十六話『イオドさんは変な人』
「―――待ちたまえ、クロノ君」
団長室を出たところで、背後から声がかかる。
振り返ると、そこにはイオドさんが立っていた。
「どうしました? イオド……隊長?」
一応、他の隊長たちもいるので敬称をつける。
「……ふっ。
いつも通りで構いませんよ、クロノ“隊長”。
貴方に隊長などと呼ばれると、どうにも気味が悪いので」
イオドさんは隊長陣の中でも人一倍規律に厳しい人だ。
「騎士団たるもの品位をうんたらかんたら……」
「隊長としてなんたらかんたら……」
「他の隊員への示しがなんとか……」
(……思えばいっつも何かしら注意されてるな、俺)
でもこういうプライベートな場面では、イオドさん呼びも許してくれる。
なんだかんだいい人だ。
「……ゴホン」
イオド隊長が一つ咳払いをする。
「……それでクロノ君。
あの“五日”という数字。
あれは何を根拠に出したのです?」
「……はて?」
「とぼけないでいただきたい」
イオドさんはじっと俺を見る。
「あの場で貴方は妙に具体的だった。
……何を知っているのです?」
「何って……」
あそこまで行くとして……
「まあ、馬車で移動するなら、そのくらいかなー、と」
「……馬車、ですか」
イオドさんは顎に手を当て、小さく何かを呟く。
「……馬車。
……なるほど。
確かにあの辺りには商隊の馬車も多い……」
イオドさんは一人納得したように頷いた。
「つまりは公国の中心部に情報が届く速度が約五日。
……そう考えたわけですね?」
なんの話だろう……。
「交易都市とはいえ、オードルムは我が王国の領土。
遺跡発見の情報が届くのにタイムラグはある……」
……なんか一人で納得してる。
イオドさんって不思議な人だなあ。
……ん?
「……遺跡?」
「ええ。新たな遺跡発見など、公国にとっても喉から手が出るほど欲しい情報でしょう。
ですが……」
その後もイオドさんは、なんか難しいことをずっと喋っていた。
―――遺跡。
(……遺跡か)
なんだか面白そうな話だ。
遺跡といえば、よくわからないものでいっぱいだ。
キラキラした石とか、
昔の変な武器とか、
なんか謎解きみたいな石板とか。
(昔はよくナイトやセリと探検したっけ……)
男の子はいつだって、探検とかよくわからないものが大好きだ。
かくいう俺もその一人。
(あの二人がこの話を聞いたら喜ぶかもな)
「……聞いていますか? クロノ君」
「……え?」
どうやらイオドさんの話は終わっていたらしい。
(ずっと一人で話し続けていたのか……)
イオドさんって変わった人だなあ。
「……まったく、貴方という人は……」
イオドさんは呆れたように額へ手を当て、小さく首を振る。
「……とにかく。
この件はいかに早く、正確な情報を掴むかが重要です」
そう言って、イオドさんは俺と、
団長室に残っていたウィルさんへ視線を向ける。
「こういう役目はウィルか……
あるいは貴方のところでしょうね」
イオドさんはわずかに目を細めた。
「……そうでしょう?
雑用係の13部隊?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――――って話があったんだよ」
部隊室に戻り、お茶を飲みながらみんなにさっきの件を話す。
お茶は団長付きの事務員さんに頼んで、“快く”分けてもらった。
……事務員さんのため息が聞こえた気がしたけど、多分気のせいだろう。
「……雑用係だなんて、ひどいですね。
わたしたちだってがんばってるのに!」
ぷんぷん、とオキシーはちょっと“おこ”だ。
……怖さはまったく感じないけど。
「……遺跡ですか。
行ったことないなぁ……」
ハクは目をキラキラと輝かせている。
そう!
いつだって男の子は探検が大好きなのだ!
「……」
それまで黙っていたフォスが、視線だけこちらに向ける。
「……クロノ。キミ、それは喋っていい内容なのかい?」
「……え?」
……うーん。
口止めされたような、そうでもないような……。
まあ、イオドさんも普通に喋ってたし……問題ないよね?
「……いや、まあいいか。
……新しい遺跡、ね……フフッ」
フォスは小さく笑う。
「クロノ」
「なんじゃい」
フォスに名前を呼ばれた、その時。
ハクが茶菓子に手を伸ばしていた。
なので、その前にぶんどる。
それは俺のだ!
……ハクはちょっと悲しそうだ。
「ボクは明日から少し出かけることにするよ」
そう言って、フォスは立ち上がった。
「えーっ!
フォスさんっ!
もしかして一人で遺跡にいくつもりですかっ!」
オキシーが慌てて声を上げる。
「フォスさん、馬に乗れないんじゃなかったですか?
それなのに一人でいくなんて……」
……フォスは背が低いからなあ。
しかしフォスも遺跡にすぐ反応するとは。
男の子はいつだって探検が大好きだ!
「……明日の馬車に相乗りさせてもらう。
オードルムは交易都市だ。商隊の馬車もたくさんあるだろう」
確かに。
団長も“迅速に”って、確か言ってたっけな。
……よし!
じゃあ、すぐ行こう。そうしよう!
「……あ」
思いついた。
「じゃあハクも連れて行こうよ!」
「「……え?」」
フォスとオキシーが一拍遅れて固まる。
「……え?僕?」
ハクも一瞬きょとんとする。
「ハクも行きたいでしょ?
そうでしょ?」
なんかつまらないって言ってたらしいし。
たまには気分転換も必要でしょ。
みんな冒険が大好きだもんね!
名案だ。
「……はいっ!
僕、行きたいです!」
ハクの表情がぱあっと明るくなる。
お菓子を食べられなくてちょっと悲しそうだったのが嘘みたいだ。
よしっ、よしっ!
……って小さくガッツポーズしてる。
ハクはちょっと変な子だった。
「……あのさ、クロノ?」
フォスがため息混じりに言う。
「……遺跡には危険も多いんだ。
キミ、その辺わかって言ってる?」
……まあ、確かに。
(遺跡には危険も多いけど……)
「大丈夫、大丈夫。
ハクなら大丈夫だよ」
たぶん。
なんかこう、凄そうな技も使えるし。
訓練も真面目にやってるしね!
「それにフォスがいれば大体のことはなんとかなる、
……でしょ?」
「……まあ、それは……」
「いいじゃないですかっ!フォスさんっ。
連れていってあげてくださいっ!」
オキシーがハクの腕を掴んで、ぐいっと引き寄せる。
「ハクさんも毎日がんばってますし……ねっ?」
オキシーが小首を傾けて、期待するようにフォスを見つめた。
「……はあ……。
全く……」
フォスは呆れたように首を振る。
「……ボクの邪魔だけはするなよ」
それだけ言って、フォスは自室へ戻っていった。
やったね!
イェイ!
とオキシーとハイタッチをする。
「よしっ!
じゃあ俺も準備しないとな!」
(お茶も買いにいかないとね!)
……まあ正直、良いお茶とか見てもよくわからないし、
オキシーにも手伝ってもらおう。
「……あっ」
オキシーが何かに気づいたように小さく声を漏らす。
「クロノさんはだめですよ?」
…………えっ?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……え?え……?
なんで…オキシー……」
オキシーはピッと机の上を指差す。
そこには書類の山ができあがっていた。
「クロノさんには隊長としての”おしごと”がありますからっ。
……だいじょおぶです。わたしも手伝いますっ」
……ぐすん。
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