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『剣なし部隊の英雄譚 ――原初十三騎士団・第13部隊』  作者: 檜浅利
第一章

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二話『ヴァルネイア』にて

―――酒場『ヴァルネイア』


その店は、街の喧騒からわずかに外れた場所にあった。

扉の向こうから、酔っ払いたちの笑い声が溢れている。


日はまだ沈みきっていない。

夜はこれからだというのに、その騒がしさは通りまで滲み出していた。


「……ここか」


女将の言葉に偽りはなかったらしい。


酒と、安い娯楽と、行き場のない連中。

それらが自然と集まってくる場所。

――そんな匂いがする。


(あのヒョロい盗っ人がいればいいんだけど)


いなければ、せめて何か情報を。

ここで空振れば、今日一日は無駄になる。


そう思いながら、ハクは扉を押し開けた。


カラン、コローン


アンティークなベルの音に、一瞬だけ店内の視線が集まる。

だがすぐに、客たちは酒へと意識を戻していた。


冒険者風の男たちに、商人らしき客。

忙しなく給仕をする女性。

奥では、賭博めいたゲームをしている卓まで見える。


(……いない)


店内をぐるりと見渡す。

財布を盗んだ、あのヒョロガリは見当たらない。


入口で立ち尽くしていると、店員のおねーさんが声をかけてきた。


「いらっしゃいませえ、『ヴァルネイア』へようこそ!お一人様ですかあ?」


明るい笑顔を向けられる。


「いや、その……僕は客じゃなくて……」


言い淀んだ、そのとき。


カラン、コローン


「よぅ! ネーアさん!

あっそびにきましたぜぃ!」


振り返ると、そこには財布を盗んだ張本人がいた。

ヘラっと笑い、軽く手を上げて入ってくる。


「いらっしゃいませえ、ってヒョロさん……。

…もうツケでは飲ませないって、この前言いましたよね?」


ネーアと呼ばれたおねーさんが頬を膨らませる。


「いやぁ、今日はちぃとばかし収入が入りましてねぇ。

普通に飲みに――」


そこで目が合った。


「……ヒョロ?」


まさか、それが本名なのか。


―――こいつだ。

こいつで間違いない。


「ヒョロ?…んん?

――……あぁっ!

お前さん、さっきの田舎む――ボヘぁあ!!!」


言い終わる前に、顎へ掌底を叩き込んだ。


「誰が田舎者だ! だ・れ・が!」


ヒョロは、そのまま近くのテーブルへ突っ込む。


ガッシャ――ン。


一瞬で酒場が静まり返った。


まったく。

僕にはハクっていう、れっきとした名前があるんだぞ。


倒れたヒョロの胸ぐらを掴み、無理やり起こす。


「さて……返してもらおうか。ボクのお財布」


揺さぶると、胸ポケットからぽとり、と。

見慣れた財布が床に落ちた。


「あったぁーーーー!!

ボクのお財布!!」


思わず抱きしめる。

あぁ、よかった……。

これで、やっとご飯が食べられる。


「すみませーんっ!

何か美味しいものを――」


振り返った先に立っていたのは、

腕を組んだ大柄なスキンヘッドの男だった。


「―――おい、ガキ。

ここはてめぇみたいのが来る店じゃあねえぞ」


……だれ?


「ったく。ヒョロのやつ、一発で伸びちまってるじゃあねえか」


男は倒れているヒョロを軽々と持ち上げ、手下に放り投げる。

どうやら仲間らしい。


―――まっ、関係ないよね!


「おねーさんっ!

あそこの人たちが食べてる大っきい鶏肉、僕にもくださいな!」


「「話を聞けやガキぃ!!」」


一斉にツッコまれた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「俺ぁな、この辺一体をしめてるゴズってもんだ」


……もぐもぐ。


「殴られたそいつは、俺の部下でな」


……もぐもぐ。


「大事な部下に手ぇ出したってのが問題なんだよ!」


「もぐ。すみませーん、お水くださぁーい!」


「「だから話を聞けえええっ!!」」


耳がキィンと鳴る。


「うるっさいなあ……耳がキーンってする」


水を一気に飲み干し、立ち上がる。


「ヒョロ、財布盗んだ。だから殴った。それだけ。

……さっきからそう言ってるでしょ?」


「「言ってねーよ!」」


酒場中からもツッコミが入った気がした。


「だから…正当防衛! はい、おしまい!」


そう言って会計を呼ぼうとした。そのとき、


「……ちっ、これだから田舎モンは…」


……はい、それ禁則事項。


「―――誰が田舎者だって?」


ゴズは鼻で笑う。


「王都じゃ弱ぇやつは狩られる。

てめぇみたいな田舎モンはエサだって話だ」


……カッチーン。



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