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【悲報】最弱インプ、勇者を事故死させてスキルを強奪してしまう~成り上がり魔王譚~  作者: 下総山中
奪われしスキル、成り上がりの道

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第18話 迷宮の罠と『不死の王』

豪雪エリアを抜ける前に、俺たちは一度、転移陣を使って宝物殿へと戻った。


「――防寒具は、ここに置いていこう。次はもう要らない」


俺は厚手の外套を丁寧に畳み、棚へと戻した。


「卵、ちゃんと預かってもらえるかな」


メメが、腹の辺りで抱え続けていた卵を、心配そうに見つめる。


「大丈夫。同郷の皆に頼めば、きっと大事にしてくれる」


案内役のサキュバスに卵を託すと、彼女は柔らかく微笑んだ。


「温かくして、しっかり見守っておきますね」


「頼む」


メメは名残惜しそうに卵を一撫でしてから、静かに手を離した。



宝物殿の棚を整理していると、隅に古びた一枚の地図が眠っているのを見つけた。


「――これ、以前この塔を攻略した先人が残したものか?」


広げてみると、そこには塔の内部構造――階層ごとの見取り図らしきものが、丁寧に描き込まれていた。


「幸い、大まかな設計は変わっていないみたいだな。……これがあれば、多少は楽になる」


俺たちは地図を手に、迷宮エリアへと足を踏み入れた。



迷宮エリアは、これまでの階層とは打って変わって、石造りの入り組んだ通路が延々と続く場所だった。


「――来ます。前方、複数……! 人間の冒険者みたいな、動き……!」


メメの声に、俺たちは身構えた。


現れたのは、腐り落ちた鎧を纏い、剣や斧を手にした人型の魔物だった。意識も名も持たない虚獣のはずだが、その動きは、まるで生前の冒険者の癖をそのまま引き継いだかのように、妙に人間臭かった。


「――こいつら、連携までしてきやがる」


ルピンが盾を構えながら唸る。


「油断するな。動きの”型”は人間そのものだ」


俺は槍を構え、側面から回り込みながら、着実に一体、また一体と仕留めていった。



さらに奥へ進むと、地図に記された通り、無数の罠が張り巡らされていた。


「――落とし穴、ガス、丸太振り子、毒矢、痺れ罠……。よくもまあ、ここまで詰め込んだものだな」


「これ、大丈夫なの?」


ノノが不安げに尋ねる。


「問題ない。『仕掛け(罠)』の勘とメメの『察知』があれば、大抵は見抜ける」


俺とメメが先行し、罠の位置を的確に指し示していく。


「――そこ、床がわずかに沈んでる。落とし穴だ」


「その先、壁に細い穴が。ガス噴出のトラップですね」


四人は罠を華麗に躱しながら、迷宮の奥へと進んでいった。


――だが。


「おっと、っと……!」


ルピンが、うっかり足元の起動盤を踏み抜いてしまう。


ガコンッ、と鈍い音とともに、壁の一部から巨大な丸太が唸りを上げて振り出された。


「――ルピン、危ない!」


「うおおおおっ!?」


咄嗟に盾で受け止めるも、勢いに押されてルピンの巨躯が後方へと吹き飛ばされる。


――ドテッ。


尻餅をついたルピンを見て、ノノとメメが思わず吹き出した。


「あはは……! ルピン、私たちがあれだけ見抜いてきた罠、自分で踏むなんて」


「う、うるせぇ……! ちょっと考え事してただけだ……!」


「考え事って、何をだよ」


俺が呆れたように尋ねると、ルピンは決まり悪そうに頭を掻いた。


「……いや、あの卵、無事に孵るかなって」


「――ルピン、お前」


思わぬ優しさに、その場の空気が和んだ。


「ふふ、ルピンって、見た目に反して優しいですよね」


メメが微笑ましそうに笑う。


「うるせぇ、行くぞ!」


照れ隠しに立ち上がったルピンを先頭に、俺たちは笑いながら先へと進んだ。



さらに進んだ先、地図上には記されていない、奇妙な違和感のある空間があった。


「――ここ、何かおかしいな」


俺は足を止め、『仕掛け(罠)』の感覚を研ぎ澄ませた。


「……壁の一角、僅かに空洞になってる」


丹念に壁を探ると、隠された切り替えの仕掛けが見つかった。作動させると、石壁がゆっくりとスライドし、隠し部屋が姿を現す。


中には、輝きを放つ貴重な鉱石と、見たこともない美しい花――淡い光を纏う一輪の花が、静かに安置されていた。


「――これは」


俺は鑑定を発動させた。


『――エターナルフラワー。枯れることのない、神秘の花』


「エターナルフラワー……。聞いたことないけど、なんかすごそう」


ノノが興味深げに覗き込む。


「今すぐ使い道はなさそうだが……、持っておいて損はない」


俺はそれらを丁寧に回収し、懐へとしまった。



そうして辿り着いた、この階層の最奥。


そこには、朽ちた王冠を戴く、骨と腐肉の混じった巨大な人型――ワイトキングが、玉座らしき瓦礫の上に座していた。


「――不死者の、王か」


俺は静かに槍を構えた。


ワイトキングが骨の杖を掲げると同時に、周囲の地面から次々と下級の死霊が湧き上がった。


「グ、ル、ゥ……」


「死霊まで召喚してくるとはな……! 数で押し切る気か!」


ルピンが盾を構え、押し寄せる死霊たちを弾き飛ばす。


「メメ、ノノをバフで支えろ! ルピンは前を頼む! 俺は死霊を掃除する!」


「了解……!」


俺は槍で死霊を次々と屠りながら、じわじわとワイトキングとの距離を詰めていった。


だが、王自身も後方から絶え間なく強力な魔術を撃ち込んでくる。


「――『骨槍(こつそう)』!」


放たれた黒い骨の槍が、ノノの肩口を掠めた。


「痛っ……!」


「ノノ! ――『癒しの風』!」


メメの回復魔法が、ノノの傷を包み込む。


「くっ……! 召喚が終わらない……! 湧いてくる数が減らない!」


死霊を掃除しても掃除しても、ワイトキングが次々と新手を呼び出す。じわじわと消耗が積み重なっていった。


「ディア、そっちは!」


「押されてる……! こいつ、思ったよりしぶとい!」


俺は槍を振るいながら、王本体への接近を図るが、死霊の壁に阻まれ、なかなか間合いを詰められない。


「ぐ……! 削っても削っても、キリがない……!」


「メメ、また回復を頼む! ノノ、俺の援護を!」


「わ、分かりました……! ――『癒しの風』!」


戦況は膠着し、じわじわと全員の体力が削られていった。


「――このままじゃ、消耗戦で負ける……!」


俺が焦りを滲ませたその時だった。


ちょうど死霊の壁を薙ぎ払った拍子に、メメの放った『癒しの風』の光が、狙いから逸れ、ワイトキング本体を掠めた。


「グ、ル、ォォォ……!?」


ワイトキングが、まるで苦しむように大きく身を捩ったのだ。


「――今の、嫌がって、た……?」


メメが、はっとした表情を浮かべる。


「不死者は、神聖な力に弱いと聞いたことがある……! メメ、狙って当てられるか!?」


「や、やってみます……!」


メメは咄嗟に狙いを変え、ワイトキング目掛けて『癒しの風』を放った。


「グ、ギィィィアアアアッ……!!」


淡い光がワイトキングの体を包んだ瞬間、王は苦悶の声を上げ、大きくよろめいた。


「――今だ!」


俺とルピンは同時に踏み込み、隙だらけになったワイトキングへと最大の一撃を叩き込んだ。


――ドガァァンッ!!


その胸元に埋め込まれていた、禍々しく脈打つ核の魔石が、砕け散る。


「――ガ、ァ……」


王の体が、ゆっくりと崩れ落ちていく。同時に、召喚されていた死霊たちも、糸が切れたように次々と消滅していった。


『――迷宮エリアボスを撃破しました』


『――エリア攻略度:4/5』


俺たちは、その場に膝をつき、荒い息を整えた。


「……勝った、な。だいぶ、削られたが」


「本当に……。あと少し長引いてたら、危なかったかも」


「メメ、さっきの偶然、よく気づいたな」


俺の言葉に、メメは僅かに照れたように微笑んだ。


「たまたま、です……。でも、役に立てて良かったです」



戦いを終えた俺たちは、光の膜に包まれたセーフティエリアで、次なる最上階――マスタールームへの備えを話し合っていた。


「――最上階のマスターは、誘惑の天使ナアマ、だったな」


俺は静かに切り出した。


「誘惑系の敵となると、当然、魅了や幻惑の類が飛んでくるはずだ。……何か対策を考えておかないとまずい」


「――ふぅん。誘惑、ね」


ノノが、意味ありげに俺の顔を覗き込んだ。


「なら、私で慣れておく? 今のうちに」


「――お前、それは対策になるのか?」


「……もう、ちょっとくらい照れなさいよ!」


ノノが、顔を赤らめながら声を荒げる。


「効率を考えるなら、耐性がつくまで繰り返すのが確実だとは思うが……」


「そういうことじゃないの……! もういい!」


ノノはぷいと顔を背け、それ以上何も言わなかった。


(――何か、間違えたか?)


俺には、いまいちその機微が掴めなかった。



真面目な対策を求め、俺たちは一度、宝物殿へと戻った。


「――これは」


棚の奥から見つけたのは、古びた一冊の魔導書だった。ページをめくると、対魅了・幻惑への防御術式が記されている。


『――回復魔法『清心の光』。対象の心に清浄な加護を纏わせ、一定時間、魅了・幻惑の類を無効化する』


「解除じゃなく、そもそも”かからなくする”魔法か」


「……これなら、対策になりそうだね」


ノノが呟く声には、僅かな複雑さが滲んでいた。


「……私たちも、サキュバスなんだけどね。魅了を弾く魔法を、私たちが唱えるって、なんか変な感じ」


メメも、魔導書を見つめながら小さく苦笑した。


「同族の力を封じるための術を、自分たちが覚えるっていうのは……確かに、皮肉かもしれません」


「それでも、必要なことだ。……使うかどうかは、その時々で判断すればいい」


俺の言葉に、メメは小さく頷いた。


「――やってみます」


メメは魔導書を手に、数日をかけて詠唱と魔力の練り方を修練した。慣れない感覚に何度も詠唱を乱しながらも、根気強く繰り返す。


『――回復魔法『清心の光』を習得しました』


「――できました……!」


メメが、僅かに疲れた様子ながらも、達成感に満ちた表情を浮かべる。


「これで、最上階への備えは整ったな」


俺たちは互いに頷き合い、ついに迷宮エリアの先――塔の最上階、マスタールームへの扉の前へと立った。

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