十話『お金は大事』
――――1・1・1。
「……っ、ありえねぇ…」
(ありえねぇだろ、こんな手札!)
オレの手札は6のダブル。
少なくともこの場じゃ最強のはずだ。
コイツは最初に“6”を引いた。
(なのに、なんで一番弱ぇ“1”を残してやがる!?)
一体どんな考えで……
「……クソっ!」
ゴズは呻くように呟き、場の札を睨む。
―――こちらは6・6・5。
――――相手は、最弱とはいえ1・1・1。
……負けだ。
(……いや、待て)
嫌な汗が背中を伝う。
(仕込みが見抜かれていた……?)
目の前のヤツを見る。
……ヘラヘラとした顔で、
てめぇが出したチップをそそくさと回収してやがる。
(とても切れるヤツにゃ見えねぇが……)
「――――さて」
目が合う。
「じゃあ、その剣、もらっとくね」
クソムカつく笑みを浮かべて、
そう言いやがった。
◇◇◇◇◇◇
……いやー、危なかった。
(まさか揃うとはねえ……)
俺は回収したチップをポケットへ突っ込みながら、
ほっと胸を撫で下ろす。
正直、途中から全然わかんなかったんだよね。
なんか急にルール増えるし。
(まあ、1って“1番”って感じでかっこいいし)
テキトーに残しといて正解だった。
(結果オーライ、だな)
俺はゴズの手元にあった剣へ視線を向ける。
これは床で転がってるあの子に返しておこう。
流石に丸腰は可哀想だしね。
――――うぉおおおおっ!!
次の瞬間、
酒場がどっと沸いた。
「マジで勝ちやがった!」
「ゴズが負けたぞ!」
「兄ちゃんやるじゃねぇか!」
歓声が一斉に飛び交う。
「ゴミ箱行きだったんだな」
「……お前それ気に入ってんの?」
さっきの三人組まで騒ぎ始めた。
(……いやあ、なんか盛り上がってるなあ)
どうもどうも。
「…………チッ」
ゴズは舌打ちしながら、
苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……へっ。こんなの、ただのマグレっすよ」
ヒョロが口を挟む。
ゴズのゆかいな仲間たちまで、
好き勝手に囃し立て始めた。
「そうっすよアニキ!こんなヤツ、次やりゃ――」
「どーせイカサマでもしたんだろ? あぁ??」
「酒も飲めねえ甘ちゃんが、イキがってんじゃねえぞ!?」
「えぇ……」
いや、もうやりたくないんだけど……。
「――――ゴズ」
不意に、 ネーアさんの声が割って入った。
空になったジョッキを回収しながら、
そのままゴズの横を通り過ぎる。
「……あんたも、ヤキが回ったね」
「…………」
周りには聞こえないくらいの、小さな声。
ゴズの頬が、ぴくりと引き攣った。
「…………チッ」
ゴズはもう一度舌打ちすると、
ゆっくり椅子から立ち上がる。
「……今日はもうしまいだ」
―――帰るぞ。
そう言って、ゴズは酒場を後にしようとする。
「……あっ、お金も置いていってね!」
ゴズは振り返る。
……その目は、どこか苦そうだった。
「……チッ」
お金は大事だもんね!




