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第18話 剣聖シャドウ

 特筆することもない通学路を歩いていた。放課後とはいえまだ日はそれなりに高く、まだまだ明るい。


 恭平は歩きながら、以前に聞いた吉田教諭の言葉を反芻していた。

 結婚は言い過ぎだが、仲は良くなりたい。今のままではいけない。だが、1つ懸念があってなかなか足を踏み出せない。


 軽い溜息を吐いて、先を進もうとしたその時、頭に鋭い痛みを感じた。


(! 恭平!)


 肩につかまっていたエクレールがとっさに口を開いた。


「ああ、流石にこれは、俺でもわかる。剣聖だろ?」


 恭平の言葉にエクレールが頷く。

 前に剣聖ゲイルが現れた時と、感覚が似ている。だが、今回は魔力の知覚を超えて痛覚にまで達していた。


(これは、私たちを誘っています)


 恭平は歯を食いしばり、痛みの先に視線を向ける。

 その方向には瑠璃の住んでいる住宅街がある。それだけで、嫌な予感しかなかった。


(今回も近くにラピス姫がいます)

「今、手を出さないってことは、本命は俺か……」


 少し息を吐いた後、右手に魔剣を出現させる。そして、鎧を召喚し全身に纏った。

 兜がきちんとか被れているか、少し動かしてチェックする。以前、瑠璃に鎧姿を目撃されている以上、顔は絶対に隠さなくてはならない。


 それから、すぐに体を宙に浮かせると、目標を目指し飛び立った。

 以前、剣聖ゲイルと刃を交えた場所を通り過ぎる。戦いの跡を直すために工事中という看板が立てかけられ、通行禁止になっている。

 そこを通り越した場所に人が浮いていた。


黒い全身鎧にを身につけ、黒く光る剣を握っている。黒い剣はこちらの魔剣より一回り大きく、禍々しく見える。その様子から次の剣聖であることは容易に想像ができた。


(あの剣は間違いなく魔剣シャドウ。相手は剣聖シャドウです)


 下を見れば帰宅途中の瑠璃の姿が確認できる。この黒い騎士がその気になれば、瑠璃はもうこの世にはいなかっただろう。

 恭平は奥歯を噛み締めると、黒い騎士を正面に捉えた。


「呼ばれて来たぜ。俺は剣聖ライトニング。剣聖シャドウの相手をしてやるよ」

「……」


 黒い騎士は返事をすることもなく、黙ったままだった。最初から声をかけてきた剣聖ゲイルとは全く逆の構図になる。

 恭平は何も語らない黒い騎士に魔剣の切っ先を向ける。


「お前も瑠璃を狙っているんだろ? 答えろよ」

「……」


 黒い騎士は何も言葉を発することなく、殺意を恭平へ向けてくる。その殺気はあまりにも暴力的すぎた。それだけで恭平の体を痺れさせ、動きの自由を奪っていた。

 この状態を脱するために、動き出そうとした瞬間、剣聖シャドウの姿が陽炎のように歪む。


「消え――」


 瞬間、剣聖シャドウは恭平の目の前で、魔剣シャドウを振りかざしていた。まるで瞬間移動したような動きに戸惑うが、それでも体が咄嗟に動き、魔剣で受け止める。

 だが、振り下ろされた魔剣シャドウの勢いに耐えることができずに、地面に向かって吹き飛ばされた。それでも、恭平は姿勢を起こして地面を蹴とばし激突を回避する。


 兜を被っているにも関わらず、顔の汗をぬぐうように手を動かした。

 剣聖ゲイルと剣を交えた経験がなければ、この一撃で勝負は決していただろう。剣聖ゲイルと比べてもスピード、パワーが上回っている。すでに常人を逸脱している。

 剣聖シャドウが持つ剣は先ほどより禍々しく黒い光を放っていた。これは恭平と同じく、魔剣シャドウから魔力を得ているからだ。


(早く魔力を引き出してください。このままでは――)


 突如人影が現れたと思うと、黒い魔剣を薙いでくる。魔剣で受け止めることはできたが、やはりその衝撃に吹き飛ばされて地面の上を破壊しながら滑っていった。


 剣聖ゲイルとの戦いのように恭平に一切のアドバンテージは存在しない。


 恭平が魔剣を構えなおすと、眩い黄色の光を放ち始める。魔力による身体能力の上昇。これで反撃に移ろうとするが、すぐ正面に剣聖シャドウが現れる。攻撃を魔剣で受け止めたが、その衝撃で後方へ弾かれて塀にぶつかってしまう。

 かなりの威力があったらしく、塀は粉砕され、恭平は立ち上がるのに精いっぱいだった。


 止めを刺すつもりで、剣聖シャドウは黒い剣を水平に構えて突進してきた。

 恭平は地面を蹴とばし、上空に逃げる。が、剣聖シャドウは直角に進路を変更し、突撃を止めることはない。


「くそっ! もっとだ! もっと力をよこせ!」


 両手で持つ魔剣に力を入れる。さらに輝きを増すと恭平の体が軽くなった。魔力を帯びた足で空を蹴り、真横へ逃げる。しかし、追尾してくる剣聖シャドウの突撃が恭平を捉えた。


 それでも直撃は避けることができ、鎧が大きく切り裂かれただけで済んだ。その鎧の傷からは血が流れ、鉄の鎧を赤く染めていく。あの一撃をまともに受けていたら、体が半分に分断されていただろう。


 恭平はなりふり構わず、剣聖シャドウへ斬ってかかるが、簡単に回避された。ここからは剣聖ゲイルの時と同じく、魔力の力でパワーと手数で攻める。

 1撃目は回避される、2撃目はさらに早く打ち込む、3撃目はもっと早く打ち込んだ。だが、その全ては剣聖シャドウに当たることなく空を斬る。


 魔剣を輝かせ、さらにスピードを上げるが、簡単に回り込まれてしまう。

 そこに、剣聖シャドウが放つ全力の斬撃が恭平に叩きつけられた。姿勢を崩しながらも魔剣で受け止めるが、その勢いは殺せず、アスファルトへ叩きつけられた。

 その衝撃は道に大きなクレーターを穿つ。


「かっ――!」


 恭平の口から血が吐き出される。衝撃があまりに強かったのか、頭を守る兜は砕け、はじけ飛んだ。


 頭部へのダメージが大きく、恭平の視界がぼやけていく。


 呼吸も困難になり、酸素を求める魚のように、口をパクパクと動かすことしか出ない。


「!!」


 黒い騎士は突如その動きを止めた。このまま黒く光る剣を刺せば恭平を殺せるという状況にあるというのにだ。

 ただ恭平を見下ろしているだけで、黒く光る剣を振るうことはしない。

 次の瞬間、黒い騎士はそこにいなかったのかのように姿を消した。


(恭平――)


 遠くでエクレールの声が聞こえた気がしたが、その声も聞こえなくなる。視界はさらに霞み、何も見えなくなってきた。


 恭平はそれでも立ち上げろうと、体を動かす。今でも瑠璃が襲われているかもしれない。

 だから、この程度の傷で倒れる訳にはいかない。


 体に力を入れるが、先日の体育館裏でのやり取りが脳裏をよぎる。


『私は恭平に助けられたくない』


 自然と身体から力が抜けていく。

 恭平は誰もいなくなった空を見上げることしかできず、その瞼を閉じていく。

 薄れていく意識の中、こちらを見下ろすよく見知った顔があった。

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