五話『突然の決闘』
「―――始め!」
訓練場に、団長の声が響く。
同時に、互いの木剣が乾いた音を鳴らした。
――カンッ。
――カンッ。
(……基本に忠実な型だな)
構えも、踏み込みも、癖がない。
戦う前の印象どおり、男の剣はどこまでも“平凡”だった。
(受けは、上手いみたいだけど……)
一度、二度、
剣を合わせて確かめる。
(……ここは、早めに決めちゃおう)
そう判断して、
僕は一飛びで、相手との距離を詰めた。
そして――
「――泡沫流『瞬泡』!」
泡が弾ける瞬間のように、
一拍で距離を詰める。
相手の肩を狙い、瞬足の突きを放った。
……はずだった。
――フッ。
剣は、空を切る。
相手は、わずかに体を傾けただけだった。
まるで、足元が“ずれた”かのような、不自然な動き。
(……え?)
ふと、周囲からやかましい声援が聞こえ始める。
「オラァ! 少年っ、やっちまえぇええ!」
「がんばってくださぁぁい!」
「“剣なし”に敗北を教えてやれえぇえぇえ!!」
……いつの間にか、ギャラリーが増えている。
周囲から無責任な声援が飛んでいた。
「……なんでみんな俺の応援じゃないんだよ……ったく」
目の前の男が、恨めしそうにぼやく。
……この人、あまり好かれていないのだろうか。
(それにしても、今の不規則な動き……)
『瞬泡』を見切られたのは、初めてだった。
師匠に泡沫の剣を習ってからというもの、
必殺の剣として磨いてきた技だ。
「……どうした。これで終わりか?」
団長の声が飛ぶ。
「……いえっ」
次で決める。
僕は再び構えを直し、相手を見据えた。
男の構えは、力の抜けた自然体。
剣先も、肩も、どこか気の抜けたように見える。
……油断しているだけにも見える。
でも、そこが―――
(……命取りだ)
―――泡沫流『返り水』
低い姿勢のまま、僕は一気に懐へ踏み込む。
下段から、掬い上げるように剣を振り抜いた。
乾いた音が、弾けた。
相手の木剣が、宙を舞う。
(――勝った)
あとは、このまま。
喉元へ、剣先を突きつけるだけ。
男は、間の抜けた顔で――
ただ、上を見ていた。
――そこにあるはずのないものを見るように。
……そして。
「――あでっ!!!」
後頭部に、激しい衝撃。
その瞬間、
ハクはめのまえがまっしろになった
◇◇◇◇◇◇
「―――勝者、クロノ・ハル!」
グラン団長の声が、訓練場に響く。
……ふぅ。
「……ま、ざっとこんなもんだな」
俺、クロノは、
なるべくニヒルな笑みを意識して、そう言った。
――あっぶねええぇ
――ちょーあぶねぇ




