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【悲報】最弱インプ、勇者を事故死させてスキルを強奪してしまう~成り上がり魔王譚~  作者: 下総山中
魔王国で勤務開始、目指せ魔王!!

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第25話 仲間と『休日』

ライオネル王国から帰還した俺は、リアーナから久方ぶりの休暇を言い渡されていた。

「――たまには、羽根を伸ばすがいい。お主も、随分と働き詰めだったろう」

「ありがたく受け取っておく」

せっかくの機会だ。俺はまず、デルポポ隊で研究に励んでいるというノノの元へと足を運んだ。

「――お、ディア。丁度いいところに」

デルポポ隊の資料室で見つけたノノは、机の上に山積みの魔導書を前に、難しい顔で唸っていた。

「何をしてるんだ」

「攻撃魔法の新開発。……デルポポ様の手伝いをしながら、合間に研究させてもらってるの」

ノノは、得意げに胸を張った。

「『黒炎槍』『黒流岩』に続く、新しい術式を考えてるんだけど……」

「――『黒雷』、か」

俺は、机上に広げられた術式図を覗き込んだ。

「そう。でも、まだ未完成でさ。……雷属性の術式自体は組めたんだけど、発動条件が厄介で」

「条件?」

「雨雲がないと、発動しないの。空気中の湿度と、電位差みたいなものが必要みたいで……。晴れた日には、まるで役に立たない」

ノノが、悔しげに眉を寄せる。

俺は、しばし術式図を眺めながら考えを巡らせた。

「――なら、雨雲がないなら、作ればいい」

「は?」

「疑似的な雨雲だ。……水属性の魔力で、局所的に湿度の高い空間を演出できないか。本物の雨雲である必要はない、電位差を生む"環境"さえ再現できればいいはずだ」

ノノが、目を見開いた。

「――それ、いけるかも……!」

その日から、ノノは俺のアイデアを元に、術式の再構築へと取り掛かった。

数刻の試行錯誤の末――

「――やった、成功した!」

ノノの掌の上に、小さな黒い雷雲が形成され、そこから漆黒の雷撃が迸った。

――バリバリバリッ!!

轟音と共に、標的の丸太が黒焦げになって崩れ落ちる。

「――これ、絶対やばい威力だよ……!」

ノノが、興奮気味に自分の手を見つめた。

「『黒雷雲』。……お前の研究の成果だ。俺は、ちょっとしたきっかけを渡しただけに過ぎない」

「――そんなことない。あんたのアイデアがなきゃ、まだ行き詰まってた」

ノノは、僅かに頬を緩めながら、俺を見上げた。

「――ありがと、ディア」

「礼はいい。お前の実力だ」

その素直な言葉に、ノノは何か言いたげな表情を浮かべたが、すぐに視線を逸らし、小さく咳払いをした。

「――ま、まあ、それはそれとして。次、頑張るから」

続けて、俺はメメと合流した。今回の一連の任務にずっと同行していたこともあり、丁度、休暇の日程も重なっていたのだった。

「――ディアさん、今日はどこか、行きたい所とかありますか?」

メメが、僅かに緊張した面持ちで尋ねてくる。

「特にないな。……お前が行きたい所でいい」

「じゃあ、街を、少し見て回りましょうか」

魔王城下の街は、思いのほか賑わっていた。露店には、様々な種族向けの品が並び、活気に満ちている。

「――これ、似合うと思います」

メメが、控えめな柄の外套を勧めてくる。

「ん、悪くないな」

「わ……。じゃあ、これも……」

メメの提案するまま、いくつかの服を試着し、甘味処では、彼女が薦める菓子を並んで頬張った。

「――美味しい、ですね……」

メメが、頬を緩めながら幸せそうに微笑む。

「ああ」

その笑顔を見て、俺は素直にそう思った。だが、メメの頬が、時折ほんのりと赤く染まっていることには、あまり深く気を留めなかった。

(――ディア、鈍いですね……)

メメが、内心でそっと呟いた言葉には、当然、気づく由もなかった。

サキュバスであるノノやメメの中に流れる恋心は、人間に近い、情熱的で分かりやすいものだ。だが、俺という存在は、悪魔としての性質を色濃く受け継いでいる。悪魔にとっての"番"とは、単なる恋慕ではなく、深い敬愛――時に、主従にも似た絶対的な信頼を土台とするものだった。

俺にとって、それに最も近い感情を抱く相手は、今のところ、ただ一人しかいない。

その事実に、俺自身、まだはっきりと気づいてすらいなかった。

「――そういえば、べべの装備、まだ何も買ってなかったな」

俺がふと呟くと、メメが目を輝かせた。

「あ、行きましょう! べべちゃん、お留守番してますもんね」

俺たちは、装備店へと足を運んだ。

「――この子用のサイズ、あるか」

「随分と小さめの竜種ですね……。少々お待ちを」

店主が持ってきたのは、小さな首輪型の防具や、翼に合わせた軽装だった。

「これなんて、可愛いと思います……!」

メメが、小さな装身具を手に取り、嬉しそうに笑う。

その様子は、まるで子の持ち物を選ぶ夫婦のようで、俺は思わず苦笑した。

「――随分と、楽しそうだな」

「え……あ、そ、そうですか……?」

メメが、慌てたように頬を染める。

俺たちは、べべの喜びそうな品をいくつか選び、店を後にした。

「――今日は、楽しかったです」

別れ際、メメがそっと微笑んだ。

「また、今度、一緒に買い物、行きましょうね」

「ああ、また誘ってくれ」

俺が頷くと、メメは花が咲くような笑顔を浮かべ、軽い足取りで去っていった。

その日の夕方、俺はスルート隊の訓練場へと足を運んだ。

「――おお、ディアじゃねぇか!」

満身創痍のルピンが、地面に大の字になりながら、こちらへと手を振ってきた。

「随分と、絞られてるみたいだな」

「ああ、酷いもんだぜ……。スルートの奴、加減ってものを知らねぇ」

ルピンの全身には、無数の傷跡が刻まれていたが、見る間にそれらが薄れ、癒えていく。

「――お前の自己回復、大分頼りにされてるみたいだな」

「まったくだ。治ったら、またすぐにぶちのめされる。地獄の繰り返しだよ」

そう言いながらも、ルピンの表情には、確かな充実感が滲んでいた。

俺は、何気なく『鑑定』を発動させた。

『後天性スキル:統率、上級棒術、盾術』

「――ルピン、お前の棒術、上級に上がってるぞ」

「――は? まじか」

「ああ。この短期間で、随分と鍛え上げたみたいだな」

ルピンは、驚いたように自分の得物を見つめた後、獰猛な笑みを浮かべた。

「――そうか。……なあ、ディア」

「ん?」

「そろそろ、俺たちも決着つけるか?」

ルピンの目に、久方ぶりに、あの初対面の日と同じ、燃えるような闘志が宿っていた。

「――いいぜ、かかってこい」

俺も、静かに槍を構え直した。

――ドガァァンッ!!

最初の一撃から、激しい打ち合いが始まった。

「ハアッ!」

ルピンの棍が唸りを上げる。オークジェネラルとしての膂力、そして実戦経験の蓄積が、その一撃に凄まじい重みを乗せていた。

「くっ……!」

俺は槍で受け流しながら、後方へと下がる。

(――偵察と交渉ばかりで、実戦の場数はルピンの方が圧倒的に多い)

正面から力比べをすれば、分が悪いのは明らかだった。だが、俺には、俺なりの強みがある。

「――当たれよ!」

ルピンの棍が、四方八方から俺を追い詰めるように振るわれる。

「だが、そう簡単には当たらせない」

俺は数手先を読みながら、最小限の動きで攻撃を躱し、隙を見ては反撃を差し込んだ。

「ちっ……! 躱すのだけは、相変わらず上手いな!」

「褒め言葉として受け取っておく」

打ち合いは、拮抗したまま続いた。

受けながらも押し込むルピン、避けながらも追撃を刻むディア。互いの手の内を知り尽くしているだけに、簡単には決着がつかない。

「――足元、そう易々とは晒さないぞ」

ルピンが、慎重に足運びを整えながら呟く。

(――スリップを警戒してるな。当然か)

俺の得意技は、既にルピンにとって織り込み済みの脅威だった。

戦いは、じりじりと膠着していった。

「――そこだッ!」

ルピンが、俺を訓練場の四隅へと追い詰める。

「もらったぁーー!」

ルピンが、渾身の力を込めて棍を振りかぶった、その刹那。

俺は、狙いすましたように、ルピンの――握る"手"へと『スリップ』を発動させた。

「な――!?」

握力を失った棍が、掌からするりと滑り落ちる。

「――ゲームセット」

俺は、空いた間合いへと即座に踏み込み、槍先をルピンの首元へと突きつけた。

「……くっ、はは……! やられたぜ……!」

ルピンが、悔しさと爽快感の入り混じった笑い声を上げた。

「足元ばかり警戒して、手元は疎かにしたな」

「まさか、あの技を、そんな使い方するとはなぁ……!」

俺は槍を引き、ルピンに手を差し伸べた。

「――俺の勝ちだ」

「ああ、認める」

ルピンは、その手を掴んで立ち上がりながら、獰猛に笑った。

「だが、次はこうはいかねぇぞ。……もっと鍛えて、絶対にお前を抜いてやる」

「――望むところだ」

俺たちは、固い握手を交わした。

久方ぶりの休日は、それぞれの成長を確かめ合う、良い一日となった。

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