第27話 暗黒龍と『魔槍』
隠し階段を下りた先、俺たちは二つの空間を見つけた。
一つは、金銀財宝が眠る宝物殿。もう一つは、大きく封印された、謎の扉だった。
「――この扉、なんだ」
俺が近づくと、リアーナが眉をひそめた。
「……分からん。私の知る封印術とは、まるで違う理を纏っている」
扉の表面には、複雑な紋様が刻まれ、微かな脈動を繰り返している。どこか、見覚えのあるような、ないような、奇妙な既視感があった。
「情報だけ持ち帰ろう。……模写しておく」
俺は、扉に刻まれた紋様を、丹念に書き写した。
◇
宝物殿の奥へと進むと、そこには、山と積まれた金銀財宝と共に、一振りの槍が静かに横たわっていた。
「――これは」
俺は鑑定を発動させた。
『――ストレンジスピア。神殺しの槍。使用者の熟練度に応じて、その真価を発揮する』
「神殺し……」
その名に、その場の全員が息を呑んだ。
俺が手を伸ばし、槍の柄に触れた瞬間――
――ザワリ、と脳内に、直接語りかける声が響いた。
『――ようやく、か』
「な……!?」
『我が主、アルカナは、既に事切れたようだな。……長い、眠りであった』
「――お前は」
『我は、この槍に宿りし意思。……主を失って久しいが、丁重に弔われたこと、感謝する』
槍から伝わる意思は、静かに続けた。
『次なる主を、探していた。……お主の魂の波長、アルカナのそれに、よく似ている。デーモンロード――彼の者が至った境地に、お主もまた至るであろう』
「……俺を、次の主に選ぶ、と?」
『左様。この槍は、使い手の熟練度に応じて、その力を開放する。……今のお主では、まだ持て余すだろうがな』
「――構わない。俺は、これまでも、地道に積み上げてきた身だ」
俺の言葉に、槍から伝わる意思が、微かに笑ったような気配がした。
『――良い返答だ』
◇
その時、財宝の山の奥から、重い足音が響いた。
「――何か、来る……!」
メメの『察知』が反応する。
姿を現したのは、腐り果てた鱗を纏う、巨大な竜の骸――暗黒龍のゾンビだった。
「――こんな場所にまで、守護者がいたか」
俺は、手にしたばかりのストレンジスピアを構えた。
「グ、ォォォオオオッ……!」
咆哮と共に、暗黒龍のゾンビが襲いかかってくる。
「散開しろ!」
俺たちは即座に散り、それぞれの得物で応戦した。
「『黒雷雲』――!」
ノノの新術式が炸裂し、竜の巨躯に電撃が走る。
「メメ、バフを!」
「――『身体能力向上』!」
「アレン、ユート、カリナ! 側面から!」
眷属となった三人も、的確な連携で援護に加わる。
「ハアッ!」
俺は槍を振るうも、まだ持て余す新たな得物に、僅かな違和感を覚えていた。
(――まだ、この槍の真価を引き出せていない)
だが、それでも、これまでの経験が、着実に暗黒龍のゾンビを追い詰めていった。
「――今だ! 封印の呪符を!」
リアーナの号令に、俺は懐から、常世の塔で手に入れた呪符を取り出した。
『――封印の呪符、発動』
呪符が、暗黒龍のゾンビの膨大な魔素を、みるみるうちに吸い込んでいく。
「グ、ル、ゥ……」
動きを大きく鈍らせた暗黒龍のゾンビへ、全員の攻撃が一斉に叩き込まれた。
――ドガァァァンッ!!
竜の骸が、ゆっくりと崩れ落ち、静寂が戻る。
「――終わった、か」
俺は、魔素を吸い込んで重くなった呪符を、丁寧に懐へとしまった。
「これは、いつか役に立つ時が来るだろう」
◇
戦いの後、ノノとメメが、改めてあの封印の扉を見つめていた。
「――この文字、見たことある……」
ノノが、ぽつりと呟いた。
「メメも?」
「はい……。確か、常世の塔で見た、あの模様に……似てる、気がします」
「――我にも、覚えがある」
べべが、静かに口を挟んだ。
「かの塔の随所に、確かに似たような紋様があった」
俺は、静かに考えを巡らせた。
「――なら、答えを知っているのは」
「ナアマ、か」
リアーナが、静かに頷いた。
「あの天使に、聞きに行く価値はありそうだな」
「――ここから、常世の塔までは、かなりの距離がある。……幸い、こいつがある」
俺は懐から、常世の塔の宝物殿で拾って以来、使い道のなかった『移動のオーブ』を取り出した。
「一度きりの使い捨てらしいが……。ここで使わない理由もないな」
俺がオーブに魔力を込めると、淡い光が全員を包み込んだ。
――パリンッ。
オーブが、役目を終えたように音を立てて砕け散る。
視界が切り替わった瞬間、俺たちは、見覚えのある塔の前に立っていた。
「――着いた、か。……便利なものだったな」
「ああ。……もう使えないのが、少し惜しいくらいだ」
こうして、俺たちの旅は、常世の塔――誘惑の天使ナアマの元へと、続くことになった。




