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異世界指令「転生して歴史を改変せよ」  作者: 小津敬一郎
第一章 魔女騎士ジェニーを殺害せよ
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国境都市は犯罪都市

 随分騒がしい。国境を越えてきた奴が衛兵に殺される。

 そして、国境を越えて行く奴が向こうの衛兵に殺される。

 国境の向こうには理想郷が広がっているんだ!……馬鹿馬鹿しい。


 国境都市、ラインフィナッツ。

 治安、最低の都市。殺しや盗みは日常茶飯事。

 そんな都市の衛兵の仕事は……許可なしで国境を越えてきた奴を殺す。

 それだけだ。


 さっそくジェニーがいるか、周辺のまだまともそうな奴に聞いてみる。


「ジェニー?女王騎士のジェニー様なら中央都市だろ。」


 ほうほう、随分な地位にいるんだな、ジェニーは。

 って、そりゃマズイだろ!一般人が踏み入れられない領域じゃないか!

 今の俺には、歌で落とす以外の戦術は無い。


「前王が死んだとき。年長者の長女と第二子の長男の、どちらかを王にするか揉めてな。」


 その時のいざこざで国が平定しなかった時期があったのだと。


「その間、半年くらいだけだが。国王経験者だ、ジェニー様は。」


 そんな事も知らないとは、どこの生まれだ?と聞かれる。

 ウィンクスノウ鉱場村だぞ、と得意げに主張すると。


「ど、ド田舎もド田舎じゃねえか……なんか、ごめんな。」


 謝られた。

 とにかく民の信頼も厚く、一時期は王の座に就いたことを讃えられ……

 女王騎士と呼ばれるようになったんだと。


「見た事ないか?ないか?すっげえ美人だぞ。」


 それはぜひとも見てみたい。


「一時とは言え、国王になれるくらい身分も高い。ああ、ジェニー様……」


 今からそいつを殺しに行くところなんだ。

 ところで、その女王騎士、ジェニーは今何歳?


「御年二十歳だ。」


 二十歳!だとすると、そろそろやばいな。急がなくては。


「待て。情報料をよこせ。銀貨一枚だ。」


 金、取るのかよ。仕方無しに財布から一枚の銀貨を取り出し、渡す。

 男はじゃあな、と手を振り路地裏へ……

 その男はバットの様な木製の鈍器で殴られる。そして財布を奪われた。

 この都市……弱肉強食!

 俺は、大丈夫なのだろうか?


「なあに、旅人には悪さはしないよ……貧民(スラム)街さえ避ければ。」


 後ろを振り向くと老婆が。いかにも、ひっひっひと笑いそうな老婆だ。


「ひっひっひ。この街を出たいかね?」


 本当にそう笑うんだな。この街を出る方法、教えてもらう事にした。


「馬車の運賃を賄うほど派手に稼げば、盗まれる。奪われる。」


 確かに。ここの治安は最低だ。


「だから旅人は……歩くんじゃ。」


 徒歩!なるほど、その手があったか。

 鍛冶屋街と中央都市、どちらから来たか?と老婆に尋ねられる。

 俺は、鍛冶屋街の方から来た、と答える。

 それならば、来る途中いくつかの村があっただろう?と老婆は言う。


「中央都市への道も、そんな感じじゃ。」


 なるほど。決して楽な道じゃないが、ここに留まるよりは、遥かにマシだ。

 歩いていこう。老婆に感謝を。


「ひっひっひ。銀貨一枚。」


 お前も取るのかよ!

 腰の悪そうな老婆は路地裏に……あ、誰かとぶつかって財布を奪われた。


 この街はどうかしている。

 まあ特別、金目の物を持ってるわけでは……

 しまった、このリュートとナイフ!どちらも超が付くほど高級品だ。


 住人に気付かれる前に……この街を出よう。

 一番近い村まで、徒歩で丸三日か。

 食料を適度に買い、旅支度。


 さようなら国境都市。未練は全く無い。一刻も早く出て行くぞ。


 ゴガンッ


 一瞬視界に火花が散り……その後はひたすら黒。

 意識がぼんやりと、周辺の音を拾うだけになる。

 なにやら複数の男の声と、ロープで何かを縛る音だけが聞こえる。


 目が覚めると、そこは牢屋。縛られていたのは、俺だ。

 リュートとナイフは……俺をここに閉じ込めた輩の、誰かの手に。


「起きたか?」


 見回りに来た男にそう言われる。


「ここから、出せ!」


 男は首を横に振る。


「残念だが。盗人を牢から出す規則はない。」


 俺は盗人じゃない、と反論する。

 なら、どこであのような高級品を手に入れたのだ、と詰問される。


「貰い物だ。」


 男はハンッ!とため息交じりの威圧。


「盗人は必ずそう言うんだ。貰い物だとな。」


 ちょっと待て。本当に貰い物なんだ。


「この都市は少しおかしいとは思わないか?」


 何の話だ。俺の持ち物を返せ。


「国は何もしちゃくれねえ。だから俺たちが治安を護るんだ。」


 この男……恐らくだが、自警団的な組織の一員なのだろうか。

 だとすると、悪人ではなさそうだ。


「あのリュート。ギュスバレン製鉄都市の感謝祭で手に入れた俺の魂だ。」


 だとしたら何だ?と男は相変わらず威圧の体勢。


「あれだけでも返してくれ。なんなら、一曲歌おうか。」


 そうだ。

 俺の唯一の武器を、使わせてもらう。


「ナイフを返せと言われたら拒否するが……そっちならいいだろう。」


 そうだろう、リュートは暴力の為に作られたものじゃない。


「上半身だけでも縄は解いてもらう。」


 演奏する為だ。


「全身を解け、と言われたら拒否するが……それだけならいいだろう。」


 リュートを奪還し、上半身の戒めは放たれる。

 それじゃあ、一曲、歌います。

 井上○水、映画の主題歌にもなったあの代表曲。


 ……


 …………


 ………………。


 歌い終わると、男は目頭を押さえる。


「こんな歌のうまい人が、盗みを働くはずないよなあ……」


 男の声は、涙まじりだった。

 久々に使ったぞ、魅力(チャーム)極振りの必殺技。


「仲間に掛け合ってくる。」


 おう、頼んだ。

 数分後、ぞろぞろと仲間を連れて戻ってきた。


「もう一度歌ってくれ。」


 リクエストには可能な限り応える。さあ、もう一度だ。


 歌が終わると。

 全員、故郷を思い出していた。


「村に置いてきた家族、元気かなあ……」

「ばーちゃん……会いたい……」

「親父、お袋……」


 誤解はあっという間に解けた。

 殴ったこと、縛り上げたこと、牢に入れたこと、持ち物を奪ったこと。

 全てを謝罪された。


「全くの冤罪だった。我々をどうか許して欲しい。」


 ん?まだ上から目線だな。


「中央都市まで馬車を出してくれれば、全部許すよ。」


 ハハー、仰せのままに!と彼らは馬車の手配を始める。

 明日の早朝、すぐにでも出発できるとの事。


 翌朝。

 いやあ、徒歩で行くつもりが、まさか馬車に乗れるとは。

 たまげたなあ。

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