第11話 2人だけの入浴タイム
家に帰ってくると、恭平は疲れの為か、身体を重く感じていた。
夕食を手早く済ませると、早速風呂に向かった。
1日の疲れは風呂で取る。それが恭平の信条である。
早々に衣類を脱ぎ捨てると浴場へ、そしてまずは身体を洗う。
湯船に入るのは身体を綺麗にしてからと、恭平は決めている。
まずはシャワーを浴びて――と思っていると、脱衣所に誰か入ってきて衣類を脱いでる様子が見えた。
この時間にいるのは、母と姉のみ。まさか、姉がとち狂って入ってくるとでも言うのだろうか、と恭平は身構える。
「おい! 俺が入ってるから入ってくんな!」
「そんなことは存じています」
入ってきたのは一糸まとわぬ金髪碧眼の女性だった。
しなやかな腕と確かな胸、それと、すらりと伸びる足。
長い髪を手で払いながら、その肉体を恭平に見せつけてきた。
「いかがですか、私のこの肉体美は」
「なんだエクレールか。驚かせるなよ」
恭平はそれだけ言うと、シャワーのバルブを開いてお湯を出そうとすして、エクレールを一瞥することもなしない。
「それだけですか? 同じ風呂にこんな美女が全裸で入ってきたのですよ。嬉しさのあまり涙を垂れ流しながら感謝されてしかるべきでは?」
「いや、お前、ずっとただの布切れしか着てなかっただろ。裸でもあまり変わらない」
予想外な返答にエクレールは大口を開けて固まってしまう。が、恭平がシャワーを浴び始めると気が付いたように動き出した。
握っているシャワーをぶんどると恭平へ浴びせかけてきた。
「失礼ですね。布1枚と全裸では天と地ほどの差があります。もっと女心を理解するべきです」
「うわっぷ、お前は乙女じゃないだろ」
「そういうところです」
水攻めを受ける恭平はジャワ―を止める。
水を払うように頭を左右に振った。
「で? 何の用だ?」
「背中を流してあげます」
エクレールは近くにあったナイロンタオルを手に取り、ボディーソープを山盛りに塗りたくる。
そのタオルを恭平の背中に当てると、上下に動かした。
「平均的男性なら夢のような体験に、よだれを垂らして狂喜乱舞してまうでしょう」
エクレールとはいえ、女性に背中を洗ってもらえるというシチュエーションに、恭平は背筋を伸ばしてしまう。
「なあ、どうしたんだ? 今日のお前は少し変だぞ。唐突なホームステイ設定に、瑠璃の尾行、そして泡姫ときたもんだ。話してみろ」
「……」
エクレールは手を止め、口を閉ざした。だが、すぐに再開する。
「前に言いました。恭平ばかりずるいです。いつもこんな楽しいことをして……」
恭平は黙ってエクレールの言葉に耳を傾けた。
「……何でもありません。さあ、私のテクニックで恭平の背中をカンナでピカピカにした板のようにしてあげます」
「なんか例えが物騒――てか、痛い! 痛い! 力込めすぎ、ナイロンタオルでそんなに力入れるんじゃない!」
「冷めた反応しかしない仕返しです」
力強いエクレールの洗い方を嫌がりながらも、それを止めようとはしなかった。
彼女も調子に乗って、さらに力を入れてきた。
「次は前を洗います。こちらに向いてください」
「じゃあ、頼む」
恭平は物怖じすることなく、エクレールと向き合う。両手を組んだまま堂々と前を晒す。
そして、エクレールの全身を舐めるように見つめた。
「お前、パイパンだったんだな」
「最低でっす!」
エクレールは全力で恭平の股間を殴りつけた。
恭平は表情をそのままに顔が青く染まり、その場に崩れ落ちた。
「やり過ぎましたね」
エクレールは冷静にシャワーで泡を流して、恭平を湯船に放り込んだ。
それから、数舜の後――
「ぶっは! て、殺そうとしたな!」
恭平は見事蘇生を果たし、湯船から顔を上げた。
「おい、次は俺が背中を流してやる」
恭平がナイロンタオルを奪い取ると、両手をワキワキさせてエクレールへ迫る。
そんな様子に対してエクレールは平静な表情になった。
「遠慮します。背中を流すふりをして、背後からこの豊満なバストを揉みしだこうとしているとは知っています」
「いや、そんなことはしない」
「しないのですか。それはそれで屈辱です」
冷静な恭平とは違い、エクレールの方が悔しさに身体を震わせていた。
「ほら、馬鹿やってないでさっさと身体洗え、その後髪を洗え、そして、髪をまとめて湯船の湯につからないようにしろ」
「命令が多いですね」
エクレールがひとしきり洗い終わると、長い金髪を頭の後ろでお団子上に結んだ。
それから、エクレールも湯船に浸かる。
一般的な広さしかない湯船に男女が入るには少しサイズが狭い。どうしても身体が触れ合ってしまう。
「どうして、一緒に湯船に入るのですか?」
「はぁ……お前、寂しかったんだろ。いつも見ているだけで何もできないことがさ」
エクレールは赤くなった顔を隠すように半分湯につけて、口から息を吐いて泡立てる。
「お前の好きにすればいい。疲れるが付き合ってやるよ」
「本当にいいのですか?」
「俺とお前は魔剣で繋がっているんだよ、一心同体ってやつだ」
エクレールは見つめながらさらに顔を湯に沈めて顔を隠そうとするが、その顔を恭平によって引き上げられてしまう。
「湯船に髪の毛を入れるのはマナー違反だ」
「そこが重要なのですね」
耐えられなくなったエクレールは立ち上がり、湯船から出るとそのまま脱衣所へ出ていく。
「バスタオルで身体を拭いておけよ。あと、髪の毛はきちんとドライヤーで乾かせ。髪が痛むからな」
「言われなくてもわかっています」
湯船に残された恭平はぐっと伸びをしてから、力を抜いて湯船の体をゆだねた。
「まあ、俺も平均的男子高校生だからな、興奮ぐらいするさ」
誰にも聞こえないようにつぶやくと、鼻から血が流れ出てきた。




