第36話 水魔爆弾と『仕込み』
水路を辿って辿り着いた先、そこには、想像を絶する広さの鍾乳洞が広がっていた。
「――これは、すごい……」
メメが、頭上に広がる巨大な空間を見上げ、思わず声を漏らした。
天井には、無数の鍾乳石が垂れ下がり、地下水が反射する淡い光が、幻想的な陰影を作り出している。
「――さて。ここからが、本番だ」
俺は、静かに懐から、常世の塔で手に入れた『封印の呪符』を取り出した。
以前、暗黒龍のゾンビ戦で、大量の魔素を吸収させたままにしていた品だ。
「――べべ、頼めるか」
「承知した」
べべが、翼を広げ、静かに詠唱を始めた。
『――水素分解』
淡い光と共に、周囲の水分子が分解され、目に見えない気体が、天井付近へと立ち昇り始める。
「水素は、空気より軽いからな。……天井に自然と溜まっていく」
俺は、その様子を見上げながら、静かに解説した。
「ここに、酸素と、そして呪符に蓄えた魔素を混ぜ込む」
俺は、呪符を掲げ、静かに魔力を解放した。
『――封印の呪符、開放』
吸収されていた大量の魔素が、水素の充満する空間へと、静かに拡散していく。
「――黄色い妖精、お前の出番だ」
「わーってるよー! こういうの、得意分野ー!」
妖精が、軽やかに宙を舞い、天井付近の気体を、丁寧に、しかし大量に調整していく。
「あんまり急に混ぜると、爆発しちゃうから、ゆーっくりね」
「――当たり前のように、恐ろしいことを言ってるな、お前」
ルピンが、若干引きつった顔で呟いた。
◇
数時間をかけて、鍾乳洞の天井付近には、膨大な量の水素と酸素、そして魔素が、絶妙な均衡を保ちながら充満していった。
「――よし、これで準備は整った」
俺は、懐から、小型の爆弾を取り出した。
「これに、長い導火線を繋ぐ。……着火から爆発まで、十分の猶予を持たせる」
「――十分あれば、脱出できるってこと?」
ノノの問いに、俺は頷いた。
「ああ。潜入経路の水路を、全速力で戻れば、十分に間に合う距離だ」
俺は、慎重に爆弾を、鍾乳洞の中心――最も水素と魔素が濃密に溜まった一角へと設置した。
「これを、『水魔爆弾』と呼ぶことにしよう」
「――随分と、物々しい名前だな」
「それだけの威力を、期待しての名だ」
俺は、静かに導火線の先端を確認した。
「――全員、準備はいいか」
「いつでも」
「行けます」
「望むところだ」
「ボクも、準備万端ー!」
俺は、静かに導火線に火を灯した。
じりじりと、火花が導火線を伝っていく。
「――行くぞ! 撤退開始だ!」
俺たちは、来た道を全速力で駆け戻った。
「――十分だ! 走り続けろ!」
水路を抜け、地上へと辿り着いた頃には、既に導火線が燃え尽きようとしている時間が迫っていた。
「――伏せろ!」
俺の号令と共に、全員が身を屈めた瞬間だった。




