第31話 地下の牙と『奇襲』
その頃、男爵領の地下――誰にも知られていなかったはずのトンネルの奥で、静かな異変が起きていた。
「――なんだ、この揺れは……!」
守備にあたっていた魔族の兵が、足元の異常に気づいた時には、既に遅かった。
――ドゴォォォンッ!!
地面が爆ぜ、無数の穴が一斉に開いた。
「第一神殿騎士団、突撃――!!」
数年をかけて掘り進められた地下トンネルから、完全武装の騎士たちが、堰を切ったように溢れ出した。
その先頭に立つのは、白髪の巨躯の老将――統括神殿騎士団長、剣聖ゴウロウその人だった。
「――まさか、自ら、先陣を切るとはな……!」
守護・事務部門を率いるデルポポが、報告を受けて即座に駆けつけた頃には、既に複数の拠点が制圧されかけていた。
「――侮っていたつもりはなかったが、これほど大規模な仕掛けだったとは…」
デルポポは、眼鏡の奥で目を細めながら、冷静に指示を飛ばした。
「防衛ラインを、第二陣まで下げよ。……無理に食い止めようとするな」
「デルポポ様、あちらの拠点が――!」
「くっ……! 分かっている!」
◇
同じ頃、ノノとメメも、デルポポ隊の後方支援として戦場に立っていた。
「『黒雷雲』――!」
ノノの雷撃が、突入してきた騎士の一角を打ち払う。
「メメ、バフを!」
「――『身体能力向上』!」
淡い光が、周囲の魔族兵を包む。
「これだけの数、想定より遥かに多い……!」
ノノが、額に汗を滲ませながら唸った。
「デルポポ様も、前線に出ずっぱりで……」
メメが、心配そうに指揮官の背中を見つめる。
デルポポは、自ら剣を取り、押し寄せる騎士たちと切り結んでいた。
「――全知の王、その本領、見せてもらおうか」
デルポポの操る攻撃魔法は、魔族トップクラスと称されるだけあって、凄まじい精度と威力を誇っていた。
「――ぐああッ!」
一撃で、数名の騎士が同時に打ち払われる。
だが、そこへ、ゴウロウ自身が、静かに歩み出た。
「――全知の王、か。悪くない…」
「――統括神殿騎士団長、剣聖ゴウロウ……! 自ら出張るとは」
「我が国の命運がかかった戦だ。……座して待つ理由もあるまい」
ゴウロウが、静かに剣を抜いた。
「――これでも、少々、腕には覚えがある」
「な……!」
一合も交えぬうちに、デルポポの魔術障壁が、まるで存在しないかのように断ち斬られた。
「デルポポ様、後ろです――!」
ノノの叫びに、デルポポが振り返った、その一瞬。
「――ぐっ……!」
ゴウロウの放った一閃が、デルポポの脇腹を深々と切り裂いた。
「デルポポ様――!!」
メメの悲鳴が、戦場に響き渡った。
「――くく。全知の王とやらも、この程度か」
ゴウロウは、静かに剣を収めながら呟いた。
「――だが、随分と粘る国だ。今日のところは、この戦果で十分としよう」
そう言い残し、ゴウロウは悠然と踵を返した。




