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第26話 再戦! 剣聖シャドウ

 武人然とした佇まいに、袴姿に革製のブーツを履いている。少し世界観が違うように見えるが、剣聖とはそれだけの特権を持っているのだと、恭平は考えた。


「やって来たぜ」

「ラピスラズリ殿下……お越しになられたのか。目的は概ね理解している。案内しよう」


 剣聖ゲイルはあまりへりくだる言い方をしないが、尊重はいているようで、動作1つ1つが礼儀正しい。

 槍を構えていた兵士を下げ、瑠璃の隣に立ち案内を始めた。

 そして、恭平たちが城門をくぐると、黒い鎧を着た騎士がたった1人で立ちはだかっていた。

 その禍々しい騎士に見覚えがある。一度は敗れた剣聖シャドウその人だ。


「随分と早いお出ましだな」


 恭平はすぐに魔剣を構え、臨戦態勢を取る。だが、剣聖シャドウはそれを制するように右手を前に突き出した。


「せっかちだな、児玉」


 聞き覚えのある声に恭平の体が強張る。それは、瑠璃も同じようで少し後退った。


「樋山も、少し話せないか?」


 剣聖シャドウは被っていた黒い兜を脱ぎ去る。

 そこで恭平は初めて剣聖シャドウの正体を知った。


「お前……化学の……吉田?」

「そんな、吉田先生!?」


 髪はきっちりと整え、無精ひげも剃り、背筋を伸ばしてはいるものの、その人物は吉田教諭だった。

 見間違いではないかと、恭平は兜を脱ぎ、顔をよく見る。だが、恭平の記憶にある人物で間違いはなかった。


「こんな場所では会いたくなかったけどな。ここに来てしまったのなら、しょうがない」

「何1人で納得してるんだよ。こっちは全然わかんねーよ!」

「児玉、らしくないな。お前がこんなに動揺するなんて」


 驚きによって、相手が剣聖シャドウであることを忘れそうになる。

 恭平は奥歯をぐっと噛み締めた。


「なんだよそれ……お前、ずっと瑠璃を監視してたのかよ」


 恭平の言葉で理解したのか、瑠璃は手で口元を隠しながら、目を大きく見開いた。


「その通りだ。高校に来てからずっと見守らせてもらった」

「なるほど、やたら瑠璃に肩入れしてたのはそういう理由かよ」


 恭平は化学準備室でのやり取りを思い出す。吉田教諭が瑠璃と結婚しろと言っていたことを。


「お前ならきっとでっかいことをすると思っていたが、こんなことをしでかすなんて想像を超えていたよ」

「俺もこんなところで出会うなんて思いもしなかったよ!」


 平静な様子の剣聖シャドウに対して、恭平は噛みつくように叫んだ。


「あんた、瑠璃が刺客に狙われていることを知って見殺しにしてたのかよ! ただ見ているだけで、何もしなかったよな! 瑠璃を幸せにしたいようなことを言っておきながら!」


 恭平の叫びに対しても、剣聖シャドウは全く動じない。

 ただじっと2人を見ているだけだった。


「先生! どういうことなんですか? 私にはさっぱり分かりません……」


 情報不足で混乱しながらも、瑠璃は何とか自分の意見を言うことができた。

 その隣の恭平は野犬のように噛みつく寸前だったが、それを制止した。


「そうか。普通はわからないよな……。俺はベリル女王代理に仕える騎士、剣聖シャドウ。児玉が言う通り、樋山、お前を王女として監視していた」


 吉田教諭が自分に敵対する相手だという事実に瑠璃の頭が混乱する。

 自分の身近にいた教師がそんな相手だったという事実は瑠璃にとって大なり小なりショックを受けていた。


「ベリル女王代理の騎士であり剣である俺は、お前が王座に就くことを阻止しなくてはならなかった。本来なら首を撥ね、謙譲せねばならない」


 剣聖シャドウは淡々と語っていく。

 瑠璃もその声を聞き逃さないように耳をすませていた。


「だが、ただの子供を殺すことに抵抗を覚え、ずっと見守っていた。魔法界のことを知らず、自分が王女であることを知らず、女王代理に逆らわず、1人の人として幸せに暮らすのであれば、それでいいと考えていた」


 だから手を下さなかったと、剣聖シャドウは言う。


「なら、私がここに来なければ――」

「違う!」


 瑠璃の言葉を恭平が遮る。

 瑠璃の考える可能性を一蹴した。


「あんたの言ってることは無茶苦茶だ。そう思うなら、刺客を止めろよ、見殺しにするなよ、何もしないくせに人の幸せを願うなよ! まるで自分は悪くないみたいなことを言うんじゃない!」


 命がけで瑠璃を守ってきた恭平は、瑠璃を救っていたような言い方をする剣聖シャドウがどうしても許せなかった。

 だから、思いの丈をぶつける。心の底から憎いと思う。


「……そうか。本当なら、児玉とは戦いたくなかったが、引くことはできないか」

「当然だろ!」


 澄ました表情の剣聖シャドウに、恭平のイライラは募っていく。


「なら、力づくでご退場願おう!」

「うるせぇっ! 退場するのはあんただ!」


 2人は兜を被ると同時に駆け出す。そして、黄色い剣と黒い剣がぶつかり合った。


 激しい魔力のぶつかり合いに火花のように魔力が弾ける。前回の戦いでは一方的だった恭平だが、多少は渡り合えるようになっていた。

 だが、やはり力負けするのか、すぐに旗色が悪くなる。


「児玉! 命までは取らない。今すぐ樋山を連れて家に帰れ!」


 不利と感じた恭平はすぐに飛び退いて体勢を整える。

 魔剣を眩く輝かせると、魔力を吸い出す。魔剣の階級であれは、魔剣ライトニングが上のはずである。力と技術の差は魔剣の質でカバーする。

 恭平が飛び出すと、地面に敷かれているレンガが弾けて飛び散った。


「はいそうですかって、言うと思ったか! 俺は瑠璃を女王にする。そう誓ったんだよ!」


 魔剣を振りかぶって剣聖シャドウに斬りかかるが、向こうの踏み込みの方が速い。こちらの胴体を捉えた一撃が迫るのを強引に進行方向を変えることで回避する。

 空中に魔力で作った足場を蹴り、上空に上がると、そのまま斬りつける。だが、剣聖シャドウも魔力を扱えるため、ありえない軌道で一撃を回避した。


「吉田ぁっ! あんたが引けばいいだろ! 瑠璃を即位させればその悩みから解放できるんじゃないのか!」


 恭平のさらに上へと飛び上がった剣聖シャドウは頭上を取り、狙いを定めて黒い魔剣を振るう。


「児玉が樋山に剣を捧げたのであれば、俺はベリル陛下に剣を捧げている。譲れないものが俺にもあるということだ!」


 恭平はかろうじて黒い魔剣を受け止めたが、勢いを殺せず地面へ叩き付けられる。姿勢を崩したまま、足場を蹴って自分の位置を強引に変えた。

 そこに、剣聖シャドウの一撃が炸裂し、クレーターのように地面を抉った。


「その、女王代理ってやつは、弾劾されてんだろ! お前が間違ってるって気付けよ!」


 地面を叩いている隙だらけの剣聖シャドウに向けて、魔剣を思い切り振りぬく。だが、目に留まらぬスピードで回避され、背後を取られてしまう。


「樋山は何も知らん学生だ。ベリル陛下が王位を続ければ、今の不平不満もいずれ鎮火するだろう」


 とっさに振り返り、魔剣で重い一撃を受け止めるが、力が違い過ぎて弾き飛ばされる。その先にある城壁に叩きつけられると激しい衝撃に利用されている岩のレンガが割れて吹き飛んだ。

 その威力に肺から空気が出てしまい、息が詰まってしまう。


「無理をするな。1か月程度で俺との差は埋められん」


 宙に浮いたまま、剣聖シャドウは恭平を見下ろす。

 恭平は咳を吐いて肺に酸素を取り込む。そしてすぐに剣聖シャドウへと斬りかかる。だが、その一撃はあっさりと躱されてしまう。

 眩く光る魔剣はまだその真価を発揮していない。その前に、攻撃を受けて十全に魔力を引き出せない。


「だとしてもッ! 俺はあんたには負けない!」


 繰り出す斬撃は全て空を斬り、攻撃が当たりすらしない。スピードで上回る剣聖シャドウは攻撃と回避を繰り返し、確実にアドバンテージを得ていった。


「くそっ! 邪魔だ!」


 恭平は突如被っていた兜を放り投げる。兜を脱ぐことで視界を広く確保するためだ。

 そのおかげか、剣聖シャドウの動きを追えるようになった。が、そこまでだった。


「実力の差は、その程度の小細工で覆すことはできない!」


 剣聖シャドウのスピードによって、恭平は防戦を強いられる。

 剣を受けるのも衝撃が殺せないのは同じで、徐々に体勢を崩していく。


「ここまでだ!」


 止めと言わんばかりの全力の一撃が振るわれる。恭平は剣戟を防げはしたが、頭から地面に突っ込んでく。

 その勢いはすさまじく、地面に敷かれたレンガが弾けて宙を舞う。

 兜を脱ぎ去ったことが致命的になった。普通の人間なら間違いなく頭蓋が砕け死ぬ以外はない。


「やり過ぎたか……」


 剣聖シャドウは動かなくなった恭平の近くに下りる。そして、動かなくなった恭平を一瞥した。

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