表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】最弱インプ、勇者を事故死させてスキルを強奪してしまう~成り上がり魔王譚~  作者: 下総山中
魔王国で勤務開始、目指せ魔王!!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/66

第24話 非効率と『改革』

ライオネル王国の国境を跨いだ瞬間、俺は思わず眉をひそめた。

「――何だ、この畑は」

広大な農地が広がっているにもかかわらず、そこで働く人々は皆、鍬一本で土を耕し、水は桶を担いで運んでいる。整備されていない畦道、放置されたままの空き地、機材らしい機材は、ほとんど見当たらない。

「気になりますか」

隣を歩くデルポポが、静かに尋ねる。

「……ああ。あれだけの土地があって、これは、あまりにも非効率すぎる」

俺の脳裏に、あの洞窟での日々が過った。湧き水を利用した水路、水車による自動処理――限られた環境の中で、いかに労力を最小化し、最大の成果を引き出すか。あの一年間、俺はそれだけを考え続けてきた。

(――こんな広い土地があって、これしか使えていないのか)

目の前の光景が、無性に歯痒く感じられた。

首都に到着し、俺たちは早速、国王タラボーヤとの謁見に臨んだ。

謁見の間に現れたのは、鱗の煌めく屈強な体躯の男――ドラゴニュートの国王、タラボーヤだった。

「――久しいな、デルポポ殿。魔王国からの使者とは、珍しい」

「本日は、支援物資の購入と、難民の受け入れについてのご相談です」

タラボーヤは鷹揚に頷いたが、その視線は、すぐに俺の傍らに佇むべべへと吸い寄せられた。

「――ほう」

タラボーヤの目つきが、僅かに変わった。

「そなた……只者ではないな。……いや、まさか、龍族の、それも相当な高位の血筋か」

べべが、僅かに戸惑ったように瞬きをした。

「……我のことが、分かるのか」

「無論だ。同じ竜の血を引く者として、そなたの纏う気配だけで分かる。……随分と小さくなっているようだが、その芯に宿る力は、なるほど、只事ではない」

タラボーヤは、深々と頭を下げた。

「――失礼した。龍族の上位者に対し、非礼があってはならん」

「な……! 一国の王が、我のような若輩に、頭を下げるとは……」

べべが、動揺したように後ずさる。

「――なるほど、な。……我は、まだ自分の"格"というものを、正しく理解していなかったらしい」

べべは静かに呟き、僅かに背筋を伸ばした。

(――あいつも、これで少し、自分の立ち位置を自覚したか)

俺はその様子を横目に、密かに感心していた。

交渉は、驚くほど円滑に進んだ。

「支援物資については、必要な量を融通しよう。難民の受け入れも、既に人手不足に悩んでいたところだ、願ってもない」

タラボーヤは快く頷いた。

「うちの国は、元々人族も魔族も分け隔てなく迎え入れてきた。……働き手が増えるのは、素直にありがたい」

デルポポが、書類を手早く整えながら頷く。

「では、正式な受け入れ協定を――」

――だが、その最中、俺は我慢できずに口を挟んでしまった。

「――待ってくれ」

デルポポが、怪訝な顔で振り返る。

「ディア?」

「ここに来るまでの農地、あれはあまりにも惜しい。……この国の担当者を、呼んでもらえないか」

「――は?」

タラボーヤが、意外そうに目を丸くした。

「農地の話、興味があるのか?」

「ああ。……昔、限られた環境で、いかに効率よく成果を出すか、それだけを考え続けていた時期があってな。……あの非効率さを見て、黙っていられなかった」

俺の勢いに、タラボーヤは面白そうに笑った。

「ふむ、面白い。……よかろう、呼んでやろう」

しばらくして、疲れ切った様子の農業責任者と、数名の技術者が謁見の間へと呼び出された。

「――お、お呼びと伺いましたが……」

俺は構わず、地面に図を描きながら語り始めた。

「まず、水路の仕組みが根本的に非効率だ。桶での水運びなんて、労力の無駄以外の何物でもない。……高低差を利用した水路を作り、重力で自然に水を流せ。手間はかからず、水量も安定する」

「な……! そんなことが、可能なのですか……!」

「可能だ。俺は昔、水路と水車だけで、無限に近い労働力を生み出す仕組みを作ったことがある」

俺は続けて、休耕地の活用法や、作物の輪作による地力回復、さらに――

「――肥料の質も低い。土に還すだけじゃ足りない。……討伐した魔物の死骸や、余剰のスライムを発酵させれば、遥かに濃度の高い肥料になる。あとは、腐敗を促す特定の菌――カビの一種を管理して繁殖させれば、堆肥化の速度も格段に上がる」

「か、カビを、意図的に……!?」

技術者たちが、驚愕の表情で聞き入っていた。

「更に言えば、休耕地には、あえてスライムを繁殖させておくのも手だ。奴らは魔素さえあれば勝手に増える。増えすぎたスライムは、間引いて肥料にすればいい。……厄介者を、資源に変えるんだ」

俺は、これまでの旅で培ってきた知恵――水攻めの構造理解、辺境伯戦での兵糧汚染の知識、迷宮での死霊対策まで、あらゆる経験を惜しみなく語り尽くした。

「……こんな知識、一体、どこで……」

農業責任者が、呆然と呟く。

「まあ、色々あってな」

その日のうちに、俺が語った改善案は、次々と試験導入されることになった。

「――水路の設計、早速取り掛かります!」

「肥料の管理体制も、ご指導いただいた通りに……!」

数日後には、実際に試験農地での成果が現れ始め、俺の名は、瞬く間にライオネル王国中に知れ渡ることとなった。

「――まさか、魔王国の使者が、我が国の農業を変えてしまうとはな」

タラボーヤは、感嘆したように笑った。

「ディア殿、貴殿には、大きな借りができた。……何かあれば、いつでも力を貸そう。中立の立場は崩さぬが、貴殿らのためなら、多少の融通は利かせる」

「――光栄だ」

デルポポが、静かに、しかし満足げに微笑んだ。

「これは、想定以上の成果ですね。……国家間の関係性まで、動かしてしまうとは」

「別に、狙ったわけじゃない。……ただ、見過ごせなかっただけだ」

「それが、あなたらしいですよ」

一週間の滞在を終え、俺たちは支援物資と、無事に受け入れが決まった難民たちの安堵の笑顔を胸に、帰路についた。

「――べべ、お前も、随分と自分の格を意識するようになったな」

船上で声をかけると、べべは静かに頷いた。

「……うむ。我は、思っていたよりも、大きな存在だったようだ。……だが、それでも、貴殿についていく気持ちに変わりはない」

「――べべ、ボクとまた遊ぼうねー!」

黄色い妖精が、無邪気に飛びついてくる。

「む……。仕方ない相手だ」

そう言いながらも、べべは満更でもなさそうに、妖精との追いかけっこに応じ始めた。

こうして、幾つもの収穫を手に、俺たちを乗せた船は、魔王国への帰路をゆっくりと進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ