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【悲報】最弱インプ、勇者を事故死させてスキルを強奪してしまう~成り上がり魔王譚~  作者: 下総山中
奪われしスキル、成り上がりの道

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第20話 真祖の来訪と『邂逅』

膠着状態が続く中、不意に、夜空に響く重い羽音が聞こえた。

「――なんだ、あれは……!?」

ダキオスの部下の一人が、空を見上げて声を上げる。

漆黒の炎を纏う魔獣――ナイトメアに跨り、一人の女が悠然と舞い降りてきた。

「――随分と、賑やかにやっているようだな」

涼やかな声。

「リ、リアーナ……!」

俺は思わず声を上げた。

「――ん?」

リアーナが、こちらへと視線を向ける。

「――ディア、なのか!? あの、小さかったインプの……!」

「ああ。今は、少し大きくなったがな」

「なっ……! なぜ、デーモンに……! いや、随分と印象が変わったものだな……!」

驚きに目を見開いたリアーナは、しかしすぐに、旧友との再会を喜ぶように破顔した。

「くく、まあ良い。それより――随分と苦戦しているようだね。手を貸してやろう」

リアーナが指先を軽く振るった、その瞬間。

――ドッ。

A級冒険者たちの体が、一瞬にして地に沈んだ。

「な……!?」

「がっ……!」

抵抗すらできぬまま、三人が次々と膝をつく。

「――化け物、が……!」

ダキオスだけが、辛うじて立ち続けていた。だが、その体も、既に限界に近い。

「くく、頑張り屋だな、人間」

リアーナはナイトメアから降り立ち、ゆっくりとダキオスへと歩み寄った。

「ま、待て……! おれは、まだ――」

「――大人しくしていろ」

リアーナの指先が、ダキオスの首筋にそっと触れる。

「『眷属化』」

牙が僅かに覗き、静かに首筋へと沈んだ。

「が、ぐ……!」

ダキオスの体から力が抜け落ち、崩れ落ちる。

「――死にはしない。少し、私の言うことを聞くようになるだけだ」

同じように、リアーナは倒れ伏したA級冒険者たちにも次々と眷属化を施していった。

「これで、四人とも、私の僕だ。……無闇に暴れることもないだろう」

戦いが静まり返った後、リアーナは改めて俺たちへと向き直った。

「――ふふ、それにしても……! お主、あれから随分と大きくなったものだな! 見ない間に、こんなに逞しくなって……!」

「ああ、色々あってな」

「話せば長くなりそうだな。……とりあえず、無事に会えて良かった」

二人でひとしきり笑い合う様子を、ルピンが微笑ましそうに眺めている。

その隣で、ノノとメメが、なんとも言えない顔で立ち尽くしていた。

「……ねえ、あれが」

「リアーナ様、ですね……」

「思ったより、若くて、綺麗……」

ノノの声が、僅かに低くなった。

「――ディア、随分と楽しそうじゃない」

「ん? ああ、久しぶりに再会できたからな」

俺が何気なく答えると、ノノは唇を尖らせ、それ以上何も言わずにそっぽを向いた。

メメも、扇を握る手に、僅かに力を込めていた。

夜も更け、皆が野営の準備を始める中、俺はふと、リアーナに声をかけた。

「――リアーナ。少し、二人だけで話したいことがある」

「――ん? ああ、構わんが」

俺たちは焚き火から少し離れた場所へと移動した。

「――どうした、改まって」

「……お前には、話しておきたいことがある。ずっと、黙ってきたことだ」

俺は一度、深く息を吸った。

「俺の中には、もう一つ、先天性スキルがある。……お前が感知した『勇者』の気配。あれの、正体だ」

リアーナの目が、僅かに見開かれる。

「――やはり、そうか。……あの日、感じた"人知を超えた理解力"は、そのせいだったのだな」

「ああ。あの雨の日、俺は誤って勇者を死なせた。……その結果、あいつのスキルが、俺の中に流れ込んできた」

「なんと……」

「まだ、誰にも話していない。ルピンにも、ノノにも、メメにも」

「……なぜ、話さないのだ」

リアーナが、静かに問う。

「……分からない。話せば、何かが変わってしまう気がして」

「変わる、というのは」

「奪ったものだ、これは。……誇れるものじゃない。それに、この力の異質さを知れば、皆が俺を見る目も、変わってしまうかもしれない」

リアーナは、しばし俺の顔を見つめていた。

「――ディア。お主の仲間たちを見ていて分かる。あの二人も、ルピンも、お主のことを心から信じているようだったぞ」

「……それは」

「隠し続けることの方が、いつか大きな綻びを生む。……なあ、ディア。話してみないか」

リアーナは、優しく、しかし確かな芯を持った声で続けた。

「そして、陛下にも――魔王アリマン様にも、事情をお話しすることを許してほしい。あの方は、悪いようにはしない。……私が、そばで見てきたのだ。安心しろ、私がついておる」

俺は、しばし目を閉じた。

(――ずっと、一人で抱えてきた)

だが、リアーナの言葉が、その重さを僅かに軽くしてくれるような気がした。

「――分かった。話す。……皆にも、陛下にも」

「うむ。それでいい」

俺たちは焚き火の元へと戻った。

「――ルピン、ノノ、メメ。話しておきたいことがある」

俺の真剣な声色に、三人が同時に顔を上げる。

「――俺の中にある、もう一つの先天性スキルのことだ」

俺は静かに、自分の出自――事故で勇者を死なせ、そのスキルを奪ってしまった経緯を、包み隠さず語った。

「……そんなこと、あったんだ」

ノノが、静かに呟いた。

「知恵が回るのも、槍の覚えが早いのも……それが理由だったのか」

ルピンが、感慨深げに頷く。

「言いにくかったですよね、そんなこと……。話してくれて、ありがとうございます」

メメが、優しく微笑んだ。

「……怖くないのか。俺が、こんな出自だと知って」

俺の問いに、ノノが呆れたように笑った。

「今更、何言ってるの。私たちだって、あんたに救われた身だよ」

「そうだな。……お前が何を奪って生まれた力だろうと、俺たちにとってのお前は変わらん」

ルピンの言葉に、俺は静かに息を吐いた。

「……そうか。ありがとう」

その様子を見ていたリアーナが、満足げに微笑んだ。

「――良い仲間を持ったな、ディア」

「ああ」

一頻り話し込んだ後、リアーナは改めて表情を引き締めた。

「――ディア、ルピン。それに、そこの二人も。魔王城へ来い」

「魔王城、に?」

「ああ。事情は、私から陛下に伝えておく。……お主のことは、以前から陛下も気にかけておられたのだ。これほどの成り上がりぶりだ、放っておく道理がない」

「……少し、待ってくれ」

俺は、ふと思いついたことを切り出した。

「実は、この近くの隠れ里に、ノノとメメの同郷の生き残りがいる。……サキュバスとインキュバスの一族、そして、二人の母君もだ」

「――ほう」

「連れて行っても構わないか。魔王領なら、あの人たちも、隠れて暮らさずに済むはずだ」

リアーナは、しばし考えた後、頷いた。

「無論だ。魔王領は、行き場を失った魔族を拒む場所ではない。……むしろ、歓迎しよう」

その言葉に、ノノとメメの表情が、ぱっと明るくなった。

「本当に……? 母様たちも……!」

「一緒に、暮らせるように、なる……?」

「ああ。約束する」

俺が頷くと、二人は互いに顔を見合わせ、嬉しそうに笑った。

「――なら、断る理由なんて、ないね」

「はい……! 行きます!」

「――ルピン、お前はどうする」

俺が尋ねると、ルピンは腕を組んで唸った。

「俺か? ……まあ、正直、迷うところはねぇな」

「ほう?」

リアーナが興味深げに視線を向ける。

「――魔王城には、強者が集まっているんだろう。軍神やら、なんやら」

「そうだな。四大守護者の一人、軍神スルートなどは、荒事に目がない男だ。稽古をつけてやると言えば、喜んで相手をするだろう」

ルピンの目が、獰猛に輝いた。

「……そりゃあ、いい話だ。俺も、もっと強くなりてぇ。仲間を守れる、本物の力をな」

「決まりだな」

「ああ。行くぞ、魔王城へ」

こうして、俺たちは翌日、同郷の隠れ里へと立ち寄り、生き残ったサキュバスとインキュバス、そしてノノとメメの母親を伴い、改めて北への旅路についた。

「――これで、全員揃ったな」

俺の言葉に、リアーナが満足げに頷く。

「うむ。賑やかな道行きになりそうだ」

「――ディア、随分と楽しそうじゃない」

ノノが、隣を歩きながら小さく呟いた。

「ん? ああ、久しぶりに再会できたからな」

俺が何気なく答えると、ノノは唇を尖らせ、それ以上何も言わずにそっぽを向いた。

メメも、扇を握る手に、僅かに力を込めていた。

夜空の下、リアーナのナイトメアに先導されながら、俺たちは新たな従者――ダキオスたちと、迎え入れた同胞たちを伴い、ついに魔王城への道を歩み始めた。

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