十四話『箒持ち』
―――ブンッ!
――――ブンッ!
(型を意識しながら……)
一振り、一振り。
集中して木刀を振る。
――――ブンッ。
木刀を切る音だけが、騎士団の訓練場に響いた。
「……はぁ」
(いつになったら……)
……いやいや。
集中、集中!
軽く頭を振って、意識を切り替える。
――――ブンッ。
――――――ブゥン……。
「……はぁ……」
騎士団に入隊して一ヶ月。
毎日、毎日。
ひたすら木刀を振り続ける日々だ。
(一体いつになったら任務に行けるんだろう……)
―――というわけで。
ここで僕、ハクの一日のルーティンをご紹介!
まず朝六時……いや五時起床!
顔をバシャバシャと洗い、そのまま日課のランニングへ向かう。
その距離、五キロ!
……最近、十キロに増えた。
そして七時。
朝食……を作る。
四人分。
「おはようございますぅ~。ハクさんは今日も早起きですねっ!」
大体いつもこの時間に部隊室へやってくるオキシーさん。
朝はいつも礼拝室に行っているらしい。
「……おはようございます、オキシーさん……。
……はぁ」
「……?
ここ数日、いつもため息ですねぇ、ハクさん」
と、オキシーさんが顔を覗き込んでくる。
「お疲れですか?
……ちょっとだけ回復魔法、どうですかっ!」
オキシーさんは満面の笑顔で、ふんすっと意気込んでいる。
「遠慮しときます……」
本当に遠慮しときます……。
また呪いの人形みたいに髪が伸びたらたまりません。
「うーん、そうですかぁ。残念です」
ちっとも残念そうには見えなかったが、
オキシーさんはすぐに朝食の準備を手伝ってくれる。
「二人はまだ起きてこないですねえ……」
「……ですね」
ここ一ヶ月でわかったことがある。
まずフォスさん。
部隊室では、いつも分厚い本を読んでいる。
その後は自室にこもって、
ずっと錬金術の研究をしているらしい。
一度、オキシーさんと一緒に研究室を覗きに行ったことがある。
「フォスさぁ~ん、お茶を持ってきましたよっ!」
二人でお茶とお菓子を持って、
研究室を覗いてみると――
「……邪魔」
結果、一秒で追い返されました。
……訓練場では、一度も見かけたことがない。
いつも遅くまで研究しているのか、
朝はほとんど見かけない。
(一応、六時起床って騎士団の決まりがあるはずなんだけど……)
でも、必ず八時には起きてくる。
自分の決めたペースだけは絶対に崩さない。
……そういう人らしい。
「フォスさんはもう少ししたら、ですけど。
……クロノさんは今日も遅いですねえ」
「……」
隊長、クロノさんは……
すっっっっっっっっっごく!
時間にルーズだ。
六時ぴったりに起きたかと思えば、
そのままどこかへと消える。
……と思ったら、次の日は昼まで起きてこなかったりする。
(すっごいいい加減な人なんだよなあ……)
でも意外と修練場には顔を出したりする。
「―――おう! ハク。
今日も良い振りしてるな!」
そんな適当な声をかけては、さっさと去っていく。
(あの人が剣を持ってるところ、ほとんど見たことないんだよな……)
ちなみに騎士団には「七時に全部隊で朝食」というルールがある。
……僕らの部隊が食堂で揃ったのを見た者はいなかった。
「……セリさんがいれば、クロノさんも少しは早く起きてくるんですよ?」
不意に、オキシーさんがそんなことを言った。
(心を読まれたっっ!!)
……オキシーさん、たまに妙にするどい。
そんなこんなで。
部隊の二人が起きてこないこともあって、
気づけば毎朝、僕が朝食の準備をする係になっていた。
……いやまあ。
一人で食堂に行って食べるの、なんか寂しいし。
(多分、僕が来るまではオキシーさんがやってたんだろうな……)
それ以外の僕の仕事といえば、もっぱら騎士団宿舎の掃除だ。
部隊室はもちろん、廊下やトイレ、風呂場まで。
たまに僕以外の新人隊員と、一緒に作業することもある。
「……あいつだろ? “剣なし”の……」
「……次は“箒持ち”ってか?? 相変わらずバラエティに富んでるねえ……」
「……おい、聞こえるぞ……」
(……聞こえてるよ……)
雑用をしていると、他の部隊の先輩たちの会話も自然と耳に入ってくる。
朝食のことといい、どうやら第13部隊はかなり浮いているらしい。
「……はぁ~あ」
早く任務につきたい……。
他の新人たちだって、掃除や雑用がメインとはいえ、
「明日、初めて野外演習についていくんだぜ!」
「いいなあ……。俺なんてまだ門番とか周辺警備ばっかりだ……」
「……ボクは次の遠征についていくんだな」
「「マジかよ!!」」
(マジかよ!)
周りにどんどん置いていかれている気がする……。
他の新人は部隊の先輩から指南を受けたり、組手をしたり……。
一方で、僕の訓練といえば、ほとんど自主練だ。
(だって誰も訓練場に来ないからね!)
……まあ、素振りだって大切だ。
いつも爺ちゃんに言われてたっけ。
「基本が大切だ」って。
……でも。
「――――つまらあぁぁぁぁああぁああんんっっっ!!!!!」
思わず訓練場で叫んでみた。
……誰もいなかった。
(早く! なにか! 僕にも仕事をっ!!!)
といっても、どうやら13部隊には決められた任務、というものがないらしい。
「わたしたちは、“ゆうげきぶたい”ですからねっ」
オキシーさんはそう言っていたっけ。
(遊撃部隊。)
……響きはかっこいい。
でも周りの先輩たちの噂を聞く限り、
「体の良い便利屋」
……どうやら、それが第13部隊に対する騎士団内での評価らしい。
偵察、護衛。
未開地の調査に荷物運び。
果ては迷子の捜索まで。
……要するに、なんでも屋ってことだ。
「――――そんなに訓練はつまらんか?」
ビクゥッ!!
慌てて後ろを振り向く。
「……グ、グラン団長……。
お、お疲れさまですっ!」
ピシリッ! と敬礼のポーズ。
「……すまんな。驚かせたか。」
「い、いえっ!
そんな、めっそうもございません!」
びびったー。
……ちょーびびった。
思わず冷や汗をかく。
(い、いつから後ろにいたんでしょーか??)
……懲罰とか、ないですよね……?
「……ふむ」
団長は顎の無精髭を触る。
「……まあ、なんだ……その。
……いい、剣筋だな。うん」
気まずそうだあああ!
そうだよね?そーですよね??
だっていきなり部下が一人で発狂してたらね?
そりゃー誰だって気まずくなりますよ!!
「い、いやその!
決して訓練がつまらないとか、
そういうわけではなくてですね……」
考えろ。この場を切り抜ける言い訳を!!!
「……いや、そうだな。
お前の剣の型を見ていれば、それは分かる」
グラン団長は、まっすぐ僕の目を見てそう言った。
ほっ……。
「真面目ないい型だ。
……よく似ている」
(……誰に?)
「……そ、その人って?」
「……昔の話だ」
団長は、それ以上話すつもりはないのか、
小さく首を振った。
「……さて」
そう言って、軽く肩を回す。
「俺もちょうど、少し体を動かしたいと思っていてな」
……え?
「……暇ならどうだ、ハク」
団長は、立てかけてあった木剣に手をかける。
「俺の指導なら……
つまらん、ということもないだろう?」
団長は、ほんの少し意地悪そうに口元を緩めた。
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