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【悲報】最弱インプ、勇者を事故死させてスキルを強奪してしまう~成り上がり魔王譚~  作者: 下総山中
奪われしスキル、成り上がりの道

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第19話 誘惑の座と『撤退』

最上階への扉を潜った瞬間、俺たちは言葉を失った。

そこは、これまでの階層とはまるで異質な、荘厳な玉座の間だった。

中央の玉座に腰掛けていたのは、六枚の白銀の翼を持つ、絶世の美貌の天使――ナアマだった。

「――ようこそ、我が塔の頂へ」

声だけで、全身が痺れるような感覚に襲われる。

「メメ、『清心の光』を!」

「――は、はい……! 『清心の光』!」

淡い光が四人を包み込んだ。

「ほう。……対策済みか。面白い」

ナアマは、興味深げに微笑んだ。

「だが、それしきで我が誘惑を凌げるとでも?」

――刹那、視界が歪んだ。

「な……!?」

『清心の光』の加護を、まるで薄紙のように突き破って、甘やかな魅了の波が全身を包み込む。

「くっ……! 効いて、る……!?」

「対策なんて、気休め程度にしかならなかった、ってこと……!?」

ノノが弓を構えたまま、僅かに足元をふらつかせる。

「グ、おおお……! 意識が、持っていかれる……!」

ルピンでさえ、明らかに動きが鈍っていた。

「――さあ、踊れ、我が舞台で」

ナアマが優雅に指を鳴らすと、周囲の空間そのものが、幻惑の渦へと変貌していく。

戦いは、これまでのどの階層とも比較にならない一方的なものだった。

「『黒流岩』――!」

長い詠唱の末に放たれたノノの魔術は、ナアマの纏う光の障壁にあっさりと弾かれる。

「無駄だ。……この程度の力で、我に届くとでも?」

「くっ……!」

俺は槍を構え、渾身の力で踏み込んだ。

「――ハアッ!」

だが、槍先はナアマの体に届く前に、見えない力場に阻まれた。

「悪くない突きだ。……だが、まだ生温い」

軽く指を振るっただけで、俺の体は吹き飛ばされ、玉座の間の壁に叩きつけられた。

「がっ……!」

「ディア!」

「メメ、回復を……! いや、それより――」

俺は歯を食いしばりながら立ち上がった。

(――このままじゃ、全滅する)

草原・溶岩・豪雪・迷宮と積み上げてきた力は、確かに以前とは比較にならない。だが、この上級ダンジョンの主は、その積み重ねすら軽々と凌駕していた。

「グ、ぬぅ……!」

ルピンが盾で防御を固めるも、魅了の波に何度も意識を持っていかれ、まともに反撃できずにいた。

「――もう、限界……」

メメが、力なく膝をつく。

ナアマは、玉座に頬杖をつきながら、退屈そうに俺たちを見下ろしていた。

「……つまらぬ。今日のところは、この程度で退いてやろう」

「な……」

「まだ、我を楽しませるには早すぎる。……出直してくるがいい」

指先が軽く動いた瞬間、俺たちの体は光に包まれ、強制的に階層の入口へと転移させられていた。

気づけば、俺たちは全員、迷宮エリアの入口付近に転がり込んでいた。

「――負け、た……」

俺は槍を杖代わりに、なんとか体を起こした。

「あれが、上級ダンジョンのボス、か……」

ルピンが、悔しさを滲ませながら唸る。

「私たち、あんなに頑張ってきたのに……全然、届かなかった」

ノノが、拳を握りしめる。

「今の俺たちじゃ、まだ届かない相手だった、ってことだ」

俺は静かに言った。悔しさはあったが、同時に、これが自分たちの現在地だという事実を、素直に受け止めるしかなかった。

「――一旦、外に出よう。仕切り直しだ」

転移陣を使い、俺たちは地上へと戻った。

「――皆、無事か!」

宝物殿で迎えてくれた同郷のサキュバスたちの表情が、どこか強張っていることに気づく。

「どうした」

「……集落の跡地に、人間の一団が現れたんです。……何かを、探しているようで」

俺は眉をひそめた。

「探している?」

「はい。……装備からして、腕利きの冒険者たちのようでした」

嫌な予感が、胸をよぎる。

俺たちは急ぎ、地上へと足を向けた。

焼け跡の残る集落跡地――そこには、数人の男たちが、瓦礫の中を漁るように歩き回っていた。

先頭に立つのは、使い込まれた鎧を纏った、見覚えのある男だった。

「……ダキオス」

俺は静かに槍を構えた。

「――やはり、貴様か」

ダキオスの声には、隠しきれない怒気が滲んでいた。

その傍らには、屈強な冒険者が三人。腕章からして、いずれもA級相当の実力者と見て取れる。

俺は槍を構えながら、静かに『鑑定』を発動させた。

『先天性スキル:回避』

『後天性スキル:剣術、追跡』

(――追跡、か。道理で、こんな辺境まで迷いなく辿り着いたわけだ)

「――随分な執念だな。よくもこんな辺境まで」

「お前を捜すためだけに、伝手を使ってこの面子を集めた。ルナーラ村の古参たちのつてを頼ってな。……それに、俺には"目"がある。もう二度と、逃がしはしない」

「そういうことか」

「――一つ、聞きたいことがある」

ダキオスが、剣の柄に手をかけながら、静かに問うた。

「お前は、あの雨の夜、橋の上で……俺を転ばせたか?」

その場の空気が、一瞬にして張り詰めた。

俺は、しばし沈黙した。

――答える義理はない。この男に真実を告げたところで、何かが変わるとも思えなかった。

「――お前に話す義理はない」

「……そうか」

ダキオスの瞳に、確信めいた怒りが宿った。

「その反応で、十分だ」

「――抜けッ!!」

ダキオスの一声とともに、A級冒険者たちが一斉に得物を構えた。

「囲め! 各個撃破だ!」

「望むところだ」

俺たちもまた、それぞれの得物を構え直した。

一触即発の空気の中、両者の視線が、激しく交錯する。

「――行くぞ!」

「ハアッ!」

戦端は、瞬く間に切って落とされた。

「死角から来る……! 気をつけろ!」

ルピンが叫ぶ。A級冒険者たちは、辺境伯の護衛だった刀使いや、ダキオス本人とはまた違う、洗練された連携を組んでいた。

「――囲め、逃がすな!」

「くっ……! こいつら、動きの精度が違う……!」

俺は槍を振るいながら、迷宮エリアで鍛えた死霊戦の間合い取りを応用し、複数の敵に囲まれた状況を捌いていく。

「メメ、バフを!」

「――『身体能力向上』!」

「ノノ、援護を!」

「『宵闇の弓』――!」

これまでダンジョンで培った連携が、確かにこの死闘を支えていた。だが、相手も一筋縄ではいかない。

「畜生、押し切れない……!」

ルピンが、盾越しに冒険者の連続攻撃を受け止めながら唸った。

「ディア、そっちは!」

「……互角だ。だが、決め手に欠ける……!」

ダキオス自身の剣技も、以前戦った時よりさらに研ぎ澄まされていた。

「はぁっ……! はぁっ……!」

戦況は、じりじりとした膠着状態へと陥っていく。

決着の糸口が見えぬまま、双方の消耗だけが、静かに積み重なっていった。

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