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異世界指令「転生して歴史を改変せよ」  作者: 小津敬一郎
第一章 魔女騎士ジェニーを殺害せよ
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火の腕を継ぐ者

 この一角には、文明の香りが感じられない。

 国の施策によって守られた都市。光もあれば、闇もある。

 どうやら俺は貧民(スラム)街に足を踏み入れてしまったようだ。


 相変わらずその少年は、ボロい服を纏い、キラキラと目を輝かせている。

 俺の姿を見て、吟遊詩人と思ったらしい。何か歌って欲しいとせがまれる。

 といっても……俺の知っている歌は、鉱場村の民謡だけだ。

 そしてこのリュート。魅力(チャーム)最大値の俺だからこそ、わかる事が一つ。

 俺は、楽器が弾けない。


「はは、じゃあお兄さんの生まれ故郷に伝わる民謡を歌うからね。」


 リュートには一切手をつけず、俺は歌い始める。

 少年の目の輝きが増していく。

 歌い終わると、その少年は、ごく当たり前の質問を投げかける。


「お兄ちゃんは楽器つかわないのー?」


 うん、ごめんね。これはお兄さんには弾けないんだ。変だよね、吟遊詩人なのに。


「それなら、火の腕おじさんに習うといいよ!」


 火の腕おじさん?この都市の事はよくわからないが。

 とにかく、休憩も終わった。なんかちょっとだけ目立ってしまったし、俺は祭りの雑踏に戻る。


 結局、その祭りは二週間続いた。

 金はあまり無い。基本的に野宿で、どうしてもキツい時だけ安宿に泊まった。

 そして、祭りの終わりと共に俺は質屋を訪ねる。


「これを買い取って欲しいのですが。」


 このリュートだ。楽器が弾けない俺にとっては、無用の長物。

 いくらか金になるだろう。立派なリュートだ。


「悪いけど、これは買い取れないねえ。」


 まさかの買取拒否。

 なぜだ。悪いモノではないだろう。

 店主は諭すように言い放つ。


 このリュートは、高名な楽器職人が製作した物で、とんでもない価値のある逸品なのだと。

 年に一回、この都市の感謝祭の為だけに作られるリュートで、相当なお値打ち物だそうだ。

 何故買い取らないのか?

 商売には信用というものがある、と店主は強く主張する。

 これを店に並べるという事は、その提供元に対する冒涜だそうだ。

 感謝祭を盛り上げてくれる提供元の一つである事から、そんなマネは出来ないと言う。


 なるほど、馬鹿な俺でもわかる説明をありがとう。


「ちなみに、そいつを金に換算するなら、金貨五十枚は下らないだろう。」


 金貨……五十枚だと!?

 なぜそんな良い物を売ろうとするのかと店主に尋ねられる。

 俺は、楽器が弾けないからだと言い訳をする。


「それだったら、ファイアアームを頼れ。」


 喉自慢大会で優勝するくらいの歌唱力はあるんだろう?と店主はニヤリ。

 ファイアアーム?あの少年が言っていた、火の腕おじさんの事だろうか。

 店主からメモ書きを渡された。


「楽器を弾いて、より豊かな人生。ファイアアームの楽器学校!」


 地図だ。

 俺はよそ者だから知らなかったが、この界隈では超有名人らしい。

 火の腕おじさんとも呼ばれている、と店主。

 店主に礼を言い、店を後にする。


 火の腕おじさん……一体どんな人物なのか。

 地図の従い辿り着いた先は……三階建ての青い建物。

 ファイアアームの楽器学校と看板に。

 ここで間違いはなさそうだ。


「おやおや?入学希望者?」


 建物に入ると受付があった。


「んん?そ、そのリュートは!」


 どうやら凄い物らしいな。


「校長!校長ー!」


 受付の女性は階段を駆け上がる。

 ほどなくして、校長?を連れてきた。白髪、情熱的な赤い服を着た初老の紳士だ。


「こちらの方です。」


 どうも、と会釈をする。


「ファイアアームと呼ばれるようになって数十年……君のような人間を待っていた。」


 おお?伝説の人みたいになってるぞ。


「そのリュート……弾けるようになれば、世界の全てはお前の物だ。」


 すごいぞ、世界か。


「ただ、今の君ははっきり言ってゴミクズだ。習え。」


 お金、無いんですけど。


「そのリュートを持つ人間から金は取らん。みっちり一年間、住み込みで楽器漬けだ。」


 受付の女性は、そろそろその茶番は終わりにして下さい、と校長に呟く。


「ワッハッハ!さあ少年よ!私のレッスンについてこれるかな!?」


 ソウルフルな笑い声。果たしてどんなレッスンなのだろう?


 と。


 地獄の様な約一年間のレッスンが終わった。

 長かったなあ、本当に長かったなあ。


 楽器の調律から弾きかたの基本をみっちり。

 後は弾き語りのテクニックや……速弾きや即興演奏等々。


 いや、本当に長かったからな?


「少年よ!伝説となれ!ファイアアームの教えを忘れるな!」


 ああ、あんたには感謝している。一年前まで楽器なんて一切弾けなかった俺を……

 ここまで育ててくれた。しかもタダで。


「ありがとう、ございました。」


 深く礼をして……学校を去る。

 試しに、そこの広場で演奏してみようか。

 鉱場村の、民謡。

 リュートの音を歌声で溶かし、広場に響かせる。

 歌い終わる頃には……人だかりが出来ていた。


「ブラボー!」

「素敵な歌ね!」

「鉱場村から来たの?」


 聴衆に囲まれてしまった。そして、致命的な要求を受けた。


「他の歌も聴かせて!」


 ……他の歌?そういえば俺は鉱場村の民謡しか歌えないわけで。

 後は……元の世界で青春時代に聞いたJ-POPの有名どころしか、知らないぞ?


 ん?J-POP?

 この世界に、ミ○チルはいるのか?いないだろ?

 この世界に、ス○ッツはいるのか?いないだろ?


 という事は……試してみる価値は、あるな。

 ミ○チルが初のミリオンセールを飛ばした、あの曲を。


 ……


 …………


 ………………。


 聴衆は、一気に沸く。賞賛の嵐だ。

 本来なら喜ぶべきなのだろうが……何だ、この罪悪感は。


「他の歌!他の歌!」


 そうか、まだ足りないか。知っている曲を次々披露していく。

 おひねりが次々飛んでくる。


「それじゃあ、今日は疲れたから終わり。みなさん、ありがとうございました。」


 おひねりを一枚ずつ回収していく。

 これなら、何か箱やカゴなんかを用意したほうが、よかったな。


「手伝うわ。」


 そう言って一緒に拾ってくれる女性。中々いいお召し物で。


「今日の宿は決まってる?決まってないなら私の家に泊まらない?」


 はい来ました。魅力(チャーム)最大値の役得。


「と言っても……そうねえ、先に服屋に行きましょうか。そろそろ感謝祭もあるし。」


 流石にこの服はもうダメだな。金もあるし、そうしよう。

 もちろんオーダーは、この女性に任せるとして。


「うん、とっても素敵!」


 おお、さすらいの吟遊詩人感を出しながら、機動性や防寒性も両立する見事なセンス。


「それじゃあ、案内するわ。」


 連れてこられた先は……なんだこの立派な建物は。邸宅というやつか。

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