魔装の育て方
今日は早ければ午前中に鑑定が終わると言われたし、それまで待っていないといけない。
ダンジョンに入ると電波がないし、連絡が来るまではうかつにダンジョンに入れないからだ。
「今日は電話が来るまでゆっくりしようかな。……時間はあるし、もう少し魔装について調べとこ」
鑑定から返ってきたら、いよいよあの子を使うことになる。
でも私は、育てるとか進化とか、掲示板で単語を聞きかじった程度だ。
中身は、ほとんどわかっていない。
なので、私はまた掲示板を覗いてみることにした。
今日は、昨日よりも、もう少し踏み込んだことが知りたい。
少し探すと、ちょうどよさそうなスレが見つかった。
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【魔装】育成・進化・鑑定 総合スレ 73【本番は進化してから】
621:名無しの探索者
>>618 水晶体に同じ属性の魔石をくっつけるだけで吸うよ
622:名無しの探索者
>>618 装備しながらやる必要ないぞ。魔石を水晶に少し押し込む感じで当てるだけやで
623:名無しの探索者
初心者はまずそこでつまずくよな。俺も最初どうやって魔石を食わせるのかわからなくて放置してたわ
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なるほど。
いきなり、知りたかったことが書いてあった。
魔石を水晶体に当てるだけ。それだけで、吸ってくれるのか。
思っていたより、ずっと簡単だった。
それだけで、あの子は育つらしい。
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625:名無しの探索者
>>623 わかる。説明書とか付いてればいいのにね
627:名無しの探索者
ちなみに同じ属性の魔石しか吸わないからな。青水晶に雷魔石を当てても無駄だぞ
628:名無しの探索者
>>627 それは常識だろ……と言いたいけど、まあ初心者も見てるしな、ここ
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同じ属性の魔石しか吸わない。
それも、この前教わったとおりだった。
私の魔装は黄色――雷属性だから、黄色い魔石しか食べてくれないってことね。
手元には、ペンギンドッグから採れた黄色い魔石が一つ。
あれを吸収させると、どれくらい育つんだろうか。
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630:名無しの探索者
しかしまあ、その魔装が手に入ればの話だけどな。俺なんて防具型ひとつ手に入れるのに一年かかったぞ
631:名無しの探索者
>>630 一年で手に入っただけ上等だろ。魔装なんて、持ってるだけで羨ましがられるレベルなんだから
633:名無しの探索者
防具型でも十分有用だよな。ただ、武器型の後に揃えたいものではあるけど
634:名無しの探索者
武器型手に入れたら超幸運だよね。ドロップしたらそれだけで勝ち組だと思う
636:名無しの探索者
>>634 それも初心者目線の話だけどな。中堅どころになれば、何かしら武器型の魔装は持ってて当たり前の世界だし、進化させてやっと一人前ってところか
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この前のスレでも、魔装は安く見積もって1000万はするなんて言われていた。
持っているだけで、羨ましがられる。
……本当に、魔装って珍しいものなんだなぁ。
あらためて、そう実感した。
そして武器になる魔装は、その中でももっと入手しにくいものだという。
この前のスレで「本当に初心者か?」なんて疑われたのも、今なら少しわかる気がする。
単純にうれしいけれど、浮かれてばかりもいられない。
問題は、ここからどうやって育てるかだ。
その「進化」っていうのが、どうやら育成の肝になるらしい。
私は、スレをさらに読み進めていった。
スレを下へたどっていくと、ちょうど「進化」の話をしている流れに行き当たった。
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640:名無しの探索者
そういや進化ってさ、実際どういう変化があるんだ? うちのはまだしてなくて
642:名無しの探索者
>>640 それは魔装によるとしか。うちの短剣、進化したら刃が伸びて長剣になったわ
643:名無しの探索者
俺のは属性が変わった。最初は水だったのに、進化したら風になって、集めてた青魔石が全部無駄になった……
645:名無しの探索者
>>643 それ進化の罠だよな。必要な魔石が変わるのは結構困る。青になるなら話は別だけどさ
647:魔装廃人
進化の変化は大きく三種類あると思っていい。
①能力の変化②形態・形状の変化③属性の変化。だいたいこのどれか、あるいは複数が同時に起きる
648:名無しの探索者
>>647 出た、魔装廃人さん
649:名無しの探索者
>>647 待ってました
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名前からして詳しそうな人が現れた。
しかも、まさに知りたかったことを、きれいにまとめてくれている。
私は思わず、身を乗り出して画面を追った。
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650:魔装廃人
①能力の変化っていうのは、新しい能力に目覚めるか、今ある能力が強化・変化するって感じ。まあ、これが本命だな
652:魔装廃人
②形態・形状の変化は、見た目や用途が変わる。さっきの短剣→長剣とか、槍がハンマーになったとか、剣が鞭みたいにしなるようになったとか、報告はいろいろあるぞ
654:魔装廃人
③属性の変化は滅多にないみたいだが、>>643みたいに、水晶の属性そのものが変わるやつ。これが起きると育成に必要な魔石も変わる。厄介だけど、そのぶん化けることもある。魔石の入手難易度的に青になってほしいと思う人も多いが、難度が高い色になるほど魔装が強力になるって言ってる人もいるから、一概に喜べる物でもないって感じかな
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なるほど。
進化っていうのは、ただ強くなるだけじゃないのか。
……私の魔装は、どう転ぶんだろう。
あのトゲトゲの手袋が、いきなり別の何かに化けたりするんだろうか。
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656:名無しの探索者
でもさ、進化させるのがそもそも大変なんだよな。魔石めちゃくちゃ食うし
657:魔装廃人
>>656そこは魔装ごとに必要量が全然違う。少し食わせただけで進化したって例もあるにはある
659:名無しの探索者
うちのなんて、魔石を延々と突っ込んでるけどまだ進化しないぞ。財布が死んだ
660:名無しの探索者
そもそも進化まで持っていけるやつって、そんなに多くないよな。魔装を用意して、進化するまで魔石を注ぎ込める余裕があるやつなんて、中堅以上か、金持ちくらいだろ。もしくは上位の同盟に所属できた奴くらいか。
662:魔装廃人
だな。だから「進化させたことがある」ってだけで、それなりに潜り込んでる証拠になる
664:名無しの探索者
まあでも、進化させたら専属化するからな。そこは覚悟しとけよ
665:名無しの探索者
>>664 それな。進化させた瞬間、売れなくなる。ただ、苦労して進化させたものを売るバカもいないだろうけど
666:魔装廃人
正確には「進化させると、その使い手専用になる」だな。専属化すると、他人はその魔装の“能力”を引き出せなくなるから
667:名無しの探索者
>>666 ただの武器としては使えるけどね。専属化した剣でも普通に斬れはする。ただ能力が使えないけど
669:魔装廃人
そう。だから市場に出回るのは基本、進化前=専属化前のやつだけ。進化させた魔装は資産価値としては下がる。でも、自分で使い込むなら関係ない
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進化させると、その魔装は私専用になるのはうれしいな。
「……専属化しなくても、別に売るつもりはないけどね」
むしろ、都合がいいくらいだ。
育て上げたものを盗もうとする人も少なくなるってことだしね。
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671:名無しの探索者
結局さ、進化させてみないと当たりかどうかわからんのがつらい。時間をかけて育てたものが、いざ進化したら微妙な能力だったとか普通にあるし
673:魔装廃人
だからこの界隈じゃ「魔装ガチャ」って言われてる。進化させて初めて価値が決まる。ただ、確実に強くはなるから無意味ではないけどな
676:名無しの探索者
何ヶ月もかけて爆死した時の顔で、飯が三杯食えるわ
678:名無しの探索者
参考までに、うちの子貼っとくわ。進化した盾。表面に紋様が出てきて、防御に能力が乗るようになった
[画像:たて.jpg]
680:名無しの探索者
>>678 きれいやな。魔法陣みたいなのが浮かんでるのか
682:名無しの探索者
>>678 羨ましい。俺の槍なんか、見た目が普通の斧になったぞ。槍で慣れてたから使いにくいし笑ったわ。ただ、攻撃力はぶち上ったからよかったけど、せめてハルバードみたいになってほしかった…
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画像を見てみたが、すごくきれいな模様の入った盾だった。
みんな、それぞれの魔装と付き合っているんだな。
そういえば、みんな「能力」って言うけれど、その能力には、どんな種類があるんだろう。
私の魔装には、いったいどんな力が眠っているのか。
気になって、さらにスレを読み進めることにした。
能力の話を探していると、ちょうどそれらしいスレが見つかった。
「能力・系統」について語り合っている、別のスレだ。
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【魔装】能力・系統について語るスレ 9
201:名無しの探索者
やっぱり強化系が一番安定するよな
203:魔装廃人
だな。身体能力アップ、耐久アップ……この辺は地味だけど、どんな場面でも腐らないから無難だな。初心者にも扱いやすいし、重宝すると思う
204:名無しの探索者
派手さはないけどね。やっぱり生存能力を上げる能力が一番だと思う
206:名無しの探索者
わかる。結局、生き残ったやつが正義だから
208:名無しの探索者
逆に属性系はロマンあるよな。炎とか雷とか、見た目からして強そうだし
210:魔装廃人
強いのは強い。ただ、属性系は癖が強いのが多い。扱いを間違えると、自分の首を絞めるぞ
211:名無しの探索者
>>210 それすげえわかる。うちのパーティの風属性持ちが、うっかり仲間の足を切り落としかけたからな
213:名無しの探索者
制御できないうちは、味方のほうが危ないやつ
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「炎に、風……魔法!? やっぱり、魔法が使えるのね!」
……なんだか、わくわくしてきた。
私の魔装も、育てたらそんな魔法のような力が使えるようになるのかしら。
できれば、そういうのがいい。
魔法は人類の憧れだものね。
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215:名無しの探索者
癖が強いって言えば、この前の炎剣ニキの話が忘れられないな
217:名無しの探索者
>>215 あー、あの魔物の素材ぜんぶ焼き尽くしたやつやろwww動画で見たけど、嘘ついてるかもしれないけどな
218:名無しの探索者
>>215 何があったんだ、知らんのだが
220:名無しの探索者
>>218 炎剣でミルチューブ調べたら出てくるとおもうぞ。倒した魔物を丸焼きにして、素材も魔石も炭になったって話だよ
222:炎剣の探索者
呼んだか。炎剣ニキだ
224:名無しの探索者
本人来てて草
225:名無しの探索者
>>222 詳しく聞かせてくれ
227:炎剣の探索者
あれはひどかったよ。魔石まで炭になったのにはショックでいまだに立ち直れん。ちょっとしたトラブルで仲間が負傷して追い込まれちゃって、全火力で攻撃したら消し炭になってた。やっとの思いで見つけたレアモンだったのに
228:名無しの探索者
>>227 レアモン消し炭は草。俺なら立ち直れないわ
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「レアモン……って、レアなモンスターの略かな?」
文脈からして、めったに出ない、いい魔物のことだろうか。
それより――。
炎を吹き出す剣。
素材を丸焼きにするような、とんでもない一振り。
……ちょっと、見てみたいかも。
いったい、どんな見た目をしているんだろう。
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229:名無しの探索者
炎剣ニキはまだマシなほうだぞ。俺の知り合いなんて、ダンジョンの草原であたり一面燃やして、危うく自分の退路まで塞ぎかけたからな
231:魔装廃人
属性系は威力と引き換えに、そういうリスクがある。特に炎は制御が難しい。狭い場所じゃ絶対に使うなって言われるくらいだ
232:名無しの探索者
その点、強化系は自爆しないからな。地味だけど堅実だ。
234:名無しの探索者
俺ならサポート系でもいいから魔装ほしいわ。
235:名無しの探索者
>>234 わかる。サポート系も物によっては戦闘で使えなくもないしな。ただ、武器の能力がサポート系だったら残念すぎるけど。
236:魔装廃人
サポート系は需要が高いけど、戦闘では使えない能力が多いからね。鑑定なんかがその代表例だけど。初心者ならそれを売って強化系武器を買った方がいいと思う。おそらく今はサポート系が一番高値で売れるはずだから
237:名無しの探索者
あんなに高いのは手が出ないよな。トップ同盟や国が買い漁ってるって話だから庶民には関係のない代物だ
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倒した魔物を丸焼き。
自分の逃げ道まで火の海。
……属性系には魅力はあるが、なんだか危なさそう。
サポート系なんてのもあるみたいだけど、いまいちどんなものなのかよくわからなかった。
こうして読んでいると、強化系がいいと言われる意味がよくわかる。
派手じゃなくても、安全重視が一番なんだろうな。
単純だけど堅実。それだけで、十分ありがたいことだ。
「ああ、早く鑑定終わらないかなぁ」
私の魔装が、どんな力を持っているのか。
魔装について知れば知るほど、そわそわして落ち着かなくなってきた。
しばらくすると、突然スマホが鳴って現実に引き戻された。
画面には、見慣れない番号。
でも、心当たりは一つしかない。
時計を見ると、午前十時になったところだった。
「……はい、もしもし」
「先日ご来庁いただいた、ダンジョン課の者ですが、白瀬玲奈さんの携帯電話でよろしいでしょうか。」
「あ、はい。私です」
「お預かりしていた魔装の鑑定が終わりました。ダンジョン課で保管しておりますので、受け取りにお越しください」
「……はい、すぐに行きます!」
私の魔装が、どんなものなのか。
強化系か、属性系か。
さあ、答えを確かめに行こう。
◇
電車とバスに揺られて、また昨日の警察署へ。
ダンジョン課の窓口には、昨日と同じ職員がいた。
「お待ちしておりました。探索者証を拝見できますか」
私は、財布から探索者証を取り出して渡す。
職員はそれを確認すると、奥から見覚えのある物を持ってきた。
――私の魔装だ。
「こちら、お返しします。それから、鑑定の結果です」
差し出されたのは、一通の封書だった。
この中に、私の魔装のすべてが書いてある。
「結果は、ご本人以外には開示されません。中身は、ご自身でお確かめください」
私は封書を受け取ると、窓口を離れ廊下の隅で足を止めた。
もう、待てない。
封を切って、中の紙をそっと開く。
そこには、こう書かれていた。
『鑑定名:野獣の牙』
『能力:装着者の身体能力、および自己治癒力を強化する』
……野獣の牙。
あのトゲトゲの手袋に、そんな名前があるのか。
なんだか、私にはもったいないくらい、かっこいい名前だった。
そして、能力。
身体能力と、自己治癒力の強化。
「……つまり、強化系かな?」
確かに派手じゃないけど、自己治癒力の強化が少し魅力に感じた。傷が治りやすくなったりするのだろうか。
炎や風みたいに派手な魔法ではなかったのは残念だけれど、この地味な力こそが、今の私にはきっと必要なんだろうね。
私は、返してもらったばかりの魔装を、そっと握りしめた。
……これからは私の相棒になるんだから、大切にしてあげなきゃ。
「……よし。まずは、この子のごはん集めからかな」
私は探索者証と魔装を鞄にしまって、警察署をあとにした。
窓の外は、もう昼が近い。
――さあ。今度こそ、ダンジョンへ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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