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『剣なし部隊の英雄譚 ――原初十三騎士団・第13部隊』  作者: 檜浅利
第一章

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一話『ハク・ヒュロン』


「……ここが、王都オリジナか」


オリジナ王国の王都――オリジナ。


大きな三本の川に囲まれた要害の地に築かれたこの城塞都市は、『水の都』の名で知られている。

商人や貴族はもちろん、職人や旅人、そして夢を志して都を訪れる者まで。

身分も目的も異なる人々が行き交う、王国最大の都だ。


そんな王都の街並みを、僕は落ち着きなく見渡していた。

石畳の道、行き交う人々、川沿いに立ち並ぶ建物。

何もかもが珍しくて、視線が追いつかない。


僕――ハク・ヒュロンもまた、

この都に憧れてやって来た一人だった。


「……っと」


不意に、肩に軽い衝撃。

細身で地味な男が、

すみません、

と小さく頭を下げて通り過ぎていく。


(さすがに、人が多いな……)


気にも留めず、僕は歩き続けた。


(まずは、今日の宿を確保しないと…)


宿屋に荷物を置いて、少し街を探索する。

明日に向けて道を覚えて、

できれば美味しいものも食べたい。


そう考え、近くの市場で宿屋の情報を聞き、

街外れの小さな宿屋へと向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「一泊、お願いします」


女将に声をかけ、腰元へ手を伸ばす。


……ない。


もう一度、確かめる。


ない。


…………。


「なんで財布ないんやああ!!」


思わず叫んでしまった。

いや、だって、え?

僕の――僕の全財産が入った財布だぞ?


「……どこだ。どこで落とした?」


頭を切り替える。

混乱している暇はない。


王都に入ってからここまでの道中で財布を出した覚えはない。

市場にも寄ったが、買い物はしていない。

そのまま宿屋に向かったはずだ。


――不自然だ。


「……そうか」


ひとつ、思い当たる場面があった。

さっき、人混みの中でぶつかった、あの細身の地味な男。


「……あの時か」


胸の奥が、すっと冷える。

村を出るとき、師匠に言われた言葉が蘇る。


――王都にあるのは、きらびやかなものだけじゃない。

――人が多く集まる場所には、必ず“はぐれ者”もいるもんじゃ。


「……あいつだ」


確信に近い感覚があった。


「あいつに、盗られたんだ」


理解した瞬間、視界が暗くなる。

否定したくても、理屈が揃いすぎている。


全財産。


王都での当面の生活費。

そして今日の宿代も飯代も、

――全部、ない。


「……はは」


乾いた笑いが漏れた。

絶望だ。

これはもう、間違いなく絶望だった。


「あんたぁ……やられたのかい?」


恰幅のいい宿屋の女将が、呆れたように声をかけてきた。


――いや、というか。

ここで叫んでいる僕の姿は、どう見えているんだろう。


哀れみと、変なものを見るような視線。

女将は肩をすくめ、言葉を続ける。


「あんたみたいな“おのぼりさん”は狙われやすいんだよ。

王都を知らない人間なんて、あいつらにとっちゃ遺跡の宝物殿みたいなもんさね」


その言い方に、胸の奥が少しだけムッとする。


――田舎者を馬鹿にするな、だ。


けれど同時に、理解もした。

この街では、こういう出来事は珍しくない。

「事件」ですらなく、「日常」なのだ。


――だったら。


「女将さん」


声を整えて、僕は言った。


「そういう連中が集まりそうな場所、

……心当たり、ありませんか?」


「はぁ……」


女将が大きくため息をつく。

その視線が、頭のてっぺんから爪先までを一往復した。


「……そんな女の子みたいなナリでさ。

本当に大丈夫かい?」

「――っ!」


余計なお世話だ!

思わず言い返しそうになって、ぐっと飲み込む。


「べ、別に好きでこういう体に生まれたわけじゃ……」


口に出してから、しまった、と思った。

女将はくつくつと喉を鳴らして笑う。


「悪い悪い。けどね、王都は見た目で食われる場所だよ。

背が低い、細い、ぼんやりしてる。

――それだけで“餌”さ」

「……」


そりゃ、背だってちょっと……ちょおおっとだけ小さいし。

見た目だって、筋肉もりもりのマッチョマン、って感じじゃない。


――でも。


「だからって、舐められて黙ってるつもりはありません」


自分でも驚くくらい、声は落ち着いていた。

女将は一瞬だけ目を細め、それから肩をすくめる。


「……その目なら、まあ死にはしないかね」


そして、少しだけ声を潜めて続けた。


「そういう連中が集まりそうな場所なら、心当たりはあるよ。

ただし――」


女将の視線が、宿の奥、王都の裏へと続く方向へ向く。


「行くなら、覚悟はしな」



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