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『剣なし部隊の英雄譚 ――原初十三騎士団・第13部隊』  作者: 檜浅利
第一章

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四話『入団試験』


――――絶望した。


荷物はない。


着替えの服も、

ポーションも、

お金も……


(あれ?)


財布は残ってる。


……お金は殆どなくなっていたけれど。


(残っているのは……)


腰にさしていた剣。

それだけだった。


(……これからどうしよう……)


―――ゴーン…ゴーン……


街に鐘の音が響く。


――――そういえば、


「…やばい!

今日は―――入団試験の日じゃん!」


入団試験は確か……

九時からだったはず。


(もう時間は過ぎちゃってるかも知れないけど……

とにかく急いで行かないと)


―――ずきん


頭が痛む。


ふらつきながら立ち上がり、

改めて通りを見渡す。


……ここ、どこだろう?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「今年の志願者は……

なんといいますか、小粒ですね」


「……そうだな」


男は試験場を歩き、一周する。


誰もが緊張した顔で剣を握り、

魔術を唱え、

あるいは虚勢を張っていた。


(王国は、“次”を必要としている)


男は、城の上に掲げられた王家の旗を見やった。


(せめて『アイツ』とまではいかんが……

ある程度、戦える奴を見出してやらんと)


男の名は、ラドン・グラン。


この試験場で、最も国の未来を憂いている者がいるとすれば――彼だ。


――おいっ! ここをどこだと思っているんだ!?


(……ん?)


門の方が、騒がしい。

衛兵たちが、誰かと言い争っているようだった。


「――少し、様子を見てくる」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「だから言っているだろ!

身分証も推薦状もない奴は中に入れられない!」


「いや、だから……」


同じやり取りも、もう三度目だ。


(……推薦状、なくしちゃったんです)


(なんで……よりによって、こんな日に……)


衛兵の一人が、僕を値踏みするように見下ろした。


「……帰れ。ここはお前みたいなのが来る場所じゃない」


「ふん、これ以上御託を並べるならひっ捕らえてやろうか、怪しい奴め」


(違うんです…違うんです!)


「僕は決して怪しいものでは……」


「――おい」


低い声だった。


それだけで、衛兵たちの背筋が伸びる。


門の内側に立っていたのは、

長く剣を握ってきたと一目でわかる男だった。


「―――そこで何をしている?」


「グラン団長!!」


団長と呼ばれた男の視線が、僕の腰元に落ちた。


「……剣士か」


それだけを、低く呟いた。


「は、はい! あの、僕、ハクといいまして……。

ヒュロン村から来ました。その……」


……終わったかなぁ、僕。

このまま牢屋にでも、入れられちゃうのかな……。


「……ヒュロン?」


団長は、僕の顔を一度だけ見た。

それから腰の剣へ、視線を落とす。


「今、ヒュロン村と言ったか」


そして、衛兵の方を向いて、


「――いいだろう。通してやれ」


「「……へ?」」


「……え?」


二人の衛兵と、僕から、

そんな間の抜けた声がこぼれる。


……なんか通してもらえました。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「…ここで、少し待て」


団長は短くそう告げると、

僕を訓練場の一角へ案内した。


(……木刀、斧、矢尻を潰した弓……)


端には様々な武器が並んでいる。


どれも実戦用ではなく、

刃を潰すなど、殺傷力を抑えた訓練用のものばかりだ。


(……ここで団長と戦う、とかだったりして)


さすがにそれはないか、と自分で思い直す。


でも、こうして実技場に連れてこられた以上、

何か見せることになるのは間違いない。


「――待たせた」


しばらくして、背後から声がかかった。

振り返ると、そこには団長と、

――もう一人、軽装の若い男が立っていた。


「通常であれば、試験に遅刻した。

それだけで、本来なら落第ものだ」


低い声で、団長はそう告げる。


(最初から思ってたけど……渋い声だなあ。

もうちょっと……こう、

脅かさないでほしい……)


「……しかし、旧友からの推薦ともなれば、無下にもできん。


あいつに人を見る目があるかは疑問だが……

剣を見る目は、あの頃から変わってはいないだろう」


(……旧友?)


そんな疑問を抱く間もなく、

団長は言葉を続けた。


「で、あればこそ、だ。

ここで――こいつを相手に、その腕を見せてみろ」


「……なんで俺が」


軽装の男が、ぼそりと不満げに呟く。


(……う~ん……)


改めて見たその男は、

正直、拍子抜けするほど普通に見えた。


「――お前の全力を見せてみろ」


団長はそれだけ言った。


そして僕の対戦相手となるその人は――


……欠伸をしていた。



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