十七話『フォルトゥナ街道』
「――――ふぁあぁぁ……」
―――ガタゴト…ゴロゴロ……
馬車に揺られながら、僕は大きく欠伸をする。
(……ねむい)
昨晩はあまりよく眠れなかった。
―――だって。
(初めての任務が……それも遺跡探窟だなんて!)
すっごいワクワクだ。
……おかげでちょっと寝不足だけど。
「……そんな調子で大丈夫かい?」
隣で目を閉じていたフォスさんが口を開いた。
「まあ、眠いなら今のうちに寝ておくといい。
街道沿いを走っているうちは安全だからね」
僕たちは今、オードルムへ向かう商人の馬車に乗って移動している。
周りには、小麦畑やブドウ畑がどこまでも広がっていた。
きっとこの辺りで採れたものが、王都にも運ばれているんだろう。
(こういう景色は、なんだか少し落ち着くなあ)
村で育った僕にとっては、
王都の石畳や大きな建物よりも、こういう景色の方がずっと見慣れている。
振り返ると、遠くにはまだ王都の城壁が見えていた。
「今日はこのまま街道を進んで……なんでしたっけ?
街で一泊するんでしたよね?」
「……“フォルトゥナ”ね」
フォスさんが目を閉じたまま、短く答える。
『フォルトゥナ』
その街は、フォルトゥナ大森林の手前にある宿場町だ。
夜に森を抜けるのは危険らしく、
今日はそこで一泊することになっている。
「―――お二人さん、加減はどうですかい?」
御者席に座っていた商人さんが、こちらへ振り返った。
「あっ、はい!
……すみません、寝てしまって……」
「んにゃ、いいっていいって!」
カカカ……と商人さんは愉快そうに笑い、手綱を握り直す。
(……いい人だ、とっても)
商人さんはまだ若く見える。
隊長たちと同じくらいか、少し上くらいだろうか。
僕たちが朝、王都でいくつかの商隊に断られた後で、
――――あっしでよければ乗せますぜい!
その時、この人が声をかけてくれた。
気さくで、なんだか話しやすい人だった。
「あっしにとってもありがたい話でさあ。
これだけ荷が多いと、船で運ぶってわけにもいかねえもんで」
「……オードルムへの物資輸送は、途中まで船で川を上るのが一般的なんだ」
フォスさんが、ぽつりと口を開く。
「ただ、川上りはどうしても時間がかかる。
……それに大きな商隊に属さない商人では、一度にたくさんの荷物を運ぶのも難しい 」
なるほど……。
「そうなんすよ。
だから遠回りで行くしかない、ってトコだったんすけどね。
……いやあ、お二人に会えてラッキーでした」
「……すごい荷物の量ですよね。
一体何が入ってるんです?」
僕は積荷の壺を指差して尋ねる。
「中には塗料や染料が入ってるんですぜ」
商人さんは器用に手綱を操りながら答えた。
ずらりと並んだ壺は、どれもとても重そうだ。
「食料なんかは大きな商隊が押さえてるし、利も少ないもんで。
……あっしみたいなのは、こういう加工品とか、そういうのを運ぶんす」
それを聞いて、フォスさんがぽつりと呟く。
「……なるほど。
案外見た目と違って賢い選択をするね」
(……フォスさん、それ聞こえますって!)
商人さんに失礼ですよ!
「……そういえば、お二人は何をしにオードルムへ?」
商人さんが再びこちらに向き直る。
「あっ、それがですね……」
僕が説明しようとしたところで。
―――ごほん。
と、フォスさんが小さく咳払いをした。
(……あ)
――――遺跡の話はするなよ。
王都を出る時に、フォスさんに言われたことを思い出す。
あぶない、あぶない……。
(……いや、言うつもりはなかったです、よ?)
と、フォスさんをちらりと見る。
……丸眼鏡の奥から覗く細い目がちょっと怖い……。
「……あ、ええと……
そっ、そういえばまだ、自己紹介をしてませんでしたね!」
強引に話を切り替える。
……そういえば王都を出る時は、フォスさんに急かされて名乗ってなかったっけ……。
「そういやそうでしたねえ……
あっしはカインですぜ」
商人さんの名前はカインさんと言うらしい。
「僕はハクって言います!
改めて、よろしくお願いします、カインさん」
僕は横のフォスさんへと視線を向ける。
「……フォスフォライト、フォスでいい」
フォスさんはそう言うとまた瞼を閉じた。
話はこれまで、という感じだ。
「ハクさんに、フォスさん。よろしくですぜ!」
―――ブルルルっ
馬車を引く馬まで、
「ヨロシクだぜ、旦那!」って言ってるみたいだ。
「まだまだ街道は続きますし、お二人とも、ゆっくり寝ててくだせえ」
そう言って、カインさんは手綱を握り直した。
僕も少しは寝るとしよう。
……ふわぁ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ぐすん」
一方その頃。
俺は部隊室で、書類の山と戦っていた。
「……クロノさん、手が止まってますよぉ?」
向かいでオキシーがにこにこと笑っている。
(笑顔が怖い……)
オキシー、本気モード。
「……オキシー」
「なんですか?」
「俺も遺跡に……」
「だめですっ」
……ぐすん。




