第40話 新たなる進化と『地位』
戦争が完全な終結を迎えた頃、魔王城では、新たな体制についての話し合いが行われていた。
「――デルポポ殿の容体は、順調に快復されているものの、当面は療養に専念していただくことになる」
「そもそも働きすぎなのだ……」
アリマンが、静かに告げた。
「守護・事務部門の後任について、決めねばならん」
「――僭越ながら、提案がございます」
リアーナが、静かに進み出た。
「私が、守護・事務部門を引き継ぎましょう」
「――リアーナが?」
俺は、思わず声を上げた。
「ああ。……眷属としたダキオスたちをはじめ、私はこれまでも、多くの"人"を扱ってきた。組織の運営、内政の采配……。工作・サポートよりも、こちらの方が、より私の性分に合っているかもしれん」
「――して、リアーナの後任は」
アリマンの視線が、静かに俺へと向けられた。
「――ディア。お主に、工作・サポート部門を任せたい」
「……俺に、ですか」
「これまで、お主がやってきたことを、思い返してみよ。単独での偵察、ドライアド族の救出作戦、水攻めの立案、そして此度の王都攻略――そのいずれもが、諜報と後方支援、まさにこの部門の本分そのものだ」
アリマンは、静かに続けた。
「――だが」
その声色が、僅かに重みを増した。
「我ら魔族は、根本的に、武力を重んじる。……お主の功績は、疑いようもない。だが、いまだ"デーモン"のままの器では、四大守護者という地位に対し、懸念の声が上がらぬとも限らん」
その言葉に、俺は、静かに口を開いた。
「――その懸念には、及びません」
「――なに?」
「実は、先の戦の後、進化の兆候を感じておりました。……種族【グレーターデーモン】への条件を、既に満たしております」
俺は、静かに『鑑定』の結果を告げた。
「戦後処理が優先だったため、今日まで、我慢しておりました」
アリマンは、暫し、驚いたように目を見開いた後、静かに笑った。
「――なんと。……律儀な奴だ」
「では、今すぐにでも」
「ああ。……存分に、その力を解き放て」
俺は、静かに目を閉じ、これまで抑え込んでいた熱を、そっと解き放ち、意識が無くなった…。
◇
数日後。
魔王城の広間に、俺は、四大守護者襲名の儀のために、姿を現した。
「――これが」
俺の姿を見て、リアーナが、静かに息を呑んだ。
体は以前よりも一回り大きく、纏う漆黒の魔力は、以前とは比べ物にならないほど、濃密なものへと変わっていた。背に生えた翼は、以前の不格好なものから、鋭く、しなやかな形へと進化を遂げている。
「――試しに」
俺は、静かに翼を広げ、そのまま宙へと舞い上がった。
「――飛べる、のか……!」
ルピンが、驚愕の声を上げた。
「種族特性のようだ。……『飛行』」
俺は、静かに地に降り立ちながら、鑑定結果を口にした。
「もう一つ、興味深い特性も得たようだ」
俺が、静かに意識を集中させると、足元の影から、小さな下級悪魔が、するりと姿を現した。
「――な……!」
「『悪魔支配』。……下級の悪魔を、使役、召喚できる特性らしい」
「サキュバスの擬態や誘惑と、同じ、種族特性ってことね」
ノノが、興味深げに呟いた。
「グレーターデーモンへの進化、見事だ」
アリマンが、満足げに頷いた。
「――四大守護者、ディア。今日より、その名を、正式に襲名せよ」
その宣言に、その場の全員が、静かに頭を垂れた。
「――あのインプが、まさか、ここまで成り上がるとはな」
リアーナが、感慨深げに呟いた。
「まだ、始まったばかりだ」
俺は、静かに、そう答えた。
事故で勇者のスキルを奪うことになった、あの日から。
長い旅路を経て、俺は今、魔王国の中枢に、確かな地位を築いていた。
だが、その心の奥底には、まだ、答えの出ていない謎が、静かに眠り続けている。
そして、まだ見ぬ、この世界の、さらなる真実。
グレーターデーモンへと進化を遂げたディアの物語は、こうして、新たな章の幕開けを迎えるのだった。




