第32話 劣勢と『代償』
「――デルポポ様、しっかりしてください……!」
メメが、崩れ落ちるデルポポに駆け寄り、必死に回復魔法を紡いだ。
「――『癒しの風』! お願い、効いて……!」
淡い光が傷口を包むも、出血は容易には止まらなかった。
「がふっ……! すまん、な……。詰めが甘かったようだ」
デルポポが、苦悶の表情を浮かべながらも、僅かに笑った。
「まさか、あの御大が、自ら最前線に……」
「指揮は……、副官に……」
「駄目です、喋らないで……!」
ノノが、周囲の敵を『黒雷雲』で薙ぎ払いながら、必死に叫んだ。
「メメ、『清心の光』も使って! 少しでも安定させないと……!」
「はい……! 『清心の光』!」
二人の懸命な処置により、デルポポは辛うじて一命を取り留めた。だが、その戦線離脱は、防衛部隊全体に、大きな動揺を与えた。
「デルポポ様が、戦線を離れられた……!」
「くそ、指揮系統が――!」
副官たちが、混乱の中でなんとか部隊をまとめようとするが、統率力の低下は、戦況にそのまま直結していた。
「――押されてる……! こんなの、想定してなかった……!」
ノノが、歯を食いしばりながら、前線を睨みつけた。
「メメ、下がって……! 私が時間を稼ぐから!」
「駄目、ノノだけになんて……!」
「いいから!」
二人の悲痛な奮戦もむなしく、第一神殿騎士団の侵攻は、着実に内側へと食い込んでいった。
◇
戦況は、公爵領方面でも、じわじわと悪化の一途を辿っていた。第二、第三の両騎士団長を討ち取ったとはいえ、指揮官を失った兵たちは、それでも数を頼りに押し寄せ続けていた。
「――数だけは、一向に減らねぇな……!」
スルートが、苦々しげに舌打ちする。
「あちらも、あちらで押されてやがる……!」
ルピンが、荒い息を吐きながら、状況の悪化を肌で感じ取っていた。
(――このままじゃ、まずい)
魔王国全体を包む戦線が、じりじりと後退を強いられていく。人数差という、覆しようのない現実が、着実に牙を剥き始めていた。
◇
魔王城の会議室では、次々と届く戦況報告に、重い沈黙が満ちていた。
「――デルポポの負傷、確認した」
アリマンが、静かに、しかし重々しく告げた。
「命に別状はないが、当面の指揮は執れぬだろう。……しかも、あのゴウロウ自らが、直接手を下したというのか」
「戦況は、全体的に劣勢……。人数差が、想定以上に響いております」
リアーナが、静かに報告を続ける。
「このままでは、本当に、押し切られるかもしれん」
その言葉に、その場の空気が、一段と張り詰めた。
俺は、静かに拳を握りしめた。
(――正面からでは、勝てない。だからこそ)
「――陛下」
俺は、静かに口を開いた。
「一つ、提案があります」
アリマンの視線が、俺へと向けられる。
「正面の戦況をひっくり返す手立てが、まだ、一つだけ残っています」
「――聞かせてくれ、ディア」
俺は、静かに、これまで温めてきた策の全貌を語り始めた。




