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【悲報】最弱インプ、勇者を事故死させてスキルを強奪してしまう~成り上がり魔王譚~  作者: 下総山中
魔王国で勤務開始、目指せ魔王!!

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第28話 天使と『記憶』

常世の塔の最上階、再びナアマの前に立った俺たちは、以前とは違う面構えで、玉座の間へと足を踏み入れた。

「――また来たか。しぶとい奴らよ」

ナアマが、興味深げに目を細める。

「今回は、ただ挑みに来たわけじゃない」

俺は、静かに手にしたストレンジスピアを構えた。

「――お前に、聞きたいことがある」

「ほう。……我に聞きたいことがあるなら、まずは戦って勝つことだな」

「――元から、そのつもりだ」

戦いは、以前とはまるで様相が異なっていた。

「――来るぞ! 右手から幻惑が来る、皆、備えろ!」

リアーナが、静かに『予知』を発動させ、先んじて声を上げる。

「な――!?」

ナアマが放った不可視の幻惑波が、俺たちの体を掠める寸前で、全員が的確に回避行動を取った。

「――ほう。予知持ちか。厄介な」

「あら、光栄だね」

リアーナが、涼やかに笑う。

「ノノ、メメ、動きを合わせろ!」

「――『瞬足』!」

ノノが、俊敏さを一段階引き上げ、ナアマの周囲を縦横無尽に駆け巡る。

「『黒雷雲』――!」

雷撃が、ナアマの障壁を掠めるように直撃する。

「――くっ、目障りな……!」

「私も……! 『回避』!」

メメが、ナアマの反撃を紙一重で躱しながら、間髪入れずに支援魔術を紡いだ。

「――『身体能力向上』、『清心の光』!」

淡い光が、全員を包み込む。

「――べべ、頼む!」

「承知した」

べべが翼を大きく広げ、氷の礫を無数に撃ち出す。

「『氷結槍雨』――!」

続けて、その口から、凍てつく吐息――ドラゴンブレスが放たれた。

――ゴォォォッ!!

冷気の奔流が、ナアマの周囲の空間ごと凍りつかせていく。

「な、なんという冷気……!」

「アレン、ユート、カリナ! 陽動を!」

「「「了解!」」」

眷属となった三人が、ナアマの意識を分散させるように、左右から次々と斬りかかる。

「ちょこまかと、鬱陶しい奴らよ!」

ナアマの意識が、明確に分散していった。

「――今だ!」

俺は、その隙を見逃さなかった。

ストレンジスピアを構え、槍に宿る意思へと語りかける。

(――力を貸せ)

『――承知した。我が名は、神殺し』

槍の穂先に、禍々しくも神々しい光が纏わりつく。

「『神殺』――!」

――ズドンッ!!

放たれた一撃が、ナアマの纏う光の障壁を、まるで薄紙のように貫き、粉々に打ち砕いた。

「な……! 我が障壁が……!」

「――もらった!」

俺は、間髪入れずに二撃目を、ナアマの胸元へと突き立てた。

――ドガァァァンッ!!

「――が、はッ……」

ナアマの体が、大きくよろめき、地に膝をついた。

「……見事、だ。……この短期間で、ここまでの成長を遂げるとは、な」

「――さて。約束通り、聞かせてもらおうか」

俺は、槍を引きながら、模写してきた紋様を差し出した。

「この文字の意味を、教えてほしい」

ナアマは、しばし紋様に目を落とした後、静かに口を開いた。

「――これは、古き封印の術式言語。……我ら天使の間に伝わる、極めて古い文字だ」

「読めるのか」

「読むだけなら、な。……意味としては、"何者も、これより先へ進むことなかれ"という、警告の類だろう」

「――それだけ、か」

「それだけだ。……この文字が、どのような経緯で刻まれ、何を封じているのか、我は知らぬ。……この塔の紋様も、同じ言語で書かれているというだけのこと。由来までは、我の管轄の外だ」

ナアマは、興味なさげに肩をすくめた。

「――なるほどな」

俺は、静かに槍を収めた。

「教えてくれて、感謝する」

「くく……。まあいい。……次に来る時は、もっと楽しませてくれよ、成り上がり者」

ナアマは、そう言い残し、静かに姿を消していった。


――ナアマの姿が完全に消え去る間際、その足元に、ふわりと一枚の布地が舞い落ちた。

「――あれは」

俺が拾い上げると、それは、艶やかな光沢を放つ、際どい意匠のドレスだった。

俺は、思わず鑑定を発動させた。

『――恩寵武具:誘惑のドレス。纏う者の魅力を極限まで引き出し、対象を強制的に魅了する』

「……なんつー効果だ」

俺は、思わず視線を逸らした。

「――ちょっと、それ」

ノノが、目を輝かせながら覗き込んでくる。

「すごい……布地からして、只者じゃない感じがする。……着てみたら、私、もっと魅力的になれちゃったりして?」

「な、ノノ……! そんな軽々しく……!」

メメが、頬を赤らめながら、ノノの袖を引っ張った。

「で、でも……。私たち、元々サキュバスですし……。その、こういうものに耐性が全くないとは、言えないというか……」

「メメまで、そっち側なの!?」

「い、いえ! そういう意味では……!」

二人が、あたふたと言い合う様子を、リアーナが面白そうに眺めていた。

「――ふむ。魅了を強制する恩寵武具、か。……確かに、只者の品ではないな」

リアーナは、静かにそのドレスへと手を伸ばした。

「――これは、私が預かっておこう」

「リアーナが?」

「ああ。……こういう類の代物は、下手に扱えば、大きな災いを招く。私が管理しておくのが、一番安全だろう」

その言葉に、ノノとメメが、揃って何やら複雑な表情を浮かべた。

「……なんか、リアーナ様が着たら、それはそれで、危険な気がします」

メメが、ぽつりと呟く。

「――何か言ったか?」

「い、いえ! なんでも……!」

リアーナは、悪戯っぽく笑いながら、ドレスを丁寧に畳み、懐へとしまい込んだ。

「――さて、収穫は十分だ。戻るとしようか」

こうして、俺たちは、新たな謎と、そして一枚の危険な戦利品を手に、常世の塔を後にした。


塔を出た後、俺たちは焚き火を囲みながら、改めてアオスのことを話し合っていた。

「――ナアマは、由来までは知らないと言っていたな」

俺の言葉に、リアーナが、静かに口を開いた。

「――その話なら、私が知っている。……いや、正確には、私の一族に伝わる、古い記録の中に、な」

「――リアーナが?」

「真祖として生きる中で、様々な文献に触れる機会があった。……アオスの民が、繁栄の果てに、あろうことか主神へと弓を引いたという話は、私も耳にしたことがある」

リアーナは、遠い目をしながら続けた。

「戦いは、百日続いたという。……だが、最後は、主神の圧倒的な力の前に、一夜にして踏み潰された。当時の魔王アルカナが、最後の力で生き残りを、今の中央大陸へと転移させたことも……。記録の中では、そう伝えられている」

「――その後のことは」

「知らん。……都市がどうなったかまでは、さすがに記録にもなかった。だからこそ、今日まで、誰も真実に辿り着けなかったのだろうな」

俺は、静かに頷いた。

「――なるほどな。俺たちが見た光景は、誰も知らなかった"その後"、というわけか」

「そういうことだ」

数日後、俺たちは魔王城へと帰還し、アリマンへの報告に臨んだ。

「――アオスの生き残り、か」

アリマンは、静かに、そして重々しく頷いた。

「我らの遠い祖にあたる者たちだろう。……よく、見つけてくれた」

「これを、陛下に」

俺は、丁重に回収した恩寵武具――魔を統べし王冠、覇者の杖、創世のローブを差し出した。

「――これは……」

「歴代の魔王に相応しき者へ、力を貸す品だそうです。……今の陛下にこそ、相応しいかと」

アリマンは、暫し、それらをじっと見つめた後、静かに受け取った。

「――ありがたく、頂戴しよう。……我が祖の想いも、ここに継がれるということか」

「はい」

「して、あの封印の扉は」

俺は、静かに首を振った。

「まだ、開けてはいません。……ナアマも、由来までは知らぬとのことでした。生半可な覚悟で開けるべきではないと、忠告も受けています」

「……そうか。ならば、無理をする必要はない。時が来れば、また向き合えばいい」

アリマンは、静かに頷いた。

「――良い土産と、良い謎を、共に持ち帰ってくれたようだな」

「はい。まだ、解き明かせていないことばかりですが」

俺は、静かにそう答えながら、あの扉に刻まれていた紋様を、脳裏に思い返していた。

(――あの扉の奥に、何が眠っているのか)

答えの出ないその問いを、俺はそっと胸の奥にしまい込んだ。

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