第34話 密命と『王都攻略』
戦況の劣勢が続く中、俺は魔王城の奥、アリマンの私室へと呼び出されていた。
そこには、リアーナの姿もあった。
「――ディア。先の提案、改めて聞かせてもらおう」
アリマンの言葉に、俺は静かに頷いた。
「正面の戦力差は、覆しようがありません。……ですが、戦争の"目的"そのものを断つことは、可能です」
「目的、とは」
「人族が戦を仕掛けた理由は、資源と、そして――王が抱える資金繰りの解決。……ならば、その根本、王都そのものを揺るがせば、戦を続ける大義も、資金も、共に崩れます」
「――王都を、攻めると言うのか」
リアーナが、僅かに目を見開いた。
「はい。……幸い、男爵領には、人族が掘った地下トンネルがある。あれを、逆に利用させてもらいます」
「なるほど、な……。人族が我らを奇襲するために使った道を、そのまま我らが逆走する、というわけか」
アリマンが、静かに顎に手を当てた。
「――だが、これは、極めて危険な任務になる。少人数での、敵国最深部への潜入だ」
「承知の上です」
「メンバーは」
「俺、ルピン、ノノ、メメ、べべ。……そして」
俺は、一度言葉を切った。
「黄色い妖精を、連れて行きたいと考えています」
アリマンの表情が、僅かに曇った。
「――あれは、危険すぎる。制御の効かぬ力だ」
「承知しています。だが、王都の主要施設を、確実に無力化するには、あれほどの火力が必要です」
「……」
アリマンは、しばし沈黙した後、静かに息を吐いた。
「――分かった。だが、条件がある。上空から都市を焼くような真似は、絶対にさせるな。あれをやれば、被害が測定不能になる」
「はい。……地上、それも地下からの一撃に留める算段です」
「――ちょうどそこに、ちょうどいい奴がいるじゃない」
不意に、扉の外から、軽い声が響いた。
「――お前、盗み聞きしていたのか」
俺が振り返ると、黄色い妖精が、けらけらと笑いながら顔を出した。
「盗み聞きじゃないもーん、聞こえてきちゃっただけー! ボクも行くー! 面白そうだしー!」
「――陛下」
俺は、静かにアリマンを見た。
アリマンは、深く溜息をついた。
「……好きにせよ。だが、必ず、ディアの指示に従え」
「はーい!」
妖精は、あっさりと頷いた。その様子に、アリマンが苦笑する。
「――昔から、こうなのだ。あれには、誰も逆らえん」
その言葉には、単なる呆れだけでなく、どこか、深い信頼のようなものも滲んでいた。
◇
出立の前、俺は改めて、仲間たちを集めた。
「――今回の任務、リアーナとアリマン様からの、極秘の密命だ」
「――王都を攻める、ってやつね」
ノノが、静かに頷いた。
「主要施設の破壊が目的だ。人族の戦争継続能力そのものを、断つ」
「私たちも、ようやく、本格的に力を貸せる時が来たんですね」
メメが、静かに拳を握った。
「――我も、同行しよう」
べべが、静かに頷く。
「氷雪の理は、隠密行動にも役立つはずだ」
「――お前ら、ボクと一緒だと退屈しないと思うよー!」
黄色い妖精が、無邪気に飛び跳ねる。
「――頼りにしてる。だが、忘れるな。今回は、力業じゃない」
俺は、静かに全員を見渡した。
「知恵と連携で、この戦争そのものを終わらせる」
「――望むところだ」
ルピンが、獰猛に笑った。
こうして、六人の攻略隊は、静かに、男爵領の地下へと向けて出立した。




