が、タラボーヤの拳が、ゴウロウの剣が、べべの氷が、そして黄色い妖精の光が、一斉に、抉れた体へと叩き込まれた。


――ドガァァァァァンッ!!!


「――ぎ、ゃァァァ……!」


断末魔の叫びと共に、堕天天使の体が、黒い霧となって、静かに霧散していった。


『――ダンジョンマスターを撃破しました』



「――終わった、のか……」


俺は、肩で息をしながら、槍を杖代わりにした。


「見事な囮役だった、ディア殿。まさか身代わりの勾玉を攻撃してきた本人に指定するとは。あれが無ければ負けておったな」


タラボーヤが、豪快に笑いながら、俺の肩を叩いた。


「――本当に、無茶をする」


ゴウロウが、呆れたように、しかしどこか感心したように呟いた。


戦いの余韻の中、俺たちは、静かに、この長きにわたる異変の元凶が、ようやく取り除かれたことを実感していた。


だが――この堕天天使が、なぜここまで狂い、なぜこれほどの魔素を蓄えていたのか。その根本の原因は、まだ、誰にも分かっていなかった。

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