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【悲報】最弱インプ、勇者を事故死させてスキルを強奪してしまう~成り上がり魔王譚~  作者: 下総山中
奪われしスキル、成り上がりの道

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第3話 高嶺の花と『レベリング』

「……今日から、おぬしは『ディア』だ」

 その言葉とともに額から流れ込んできた膨大な魔力と温もりが、ゆっくりと全身に馴染んでいく。

 視界が少し高くなり、全身の関節に満ちる力が一回り跳ね上がった感覚があった。

「ふふ、良い顔になったな、ディア」

 リアーナは満足そうに微笑むと、黒いローブの裾を翻した。

 去り際、彼女は洞窟の出口で振り返り、どこか愛おしそうに、そして厳しく俺に言い放った。

「よいか、ディア。当面はこの洞窟から出るな。いま、ルナーラ村の周辺には私を追ってきた最悪の『S級冒険者』がうろついている。……安心しろ、あやつらは私が引きつけてやる」

「え……?」

 言うや否や、リアーナは洞窟の外へと出ると、夜空に向けて膨大な漆黒の魔力を爆発させた。

 周囲の森が一瞬でざわめき、遠くから強力な気配(S級冒険者)たちが一斉にこちらへ警戒を強めるのが分かった。

「ククッ……追ってこい、人間ども! 魔王城へとな!」

リアーナはあえて派手に、目立つように空へと舞い上がった。

追っ手を自分に引きつけ、この洞窟と俺から目を逸らさせるための、命がけの離脱デコイ

「……私がいる場所は、魔界の頂――魔王城だ。……インプのままでは到底来られる場所ではない。もし私に追いつきたいのなら、この狭い洞窟の中で知恵を絞り、血を吐く思いで『進化』を目指すがいい!」

夜空に響く彼女の声を最後に、気配は遠くへと消えていった。

月光に照らされる空を、俺は口を開けたまま見送っていた。

……胸の奥が、熱い。

追っ手を引き連れて去っていった彼女の優しさと、圧倒的な強さ。

(……追いつきたい)

あの美しく、強い存在の隣に立ちたい。

リアーナが派手に惹きつけてくれたおかげで、ルナーラ村に集まっていたS級冒険者たちは、それから一週間ほどで彼女の痕跡を追って村から離れていった。

だが、俺は焦って外には出なかった。

この狭い洞窟の中で、誰にも知られずに強くなる。リアーナに胸を張って会いに行けるくらい、圧倒的になるまでは――。

「よし……外に出ず、誰にも見つからずに効率よく熟練度を稼ぐ仕組みを作る」

俺は洞窟の中で静かに腕を組んだ。

勇者スキルからもたらされた高い知恵が、凄まじい速度で頭脳を回転させる。

ターゲットは、洞窟の湿地帯に生息する『スライム』だ。

スライムは『切断されると分裂して増殖する』という習性がある。さらに観察を進めると、肉などの餌を与えずとも、洞窟の奥から湧き出る『湧き水』に含まれる微小な魔力を吸収するだけで、勝手に増殖を繰り返すことが分かった。

水さえあれば、無限に増える。ならば――。

1. 無限増殖用水路:湧き水を洞窟の傾斜に沿って引き込み、水路を作る。水を得たスライムは自然発生的に増殖し、キャパオーバーを起こして水流に乗って下層へ流れていく。

2. 自動切断&水車シュレッダー:水路の末端に、鋭く削った木刃の網と、水流で永久に回転し続ける『木の歯車』を設置。流れてきたスライムは網で自動切断されて爆発的に増え、そのまま歯車に巻き込まれて核を打ち砕かれ消滅する。

スライムが増えれば増えるほど水流のキャパが圧迫され、より多くのスライムが歯車へ送り込まれる――全自動ネズミ算式レベリングシステムの完成だ。

さらに俺は、ただ寝て待つこともしなかった。

水車の手前にあえて小さな抜け道を一箇所だけ作り、全自動ルートから溢れ出たスライムが洞窟内に漏れ出るようにしたのだ。

手には、洞窟内で拾った頑丈な『棍棒』。

「ハッ、フッ、ハッ――!!」

全自動で経験値と【仕掛け(罠)】の熟練度がチャリンチャリンと入り続ける傍ら、俺は洞窟内を徘徊し、溢れ出てきたスライムを棍棒で叩き潰し続けた。

打撃のインパクトの瞬間に全筋力を集中させ、最小限の動線で最大の破壊力を生み出す。

自作の『スリップ』で体制を崩させ、間髪入れずに棍棒を叩き込む。

手動と自動。二つの極限的なレベリングが、暗闇の中で組み合わさった。

――そして、一年が過ぎた。

外の季節が四季を巡る間、俺は極力洞窟から出なかった。

ただひたすらに湧き水を調整し、壊れた歯車を直し、暗闇の中で棍棒を振り続け、スライムを殺し続けた。

最弱の雑魚モンスターであるインプが、一年間、不眠不休で膨大な経験値と熟練度を貪り続けたのだ。

数ヶ月が経った頃、バツンッ! と頭の中で何かが弾ける壮大な音が響いた。

『――熟練度が限界値を突破しました』

『――【仕掛け(罠)】の熟練度が極限に達しました』

続いて数ヶ月後…

『――【棒術】の熟練度が限界に達しました』

『――【スリップ】のレベルが極限まで上昇しました』

そして一年経った頃…

『――蓄積された経験値が規定値を大幅に超越しています』

『――種族【インプ】の進化基準を満たしました』

一年間、殆ど光を浴びていない俺の全身から、眩いばかりの漆黒の魔力が溢れ出す。

俺は使い古してボロボロになった棍棒を静かに握り締め、暗闇の中で冷たく口角を上げた。

「……これで少しは追いついただろうか……リアーナ……」

そう言って、この日は何かの糸が切れたかのように倒れ込んだ。


最弱の悪魔は、誰も見たことがない膨大な『極限の熟練度』を引っ提げて、ついに最初の進化を遂げようとしていた。

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