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第10話 王女様の生態観察

 その日の放課後、1日の疲れを取るように恭平は大きく背伸びをした。

 そして、首を2回横にると、コキコキと音が鳴る。


 まだ外は明るく、部活に向かう生徒や友達と会話する生徒で教室内は喧騒の中にあった。


「さて、帰るか」


 今日は珍しく刺客が現れず、平和に過ごすことができた。

 もう学校には用がないと、席から立ちあがると最前列にある瑠璃の机へと向かっていく。


「おう、じゃあまた明日な」

「さよなら」


 いつもの挨拶を交わして恭平は教室を出ていく。

 その際、突然エクレールの顔が視界いっぱいに広がった。


「おう、どうした?」

(私、ひらめきました)


 霊体状態のエクレールは着ている服を見せびらかすように目の前でくるりと回って見せた。


(ラピス姫の生態です)

「生態って……もう少し言い方があるだろ」


 何が言いたいのかよくわからない恭平は無視するように足を止めることなく廊下を歩く。


(人として生活して気が付きました。私たちはラピス姫のことをあまりにも知らなさすぎます)

「確かにそうだな。学校ではずっと仏頂面で教科書を読んでるだけだしな」


 恭平も興味があり、エクレールの発言に乗ってきた。


(学校外、つまり放課後のラピス姫を尾行しましょう)

「面白そうだな……」


 そう呟くも、首を左右に振ってよこしまな考えを振り払う。


「ダメだ。人には踏み入ってはいけないプライバシーがある。尾行というのはやり過ぎだ」

(発言と行動が一致していない様に見えますが?)


 恭平は下が乾かぬうちに、帰宅するであろう瑠璃の尾行を始めていた。

 エクレールは息吐くと、恭平の背中に抱きつくように姿勢を変える。


(このままではすぐにばれてしまいます。とりあえず認識阻害の魔法を使っておきます)

「魔力の反応はバレるんじゃないのか?」

(軽いものです。関係ない人に関心を持たれない程度です)


 エクレールの協力を得て、尾行を開始した。



 尾行を開始して数分。

 瑠璃はこちらに気が付く様子はなく、通学路を歩いている。


 そのうち、見覚えがある場所へと踏み入れた。


「公園か……」


 公園を横切る瑠璃とエンカウントしたことがあった。


 自分の死を確認するために公園へ出向き、刺客と初めて戦った時だ。

 わざわざ公園を横切る必要がある通学路に、ちょっとした違和感を覚えた。


 恭平は遠回りになると知っていながら、公園を横切ることはしない。

 通学路は学校側に提出しなくてはならない。昨今の犯罪事情を考えれば学校側が生徒の動きを把握したいということなのだろう。

 それを無視してここを通る理由が恭平にはわからなかった。


(あ、街の方に向かってますよ)


 瑠璃が向かう先は少し栄えた商店街。この先はあまり住宅はなく、家に帰るには少し不似合いな場所だ。

 もちろん、商店が実家というケースもあるだろう。


 だが、やはり通学路に公園を使っていることに違和感がある。


 瑠璃が向かう先には2階建ての建物。


(本屋ですね)


 周辺と比べて大型の店舗には「本」と書かれた看板が飾られている。

 外観はガラス張りの部分が多いが、ブラインドで直射日光は遮るようになっていた。


 瑠璃はその建物に吸い込まれるように入っていく。


「……参考書か?」


 恭平たちはその後を追い、建物の中へと入っていく。


 建物の中はかなりのスペースがあり、視界いっぱいに棚に収められた本で埋め尽くされている。見回した程度では店舗内全てを確認することはできない。


 ここには本のほかに文房具、食玩、駄菓子と、普通本屋に置かれていないものも置かれている。2階にはCDやDVDの販売コーナーまであって軽い総合施設になっていた。


 そんな広い店舗を瑠璃は惑うことなく目的地へ向かっていた。


「あれ? 参考書じゃ……ない?」


 瑠璃が向かった先はコミックコーナー。その中でも雑誌を取り扱っている棚である。

 そこには試読本が置いてあり、部分的に読むことができた。


 瑠璃はその試読本を手に取ると、熱心に読み始めた。


「漫画!?」

(これは意外な展開ですね)


 棚から雑誌コーナーがよく見えるに身体を乗り出して観察する。その姿は明らかに不審者のそれであったが、認識阻害の魔法により誰も気にしていないし、通報もされていない。


 雑誌を読む瑠璃は楽しそうに笑みをこぼしていた。

 それは恭平が見たことがないないもので、いつも向けられていた仏頂面とはまるで違った。


「あんな風に笑うのかよ……」


 恭平は軽く唇を噛む。

 彼女を笑顔にしたのは恭平ではなく、ただの漫画雑誌だった。


 そんな恭平のことを気にする風でもなく、エクレールは恭平の肩から乗り出すようにして、瑠璃の様子を眺めている。


(あれ、どんな雑誌なのでしょうか? ここからでは見えませんね)


 雑誌自体はみることはできないが、雑誌の中でも細かく分類されている。その分類からどんな雑誌かはある程度予想がつく。


「あれは少女マンガだな」


 漫画に対して知識が乏しいのか、エクレールは目を輝かせて恭平に説明を迫った。


「恋愛がテーマとなったものが多い漫画だよ。名前の通り少女向けだ。恋に恋する少女がターゲットなんだろ」


 恭平の言葉にエクレールは何でも頷いて返した。


(私も読みたいです)

「次の機会な」


 恭平が言うも、エクレールは瑠璃の隣まで飛んでいくと、背後から雑誌の中身を覗き見る。

 霊体になっているエクレールは恭平以外には見ることができない。そんな手があったのかと、恭平は頭に手をやった。


 瑠璃が雑誌を読み始めて15分程度で満足したのか試読本を閉じて、元の場所に戻した。

 そして、すぐに場所を移動し始めた。購入する気は最初からなかったようである。


(恭平! 私も漫画が欲しいです)


 物欲にまみれた笑顔でエクレールが戻ってきた。


「俺のやつなら好きなだけ読め。今は尾行が優先だろ」


 本屋から出ていく瑠璃を確認すると、恭平たちもその後を追って本屋を出た。


 その後は特にどこに寄るともなく、2階建ての日本家屋へと入っていく。

 その道程は約10分。ここからだと登校に要する時間とほぼ同じだった。


 特筆することのない家だったが、あえて言うなら建てられたのは相当昔のようで、貫禄のようなものを感じる。ただの古ぼけた屋敷とも言える。


 その家の玄関には「樋山」と書かれた表札があった。

 ここが瑠璃の家で間違いと恭平たちは身構えた。近くの電柱に身を潜め、行く末を見守った。


 それから30分が経過した。


「外から見ているだけじゃわからないんじゃないか?」

(そのようですね)


 しばらく2人の間に沈黙が訪れる。


「お前、霊体なら家の中を観察することができるんじゃないか?」

(女の子の家を覗き見るとか、プライバシーを尊重するべきです)


 再び2人の間に沈黙が訪れる。


「じゃあ、俺たち何のためにこんなことしてるんだろうな」

(ラピス姫の生態観察です)


 それからさらに1時間経過した。

 夏が近く、日も長くなってきたとはいえ、日は傾き空が少し赤く染まってきた。


「俺、帰るから後は頼む」

(ちょっと待って下さい。頼むとはどういうことですか?)


「疲れたし、腹減ったし、進展ないし、お前が尾行を続ければいいだろ。何かあったら教えてくれ」


(待って下さい。私は魔剣の精霊なのであまり遠く離れることはできません)

「そうなのか。じゃあ、帰るか」

(そうですね。私もお腹がすきました)


 お前は今まで何も食わなくても平気だっただろ、と突っ込みたい気持ちを抑えて恭平は帰路についた。

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