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『剣なし部隊の英雄譚―――無敗の剣士ですが、自分では平凡な剣士だと思っています。』  作者: 檜浅利
第二章

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十六話『イオドさんは変な人』


「―――待ちたまえ、クロノ君」


団長室を出たところで、背後から声がかかる。


振り返ると、そこにはイオドさんが立っていた。


「どうしました? イオド……隊長?」


一応、他の隊長たちもいるので敬称をつける。


「……ふっ。

いつも通りで構いませんよ、クロノ“隊長”。

貴方に隊長などと呼ばれると、どうにも気味が悪いので」


イオドさんは隊長陣の中でも人一倍規律に厳しい人だ。


「騎士団たるもの品位をうんたらかんたら……」

「隊長としてなんたらかんたら……」

「他の隊員への示しがなんとか……」


(……思えばいっつも何かしら注意されてるな、俺)


でもこういうプライベートな場面では、イオドさん呼びも許してくれる。


なんだかんだいい人だ。


「……ゴホン」


イオド隊長が一つ咳払いをする。


「……それでクロノ君。

あの“五日”という数字。

あれは何を根拠に出したのです?」


「……はて?」


「とぼけないでいただきたい」


イオドさんはじっと俺を見る。


「あの場で貴方は妙に具体的だった。

……何を知っているのです?」


「何って……」


あそこまで行くとして……


「まあ、馬車で移動するなら、そのくらいかなー、と」


「……馬車、ですか」


イオドさんは顎に手を当て、小さく何かを呟く。


「……馬車。

……なるほど。

確かにあの辺りには商隊の馬車も多い……」


イオドさんは一人納得したように頷いた。


「つまりは公国の中心部に情報が届く速度が約五日。

……そう考えたわけですね?」


なんの話だろう……。


「交易都市とはいえ、オードルムは我が王国の領土。

遺跡発見の情報が届くのにタイムラグはある……」


……なんか一人で納得してる。


イオドさんって不思議な人だなあ。


……ん?


「……遺跡?」


「ええ。新たな遺跡発見など、公国にとっても喉から手が出るほど欲しい情報でしょう。

ですが……」


その後もイオドさんは、なんか難しいことをずっと喋っていた。


―――遺跡。


(……遺跡か)


なんだか面白そうな話だ。


遺跡といえば、よくわからないものでいっぱいだ。


キラキラした石とか、

昔の変な武器とか、

なんか謎解きみたいな石板とか。


(昔はよくナイトやセリと探検したっけ……)


男の子はいつだって、探検とかよくわからないものが大好きだ。


かくいう俺もその一人。


(あの二人がこの話を聞いたら喜ぶかもな)


「……聞いていますか? クロノ君」


「……え?」


どうやらイオドさんの話は終わっていたらしい。


(ずっと一人で話し続けていたのか……)


イオドさんって変わった人だなあ。


「……まったく、貴方という人は……」


イオドさんは呆れたように額へ手を当て、小さく首を振る。


「……とにかく。

この件はいかに早く、正確な情報を掴むかが重要です」


そう言って、イオドさんは俺と、

団長室に残っていたウィルさんへ視線を向ける。


「こういう役目はウィルか……

あるいは貴方のところでしょうね」


イオドさんはわずかに目を細めた。


「……そうでしょう?

雑用係の13部隊(クロノ君)?」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――――って話があったんだよ」


部隊室に戻り、お茶を飲みながらみんなにさっきの件を話す。


お茶は団長付きの事務員さんに頼んで、“快く”分けてもらった。


……事務員さんのため息が聞こえた気がしたけど、多分気のせいだろう。


「……雑用係だなんて、ひどいですね。

わたしたちだってがんばってるのに!」


ぷんぷん、とオキシーはちょっと“おこ”だ。


……怖さはまったく感じないけど。


「……遺跡ですか。

行ったことないなぁ……」


ハクは目をキラキラと輝かせている。


そう!

いつだって男の子は探検が大好きなのだ!


「……」


それまで黙っていたフォスが、視線だけこちらに向ける。


「……クロノ。キミ、それは喋っていい内容なのかい?」


「……え?」


……うーん。


口止めされたような、そうでもないような……。


まあ、イオドさんも普通に喋ってたし……問題ないよね?


「……いや、まあいいか。

……新しい遺跡、ね……フフッ」


フォスは小さく笑う。


「クロノ」


「なんじゃい」


フォスに名前を呼ばれた、その時。


ハクが茶菓子に手を伸ばしていた。


なので、その前にぶんどる。

それは俺のだ!


……ハクはちょっと悲しそうだ。


「ボクは明日から少し出かけることにするよ」


そう言って、フォスは立ち上がった。


「えーっ!

フォスさんっ!

もしかして一人で遺跡にいくつもりですかっ!」


オキシーが慌てて声を上げる。


「フォスさん、馬に乗れないんじゃなかったですか?

それなのに一人でいくなんて……」


……フォスは背が低いからなあ。


しかしフォスも遺跡にすぐ反応するとは。


男の子はいつだって探検が大好きだ!


「……明日の馬車に相乗りさせてもらう。

オードルムは交易都市だ。商隊の馬車もたくさんあるだろう」


確かに。

団長も“迅速に”って、確か言ってたっけな。


……よし!

じゃあ、すぐ行こう。そうしよう!


「……あ」


思いついた。


「じゃあハクも連れて行こうよ!」


「「……え?」」


フォスとオキシーが一拍遅れて固まる。


「……え?僕?」


ハクも一瞬きょとんとする。


「ハクも行きたいでしょ?

そうでしょ?」


なんかつまらないって言ってたらしいし。

たまには気分転換も必要でしょ。


みんな冒険が大好きだもんね!


名案だ。


「……はいっ!

僕、行きたいです!」


ハクの表情がぱあっと明るくなる。

お菓子を食べられなくてちょっと悲しそうだったのが嘘みたいだ。


よしっ、よしっ!


……って小さくガッツポーズしてる。


ハクはちょっと変な子だった。


「……あのさ、クロノ?」


フォスがため息混じりに言う。


「……遺跡には危険も多いんだ。

キミ、その辺わかって言ってる?」


……まあ、確かに。


(遺跡には危険も多いけど……)


「大丈夫、大丈夫。

ハクなら大丈夫だよ」


たぶん。


なんかこう、凄そうな技も使えるし。

訓練も真面目にやってるしね!


「それにフォスがいれば大体のことはなんとかなる、

……でしょ?」


「……まあ、それは……」


「いいじゃないですかっ!フォスさんっ。

連れていってあげてくださいっ!」


オキシーがハクの腕を掴んで、ぐいっと引き寄せる。


「ハクさんも毎日がんばってますし……ねっ?」


オキシーが小首を傾けて、期待するようにフォスを見つめた。


「……はあ……。

全く……」


フォスは呆れたように首を振る。


「……ボクの邪魔だけはするなよ」


それだけ言って、フォスは自室へ戻っていった。


やったね!


イェイ!

とオキシーとハイタッチをする。


「よしっ!

じゃあ俺も準備しないとな!」


(お茶も買いにいかないとね!)


……まあ正直、良いお茶とか見てもよくわからないし、

オキシーにも手伝ってもらおう。


「……あっ」


オキシーが何かに気づいたように小さく声を漏らす。


「クロノさんはだめですよ?」


…………えっ?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……え?え……?

なんで…オキシー……」


オキシーはピッと机の上を指差す。


そこには書類の山ができあがっていた。


「クロノさんには隊長としての”おしごと”がありますからっ。

……だいじょおぶです。わたしも手伝いますっ」


……ぐすん。



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