四話『入団試験』
――――絶望した。
荷物はない。
着替えの服も、
ポーションも、
お金も……
(あれ?)
財布は残ってる。
……お金は殆どなくなっていたけれど。
(残っているのは……)
腰にさしていた剣。
それだけだった。
(……これからどうしよう……)
―――ゴーン…ゴーン……
街に鐘の音が響く。
――――そういえば、
「…やばい!
今日は―――入団試験の日じゃん!」
入団試験は確か……
九時からだったはず。
(もう時間は過ぎちゃってるかも知れないけど……
とにかく急いで行かないと)
―――ずきん
頭が痛む。
ふらつきながら立ち上がり、
改めて通りを見渡す。
……ここ、どこだろう?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「今年の志願者は……
なんといいますか、小粒ですね」
「……そうだな」
男は試験場を歩き、一周する。
誰もが緊張した顔で剣を握り、
魔術を唱え、
あるいは虚勢を張っていた。
(王国は、“次”を必要としている)
男は、城の上に掲げられた王家の旗を見やった。
(せめて『アイツ』とまではいかんが……
ある程度、戦える奴を見出してやらんと)
男の名は、ラドン・グラン。
この試験場で、最も国の未来を憂いている者がいるとすれば――彼だ。
――おいっ! ここをどこだと思っているんだ!?
(……ん?)
門の方が、騒がしい。
衛兵たちが、誰かと言い争っているようだった。
「――少し、様子を見てくる」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「だから言っているだろ!
身分証も推薦状もない奴は中に入れられない!」
「いや、だから……」
同じやり取りも、もう三度目だ。
(……推薦状、なくしちゃったんです)
(なんで……よりによって、こんな日に……)
衛兵の一人が、僕を値踏みするように見下ろした。
「……帰れ。ここはお前みたいなのが来る場所じゃない」
「ふん、これ以上御託を並べるならひっ捕らえてやろうか、怪しい奴め」
(違うんです…違うんです!)
「僕は決して怪しいものでは……」
「――おい」
低い声だった。
それだけで、衛兵たちの背筋が伸びる。
門の内側に立っていたのは、
長く剣を握ってきたと一目でわかる男だった。
「―――そこで何をしている?」
「グラン団長!!」
団長と呼ばれた男の視線が、僕の腰元に落ちた。
「……剣士か」
それだけを、低く呟いた。
「は、はい! あの、僕、ハクといいまして……。
ヒュロン村から来ました。その……」
……終わったかなぁ、僕。
このまま牢屋にでも、入れられちゃうのかな……。
「……ヒュロン?」
団長は、僕の顔を一度だけ見た。
それから腰の剣へ、視線を落とす。
「今、ヒュロン村と言ったか」
そして、衛兵の方を向いて、
「――いいだろう。通してやれ」
「「……へ?」」
「……え?」
二人の衛兵と、僕から、
そんな間の抜けた声がこぼれる。
……なんか通してもらえました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…ここで、少し待て」
団長は短くそう告げると、
僕を訓練場の一角へ案内した。
(……木刀、斧、矢尻を潰した弓……)
端には様々な武器が並んでいる。
どれも実戦用ではなく、
刃を潰すなど、殺傷力を抑えた訓練用のものばかりだ。
(……ここで団長と戦う、とかだったりして)
さすがにそれはないか、と自分で思い直す。
でも、こうして実技場に連れてこられた以上、
何か見せることになるのは間違いない。
「――待たせた」
しばらくして、背後から声がかかった。
振り返ると、そこには団長と、
――もう一人、軽装の若い男が立っていた。
「通常であれば、試験に遅刻した。
それだけで、本来なら落第ものだ」
低い声で、団長はそう告げる。
(最初から思ってたけど……渋い声だなあ。
もうちょっと……こう、
脅かさないでほしい……)
「……しかし、旧友からの推薦ともなれば、無下にもできん。
あいつに人を見る目があるかは疑問だが……
剣を見る目は、あの頃から変わってはいないだろう」
(……旧友?)
そんな疑問を抱く間もなく、
団長は言葉を続けた。
「で、あればこそ、だ。
ここで――こいつを相手に、その腕を見せてみろ」
「……なんで俺が」
軽装の男が、ぼそりと不満げに呟く。
(……う~ん……)
改めて見たその男は、
正直、拍子抜けするほど普通に見えた。
「――お前の全力を見せてみろ」
団長はそれだけ言った。
そして僕の対戦相手となるその人は――
……欠伸をしていた。




