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【悲報】最弱インプ、勇者を事故死させてスキルを強奪してしまう~成り上がり魔王譚~  作者: 下総山中
奪われしスキル、成り上がりの道

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第11話 花街に潜む『影』

北へ続く街道の途中、俺たちは小さな集落に立ち寄った。


人目を避けるように森の奥に隠れ住む、亜人たちの集落だ。


「――サキュバスの生き残りを探している。心当たりはあるか」


ルピンが集落の長らしき老いた獣人に尋ねると、相手は警戒するように俺たちを見回した後、静かに口を開いた。


「……お前さんたち、あの村の子か」


老獣人の視線が、ノノとメメへと向けられる。


「はい……。母様を、探しています」


ノノの声に、老獣人は目を細めた。


「あの日、辛くも逃げ延びた者が何人か、この森に流れ着いておる。……そして、お前さんたちの母君のことも、噂で聞いておるぞ」


「母様の、噂……!?」


「北の辺境――魔王城にほど近い地を治める辺境伯の馬車に乗せられ、その屋敷へと連れて行かれたという話だ。……あの御仁は、悪食で有名でな」


ノノとメメの表情が強張った。


「辺境伯……。北へ向かう道中に、ちょうどある」


俺の呟きに、二人が同時に顔を上げる。


「行ける、ってこと……?」


「ああ。ついでに片付けていく」



老獣人の案内で、俺たちは森の奥に隠れ住む同郷の生存者たちと合流した。


そこにいたのは、成人したサキュバスとインキュバスの男女、あわせて十数名。


「……本当に、あの子たちなのか」


年嵩のサキュバスの女が、ノノとメメの顔を見て涙ぐんだ。


「集落が襲われた夜、私たちは命からがら森へ逃げ込んだ……。まさか、お嬢様たちが生きておられたとは」


彼らは一様に、幼い頃のノノとメメを知る、集落の生き残りだった。


「あなた方は、ここでどうやって身を隠していたんですか」


俺の問いに、一人のインキュバスの男が薄く笑って答えた。


「成人したサキュバスやインキュバスには、『魅了』の他に、人間に化ける『擬態』の力が発現する者が多い。……この森の奥で息を潜めるより、時には人間の街に紛れ込む方が、案外安全なものだ」


(――なるほど。ノノとメメも、いずれはその力を手にするということか)


まだ幼い二人には発現していない、成体だけが持つ力。それを目の当たりにしたノノとメメの目に、複雑な色が浮かんでいた。


「私たちも、いつかその力を……」


「使えるようになる、のかな」


「なる。今はまだ、その途中ってだけだ」


俺の言葉に、二人は小さく頷いた。



生存者たちとの合流を経て、俺たちはしばらくこの森の集落に腰を落ち着けることにした。


目的は二つ。ノノとメメの魔法修行、そして辺境伯攻略の下準備だ。


「――もう一度、詠唱をやり直せ、ノノ」


同郷の年嵩のサキュバス――かつて集落で魔導を教えていたという女が、厳しい声を飛ばす。


「くっ……! 分かってる、分かってるよ……!」


ノノは唇を噛みながら、何度も何度も攻撃魔法の詠唱を繰り返した。


短気で負けず嫌いな性格が、ここでは修行への執念に転じていた。


「――『黒炎槍(こくえんそう)』!」


放たれた漆黒の炎が、標的の丸太を貫く。


「……いいぞ、その調子だ」


俺が声をかけると、ノノは僅かに頬を赤らめながらも、ぶっきらぼうに顔を背けた。


「べ、別に。あんたに褒められたいわけじゃ、ないし」


「そうか」


「そうだよ……!」


(――なんだ、あの反応)


俺は特に気に留めることもなく、次はメメの方へと目を向けた。


「メメ、集中しろ。矢を放つと同時に、支援魔術を編み込め」


「は、はい……!」


メメは弓を構えたまま、静かに詠唱を紡ぐ。


矢が放たれると同時に、淡い光がルピンの体を包んだ。


『――バフ:身体能力強化(小)』


「おお、体が軽い!」


ルピンが感嘆の声を上げる。


「よくやった、メメ」


「……えへへ。ディアさんの、役に立てて、嬉しい、です」


メメは控えめに微笑みながら、ちらりと俺の顔色を窺うように見つめてきた。


その視線に、俺は特に深く気づくことはなかった。


その日の夜、焚き火を囲んだ雑談の中で、誰かがふと「魔王城には、四大守護者と呼ばれる方々がいる」という話題を出した。


「そういえば、ディアに名をつけたっていう、その……リアーナ様、だっけ」


ノノが、努めて何気ない風を装いながら尋ねる。


「ああ。真祖のヴァンパイアだ。今頃、魔王城にいるはずだ」


「……そう。綺麗な人、なんでしょ」


「まあな」


「ふぅん……」


ノノの声が、僅かに低くなった気がしたが、俺はさして気にも留めなかった。


隣で、メメが少しだけ俯いていたことにも。



修行の日々を経て、俺たちは再び北への道を歩き始めた。


森を抜けた先に、目当ての街はあった。


高い城壁に囲まれた、要塞都市。魔王領を睨む最前線として築かれたこの街は、辺境という言葉には似つかわしくないほどの規模を誇っていた。


「――思ったより、でかいな」


ルピンが唸る。


住人およそ千五百。うち六百が常駐の兵士だという。魔族の脅威に晒され続ける辺境の地ゆえに、他のどの街よりも兵の比率が高い。


そして、その兵士たちの発散先として、街の一角には煌びやかな花街が形成されていた。


「――兵が多いから、娯楽も栄える、か。皮肉なものだな」


俺は城壁の外れ、木々の合間からその街並みを見下ろしながら呟いた。


千五百対、俺たちわずか二十人あまり。


まともにぶつかれば、瞬く間に磨り潰される数の差だ。



「――潜入は、私たちに任せて」


同郷の生存者たちの中から名乗りを上げたのは、成人のサキュバスとインキュバスあわせて十数名だった。


「擬態と魅了なら、私たちの十八番。兵士相手なら尚更ね」


「ノノ、メメ。お前たちはまだ表立って街に入るのは危険だ。俺たちは外で待機する」


「……分かってる。悔しいけど」


ノノが唇を尖らせる。


その夜、擬態で人間の姿を取った同胞たちが、商人や旅芸人、そして花街で働く女たちに紛れ込み、次々と街へと潜入していった。



数日後。


潜入した同胞たちから、少しずつ情報が集まり始めていた。


「――街の防衛体制、把握したわ」


花街で娼婦として潜り込んでいたサキュバスの一人が、夜闇に紛れて報告に来た。


「兵士は基本、城壁沿いと城門に配置。ただ、定期的に大規模な”遠征訓練”を行っているみたい。周辺の魔物討伐を兼ねた、実戦形式の演習ね」


「その訓練の日程は?」


「まだ確定はしていないけど……酔った兵士が花街で愚痴をこぼしていたわ。『来週の演習じゃ、精鋭部隊まで駆り出される。俺たち下っ端だけで街を守ることになるってのに』って」


俺は思わず口角を上げた。


「――当たりだな」


精鋭が不在になり、街の防衛が最も手薄になる日。それこそが、最大の好機だ。


「日取りが決まり次第、また報告に来てくれ」


「任せて」



続けて、別のインキュバスの男が地形の情報を持ち帰った。


「街の周囲は、ほぼ全域が森だ。……この地域は乾燥が続いていて、火の回りが異様に早い」


「森を焼くには、好都合ってことか」


「ああ。しかも、風向きは決まって夜に北から南へ抜ける。この風を使えば、街の一方向から煙と炎を送り込める」


俺は地図に、森を囲むように複数の点を描き込んだ。


「決行の夜、この数箇所から同時に森へ火を放つ。街を囲むように一斉に炎上させれば、住民も兵士も、内側からパニックに陥る」


「だが、全方位を燃やせば、こっちの逃げ道もなくなるんじゃないか」


ルピンの問いに、俺は首を振った。


「一箇所だけ、あえて燃やさない道を残しておく。追い詰められた人間は、必ずそこへ殺到する。……そこに、罠を仕掛ける」


「なるほど、な……。えげつねぇことを考える」


「褒め言葉として受け取っておく」



さらに、俺は同胞たちに、もう一つの仕込みを指示していた。


「風上――北側の森に、睡眠効果を持つ毒草を大量に植生させておいてくれ。火を放てば、煙と一緒に街全体へ流れ込む」


「眠らせて、無力化するってことね」


「ああ。ただし、これを使うなら味方の対策も要る」


俺は集落で作らせておいた、噛み続けることで睡眠毒の効果を薄める薬草ガムを、全員に配った。


「決行前に必ずこれを噛んでおけ。完全に無効化はできないが、意識を保つには十分だ」


ノノが受け取りながら、片眉を上げた。


「――随分、用意周到なんだね」


「行き当たりばったりで挑む数字じゃないからな」



決行の数日前、俺は改めて、集まった二十人あまりの前で計画を語った。


「まず、山火事でパニックを起こし、睡眠毒で戦力の大部分を無力化する。次に、混乱した住民や兵士に対し、お前たちの魅了を存分に使ってくれ」


「魅了された人間は、こちらの手足として動かせる。人数の”逆転”は、そこで起こす」


「――魅了で操った人間を、逆に守備側の対応に回らせる、ということか」


「そうだ。パニックの最中、“味方”が突然裏切ったように見える動きをすれば、街の混乱はさらに倍増する。対応にリソースを割かれれば割かれるほど、俺たちの動きは自由になる」


ノノが感心したように息を吐いた。


「本当に、あんたって悪魔だね」


「――お褒めに与り光栄だ」


「褒めてないから」


(――この世界の人間同士は、長らく大規模な戦争を経験していないはずだ。魔族という共通の脅威がある上に、国家間の条約が戦を封じている。ゆえに、“知略を用いた組織的な侵攻”そのものに、人間はまるで免疫がない)


俺は胸の内でそう結論づけながら、誰にも言わず、静かに笑った。


「――誰も、こんな真似をしてくるとは思っていない」


森の奥で、二十数人分の気配が、静かに息を潜める。


決行の日は、もう間近に迫っていた。

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