第39話 鑑定と『予兆』
戦の熱がまだ冷めやらぬ中、俺は、崩壊した王都の跡地に立っていた。
「――酷いもんだな……」
ルピンが、瓦礫と化した街並みを見渡しながら、重い息を吐いた。
地盤沈下によって、街の大部分が陥没し、周辺の大地には、深い亀裂が幾筋も走っていた。地下水脈が乱れたためか、かつての緑豊かな土地は、乾き、荒れ果てていた。
「――ボク、こんなに大きくなるって、思ってなかった……」
黄色い妖精が、珍しく、しゅんとした様子で、荒れた大地を見つめていた。
「みんなの生活、めちゃくちゃにしちゃった、よね……」
「――お前の力じゃない。俺の見積もりが、甘かった」
俺は、静かにそう答えながら、ふと、体の奥に、微かな違和感を覚えた。
(――なんだ、これは)
熱とも痺れとも違う、体の奥底から、じわじわと込み上げてくる感覚。
俺は、静かに『鑑定』を発動させた。
『――種族【デーモン】から【グレーターデーモン】への進化条件を満たしています』
「……!」
俺は、思わず息を呑んだ。
(――今、来るのか)
第4話での初めての進化――あの時は、進化の予兆と共に、糸が切れたように意識を失い、そのまま倒れ込んでいた。
(――だが、今は、まだ倒れるわけにはいかない)
戦の後処理も、仲間たちの心のケアも、まだ道半ばだ。ここで倒れれば、皆に要らぬ心配をかけてしまう。
俺は、静かに拳を握りしめ、湧き上がる熱を、意志の力で押し留めた。
(――耐えろ。今は、まだ)
「――ディア? どうかしたの?」
ノノが、怪訝そうに顔を覗き込んでくる。
「……いや、なんでもない」
俺は、静かに、平静を装った。
「――なあ、少しだけ、手伝ってくれないか」
俺は、努めて普段通りの声で、黄色い妖精に声をかけた。
「お前の魔力なら、この土地を、少しは癒せるんじゃないか」
「……やってみる」
妖精は、静かに両手を広げ、荒れた大地へと、淡い緑の魔力を注ぎ込み始めた。
『――精錬王よ…おねがいっ!』
膨大な魔力が、亀裂の走った土地へと染み渡っていく。乾いた土に、じんわりと潤いが戻り始めた。
「――すごい……」
メメが、感嘆の声を漏らす。
俺は、体の奥で燻り続ける熱を抱えたまま、静かに、その光景を見守り続けた。
◇
数日をかけて、黄色の妖精は根気強く、その力を大地へと注ぎ続けた。
「――これで、しばらくは、様子を見るしかないな」
俺は、静かに撤退の指示を出した。皆には、進化の予兆のことは、まだ告げていなかった。
(――報告は、まず陛下に)
俺は、その体に燻る熱を静かに抱えたまま、皆と共に、魔王城への帰路についた。
◇
それから、しばらく経った頃。
魔王城に届いた報告書に、俺は静かに目を通していた。
「――王都跡地の、地下水脈が新たな形で安定し、周辺の大地が、以前よりも遥かに広範囲にわたって、豊かな実りをもたらしているとのことです」
報告に上がった斥候の言葉に、リアーナが感慨深げに頷いた。
「――そうか。……あの妖精の力は、破壊だけでなく、新たな恵みをも生んだ、というわけだな」
「はい。……作物の収穫量は、戦前の水準を、大きく上回っているとのことです」
その報せを聞き、俺は静かに、あの日、荒れ果てた大地に力を注ぎ続けていた、妖精の姿を思い出していた。
(――少しは、償いになっただろうか)
答えの出ない問いを、俺はそっと、胸の内にしまい込んだ。




