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【悲報】最弱インプ、勇者を事故死させてスキルを強奪してしまう~成り上がり魔王譚~  作者: 下総山中
奪われしスキル、成り上がりの道

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第12話 逆転の炎と『救出』

乾ききった木々は、まるで待っていたかのように瞬く間に炎を纏っていく。


夜空を赤く染め上げる巨大な火柱が、街を取り囲むように次々と立ち上った。


「な、なんだあれは……!?」


「火事だ、森が――森が燃えてるぞ――!」


城壁の見張り台から、悲鳴混じりの怒号が響き渡る。


計算通り、火の手は街の三方を包囲するように広がっていった。だが、南側の一箇所だけ、あえて延焼を免れる道を残してある。


「……誘導路、仕込みは済んでるな」


「ああ。とっくにな」


同郷の生存者たちが、闇に紛れてその道の左右に無数の罠――落とし穴、絡み縄、鋭利な杭を隙間なく仕込んでいた。



同時に、風上――北の森で燃え始めた睡眠毒草の煙が、じわじわと街全体に流れ込んでいく。


「……く、頭が、重い……」


「眠気が……なんだ、これ……」


初期消火にあたっていた兵士たちの動きが、目に見えて鈍り始めた。


俺たちは事前に配られた薬草ガムを噛み続け、意識を保ったまま夜闇に紛れて城壁へと近づく。


「――完全には効かないが、これなら十分動ける」


ノノが小さく息を吐いた。


「街中が、まともに動ける奴の方が少なくなってきてる……」



「今よ――!」


花街に潜入していたサキュバスとインキュバスたちが、一斉に動き出した。


「お願い、私を助けて……! あっちは危険なの……!」


魅了にかかった兵士たちが、次々と統率を失い、同胞の”指示”に従って右往左往し始める。


「隊長、こっちに火が――!」


「いや、待て、そっちは罠が――!」


指揮系統そのものが、内側から食い破られていく。


パニックに陥った住民や兵士の一部が、南の”逃げ道”へと殺到した。


「――ぐああっ!」


「な、な、なんで穴が――!」


「うわああっ、縄が――!」


計算通り、そこに仕込んだ罠が、次々と犠牲者を刈り取っていく。


千五百人の街が、たった一晩で機能不全に陥っていた。



俺、ルピン、ノノ、メメの四人は、混乱に乗じて辺境伯の屋敷へと突き進んだ。


「ハアッ!」


ルピンが弱った守備兵を次々と薙ぎ倒す。タンクとして前に出続ける彼の巨躯が、俺たちの盾となった。


「『黒炎槍』!」


ノノの魔術が敵陣を切り裂き、メメの矢と支援魔術が的確に俺たちを援護する。


俺は棍を振るい、状況に応じて指揮を執りながら、パーティー全体の要として立ち回った。



――だが、屋敷の最奥へと続く回廊で、俺たちの足が止まった。


そこに、たった一人だけ、佇む影があった。


異国の意匠を纏った鎧。腰に佩いた、反りのある一振りの刀。


微動だにせず、瞑目したまま佇むその姿からは、これまで斬り伏せてきたどの兵士とも一線を画す、圧倒的な”死”の気配が漂っていた。


「……何だ、あいつ」


ルピンが思わず息を呑む。


「近づいただけで、殺気に晒される……」


ノノの声が僅かに震える。


男が、静かに目を開いた。


「――ここから先は、通さぬ」


低く、静謐な声だった。刀の柄に手をかけ、音もなく鞘から抜き放つ。


一分の隙もない、静かな構えだった。


「来い」



戦いは、瞬く間に地獄と化した。


「ぐ、ああっ……!」


先陣を切ったルピンの一撃が、あっさりと弾かれる。


「速い……! 目で追えん……!」


男の一閃が走るたびに、確実に誰かの体を浅く裂いていく。


「私が――『黒炎槍』!」


ノノの魔術さえも、最小限の動きで躱される。


「――無駄だ。魔力を纏う前の、その”起こり”が見える」


「なっ……!」


一対一では、誰一人として敵わない。個としての武技の完成度が、あまりにも隔絶していた。


「くっ……! だが、四人がかりなら話は別だ!」


俺は棍を構え、覚悟を決めて叫んだ。


「囲め! 一点に集中させるな!」


「「「――!」」」


三人が同時に頷き、四方から同時に攻め立てる。


「メメ、俺とルピンにバフを!」


「――『身体能力強化』!」


淡い光が全身を包む。


「ノノ、奴の意識を切らせ! 隙を作れ!」


「言われなくても……! 『黒炎槍』、連発するから!」


四方八方から浴びせられる攻撃と魔術に、さすがの男も僅かに反応が遅れ始めた。


「――ほう。一人では敵わぬと知るや、即座に連携に切り替えるか。見事な判断だ」


「褒めてる場合か……!」


俺は隙をついて懐へと飛び込むが、その瞬間、男の刀が俺の脇腹を鋭く抉った。


「がっ……!」


「ディア!」


「大丈夫だ……! 続けろ!」


勇者スキルの頑強さがなければ、今ので致命傷だっただろう。


だが、俺はあえて退かず、その場に踏みとどまった。


(――これは、時間を稼ぐための”捨て身”だ)


俺が敵の意識を引きつけている隙に、ルピンが背後から巨躯を叩き込む。


「――ぬん!」


「ぐ、うッ……!」


初めて、男の体勢が崩れた。


「今だ、ノノ、メメ!」


「『黒炎槍』――!」


「――『バフ:一斉強化』!」


炎の槍と、光の後押しを受けた俺とルピンの一撃が、同時に男の体を捉えた。


――ドガァッ!!


「――が、はッ……」


男の体が、静かに崩れ落ちた。


「……見事、だ。……この連携こそ……我が朋輩たちに、足りぬものであった……」


最期に微かな笑みを浮かべ、男は静かに息を引き取った。



俺たちは膝をつき、荒い息を整えた。


体中の傷が、じくじくと痛む。一対一なら、間違いなく誰かが死んでいた戦いだった。


「……勝った、のか」


「ああ。四人がかりで、辛うじてな」


俺は握り締めていた棍を見つめ、静かに息を吐いた。


(――こいつがなければ、今の一撃も届かなかった)



混乱の中心――屋敷の最奥で、辺境伯は震えながら壁際に追い詰められていた。


恰幅の良い体を醜く震わせ、豪奢な衣服には既に火の粉が飛び散っている。


「た、助けてくれ……! 金なら、いくらでも――!」


「サキュバスを狩り、母を奴隷にした男の言葉とは思えないな」


俺は静かに、手にした棍を構えた。


「や、やめ――」


「お前が焼いた集落の炎を、そっくりそのまま返してやる」


――火刑。


崩れ落ちる燃え盛る屋敷の中に、辺境伯の断末魔の叫びが、やがて静かに消えていった。



「母様――!」


地下牢で見つかった母親は、痩せ細り、魔力封じの魔導具をつけられたまま、力なくうずくまっていた。


「ノノ……? メメ……? まさか、生きていたのかい……!」


「母様……! ごめんなさい、遅くなって……!」


ノノとメメが泣きながら母親に抱きつく。


俺は魔導具の鍵を叩き壊し、彼女の拘束を解いた。


「……ありがとう。あなた方が、この子たちを守ってくれたのですね」


母親は涙を拭いながら、深く頭を下げた。


「礼はいい。娘さんたちのおかげで、こっちも助けられている」


炎に包まれる辺境伯の屋敷を背に、俺たちは静かにその場を後にした。



夜が明ける頃には、街は完全に機能を失っていた。


焼け落ちた森、逃げ惑う住民、罠に倒れた者たち、そして未だ混乱から抜け出せぬ守備兵。


千五百人の要塞都市は、たった二十数人の襲撃によって、一晩のうちにその秩序を完膚なきまでに叩き潰されていた。


「――勝った、な」


ルピンが呆然と呟く。


「……ああ」


俺たちは母親を連れ、闇に紛れて森の奥――同郷の集落へと撤退した。



その夜。


安堵と共に、俺とルピンの中に積み重なっていた何かが、静かに臨界を迎えていた。


「――な、なんだ、この感覚……!」


不意に、ルピンの全身から、漆黒の魔力が噴き上がった。


『――種族【ハイオーク】から【オークジェネラル】への進化条件を満たしました』


体が、骨が、肉が、熱を帯びて作り変えられていく。


「ぐ、おおおおおッ……!」


ルピンの巨躯がさらに一回り膨れ上がり、全身に纏う覇気が明らかに変質していく。


「……これが……」


「オークジェネラル、か……! 悪くない、悪くないぞ……!」


ルピンが自分の拳を確かめるように握りしめ、獰猛に笑った。


俺の方には、何の変化も訪れなかった。


「……お前だけかよ」


「はっはっは、悪いな。俺の方が、少し早かったらしい」


「……次は俺の番、ってことにしとくさ」


軽口を叩き合いながらも、俺の内心では静かに勇者の知恵が囁いていた。


(――俺の進化には、恐らく別の”条件”が必要になる。今夜のような策略、あるいはもっと非道な所業……。悪魔らしい、な)


母親を助け、新たな力を得たルピンと共に、俺たちは語り合っていた。

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