表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢のエルフだった私が殺してしまった彼が転生してきたので、300年かけて作った平和な世界で今度こそ幸せにします  作者: 月野 せい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/5

第4話 焚き火の夜

夜が来た。


ルーカスが、小屋の前で焚き火をしていた。

木の枝が、ぱちぱちと音を立てている。


ティスレイアは、その向かい側に座った。


「どうぞ。温まりますよ」


ルーカスは、ホットミルクを差し出した。ティスレイアはそれを受け取った。


「あの」

「なんだ」

「な、名前!」

「名前?」

「はい! 名前教えて下さい! もう、そろそろいいかなって思って……」


助けられてから数日、ルーカスに名前を教えていなかったことに気づいた。


「……ティスレイア」


人間に名前を教えるなど馬鹿げている。でも何故か、偽名を使うことは考えられなかった。


「ティスレイアさん」


ルーカスが嬉しそうに言った。


「綺麗な名前ですね」

「そうか?」

「はい。ティスレイアさんは、とてもお綺麗な方なので、その、名前とすごくマッチしているというか……」


ルーカスの頬がほんの僅かに赤くなった。

「血濡れのティスレイア」、「残虐のティスレイア」など散々な呼ばれ方をされてきた。エルフ界でも「ティスレイア」の名を聞けば、震え上がるものもいるほどだ。

なのに、この男は、この名が綺麗だと言った。


(人間とは、可笑しな生き物だ)


「僕は、ルーカスと言います」

「知ってる。村の子供達が呼んでた」

「そうですか。いつも、おい、とか、お前、しか呼ばれないから、てっきり知らないのかと……」


少し寂しそうな表情をする目の前の男。小さな声で「ルーカス」と呼ぶと、ルーカスは嬉しそうに微笑んだ。


「名前を呼ばれただけで嬉しいのか。変なやつだ」

「嬉しいです。だって、少しだけティスレイアさんと仲良くなれた気になりました」


にししっ、と歯を見せて笑うルーカス。ティスレイアに向けて、こんなに笑いかけてくる者など、エルフ界にもいなかった。

父も母も兄妹も、戦さばかりしか興味がなく、小さい頃から英才教育を受けてきた。勝つことが正義、弱いものは殺されて当然の世界で育てられてきた。


「ティスレイアさんは、家族はいるんですか?」

「両親と兄弟がいる」

「へぇ。兄妹もいるんですね。いいですね」

「別にいいものでもない」


兄弟といっても、お互いを戦さの道具としてしか思っていないのだから、赤の他人のようなものだ。


「お前は、家族はいるのか?」


しばらく沈黙が続いた。


「俺の家族は、戦争で亡くなりました」


ルーカスが、ぽつりと言った。


ティスレイアは、ルーカスを見た。


「……そうか。すまない」

「いえ。もう昔のことなので」


きっと彼の家族はエルフとの戦さで死んだに違いない。戦さで家族を殺されて、何故私を助けたのだろうか。


「私が憎くないのか?」

「何故ですか?」

「お前の家族は、エルフに殺されたのだろ? 私を殺そうと思わないのか?」


火の影が、ルーカスの顔の半分を照らしていた。

もう半分は、暗かったためか、表情がよくわからなかった。


「最初は、あなたを助けるべきか迷いました」


「……」


「でも、あなたを殺したところで家族はもう帰ってこないし、僕の両親もきっと喜ばないと思いました」


ルーカスは、火に枝を一本足した。


「あなたを殺しても、他のエルフが僕を探して殺しに来ると思うんです。そんなのキリがないじゃないですか」


「……」


「やられたからやり返しての繰り返しじゃ、この戦争は終わらないんですよ」


「……」


「僕たちの代で戦争を終わらせたいんです」


「……お前は戦さに出るのか?」


「はい」


ティスレイアは、「……そうか」と呟き、火を見つめた。


「勘違いしないでください。僕は、戦争を終わらせるために出るんです。大切な人たちを、村のみんなを守るために戦います」


ーー知らない方が良かったのかもしれない。


今まで、父の命令で戦さをしてきた。それが当たり前だったからだ。

人間を殺すのが私の使命だと幼少期から刷り込まれてきた。


「ティスレイアさんは、何故戦さに出るんですか?」

「……わからない」


生まれた時から、戦さをすることを刷り込まれてきたから、それが当たり前だった。


戦さに理由なんてなかった。


ーー私は、何のために戦っているんだろう。


ティスレイアは、焚き火を眺めながら、戦さの意味を考えていた。


枝が、ぱちぱちと音を立てる。

火の粉が、夜空に消えていく。

その光景を、こんな風にゆっくり眺めたのは、何百年ぶりだろうか。


戦場ばかりを駆けてきた目には、この火の温度が、痛いほど優しかった。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。


★評価やレビュー、お気に入り登録、応援コメントは、

どれも大きな励みになります。

ぜひご感想をお聞かせください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ