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【悲報】最弱インプ、勇者を事故死させてスキルを強奪してしまう~成り上がり魔王譚~  作者: 下総山中
魔王国で勤務開始、目指せ魔王!!

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第29話 諜報と『開戦』

「――報告いたします」

魔王城の会議室に、擬態を解いたサキュバスの女が跪いた。かつて辺境伯領で救出した、あの同郷の生存者の一人だった。

「公爵領にて、大規模な軍の動きを確認しました。……第二、第三神殿騎士団が、既に集結を始めています」

「――剣聖ゴウロウは」

リアーナが、静かに問う。

「王都を出立したとの情報が。……あの御方が動くのは、随分と久方ぶりのことかと」

その場に、緊張が走った。

「――統括神殿騎士団長、剣聖ゴウロウ。人族最高戦力の出陣か」

アリマンが、重々しく呟いた。

「各騎士団の指揮官についても、判明しております」

サキュバスの女が、資料を差し出した。

「第二神殿騎士団長、ハクロウ。剣豪の実力者と噂される、若き猛将です。第三神殿騎士団長は、モカ。……治安維持を主に担ってきた者ですが、腕は確かとのこと」

「して、第一は」

「――統括のゴウロウ様が、兼任されている、と」

その一言に、会議室の空気が僅かに強張った。

「――自ら、最前線に立つつもりか」

リアーナが、静かに眉をひそめる。

俺は、静かに状況を整理した。

「人族側は、長引く干ばつと貴族の汚職で、資金も資源も枯渇している。……ライオネルに頼ることもできず、背水の陣を敷いた、というところでしょう」

「豊富な資源を持つ我らの土地、か。……人族が長年欲しがっていたものだな」

デルポポが、眼鏡を押し上げながら淡々と言った。

「これまでは、曖昧な国境で小競り合いを続けてきただけの間柄でした。……攻めきれない人族、守れていればいい我ら。その均衡が、ついに崩れた、ということでしょう」

「――全神殿騎士団を投入、という報告もございます」

サキュバスの女が、さらに続けた。

「第二、第三騎士団は、公爵領から正面より侵攻。……そして、第一騎士団の動向が、依然として不明です」

「第一は、王都守護担当のはずだが……。それを動かすとなると」

リアーナが、眉をひそめる。

「――何か、別の狙いがある、ということか」

俺は、静かに思考を巡らせた。

「侵攻ルートは、通常、海・平地・森林の三択。……海は大型海獣の脅威が多く、森林ルートも禁忌の樹海を抜ける必要があり、大軍には向かない。公爵領を除き、残るは、辺境伯領か、男爵領か」

「辺境伯領は、以前、我らが徹底的に破壊した場所だな」

「はい。……であれば、男爵領側に、何か仕掛けがある可能性が高いかと」

「調査を進めよ」

アリマンの指示に、俺は深く頷いた。

数日後、追加の報告が届いた。

「――男爵領の地下に、大規模なトンネルが掘削されている痕跡を確認いたしました」

「トンネル、だと……!」

スルートが、初めて険しい表情を見せた。

「数年前から、極秘裏に進められていたものかと。……第一神殿騎士団は、このトンネルを通じて、我が国の内側から奇襲を仕掛ける腹積もりでしょう」

「――なるほどな。二正面に見せかけて、実質は三方向からの侵攻、ということか」

デルポポが、静かに分析を口にした。

「私の管轄する守護・事務部門が、防衛の要となる。……備えを固めねば」

「頼んだぞ、デルポポ」

アリマンの言葉に、デルポポは静かに頭を下げた。

会議の後、俺はふと、もう一つの報告が引っかかっていることに気づいた。

「――エルフ族の誘拐、という話も出ていたな」

「ああ。汚職に手を染めた貴族どもが、亜人の奴隷を好むという噂がある。……ライオネルから誘拐すれば関係が悪化する。だが、我らからであれば、足がつかないと踏んでいるのだろう」

リアーナが、苦々しげに答えた。

「神殿騎士団は、正義感が強い者が多い。……このような汚れ仕事は、恐らく別動隊――冒険者を雇った部隊が担うはずだ」

「――ニコル、か」

俺の脳裏に、あの優男の顔が過った。

「奴なら、金になるとあらば、喜んで請け負うだろうな」

「因縁のある相手のようだな、ディア」

リアーナが、僅かに気遣うような視線を向けた。

「……ああ。ドライアドの一件から、燻り続けている借りがある」

俺は、静かに拳を握った。

戦の気配が、確実に濃くなっていく。

その夜、俺は執務室の窓から、遠く公爵領の方角を見つめていた。

(――人数は、圧倒的に向こうが上だ。百五十万対、十万)

数の暴力だけで言えば、絶望的な差だった。だが、これまで培ってきた知略と連携があれば、活路は必ずある。

「――ディア。何を考えている」

リアーナが、静かに歩み寄ってきた。

「これから起こることの、全体像を組み立てていた」

「ふむ。……お主のことだ、既に何か思いついていそうだな」

「まだ、断片的にしかない。……だが、この戦、正面から力比べをするだけでは終わらせない」

俺は、静かに窓の外を見つめ続けた。

開戦は、もう間近に迫っていた。

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