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捨てられOL、ダンジョン入って牙を研ぐ  作者: 夢乃舞家


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レアモン討伐ミッション

「玲奈ちゃん、そっちから追い込んで!」


 灯里さんの指示に合わせて、私は単眼ウサギの逃げ道を塞ぐように回り込む。

 追い詰められた単眼ウサギが跳んで逃げようとするたびに、私はわざと決定打を外し、灯里さんのいる方向へ弾き返す。


「はい、行きました!」

「オッケー、返すね!」


 灯里さんも心得たもので、剣の腹で軽く押し返すようにウサギを再び私の方へ寄越してくる。

 まるで二人でボールを転がすように、ウサギを誘導しながら追い詰めていく。


 正直、動物が好きな人が見たら発狂するほど、可哀そうなことをしている自覚はある。だけど、これは私たちが死なないために必要なことだと灯里さんに説得されて、私も納得してやっていることだ。


 しばらく続けたあと、灯里さんが「よし、ラスト!」と声をかけてきた。

 私は最後に拳を叩き込み、ウサギの動きを止めた。


「おっけー、今の感じどうだった?」


 いつものように灯里さんが聞いてくる。


「さっき、交代のタイミングで少し体勢が崩れてしまいました」

「あー、たしかに。焦って弾いちゃってたかもね。次はもうちょい溜めてみようか」


 こうして一匹倒すごとに、短い反省会を挟む。

 これを何度も繰り返しているうちに、少しずつ二人の間合いの取り方が噛み合ってきているのがわかる。

 単眼ウサギ相手なら、正直どちらか一人でも危なげなく倒せてしまう。

 しかし、あえて倒さずに動きのシミュレーションを実践していく練習だ。

 連携の呼吸は、実際に体を動かして掴んでいくしかないからだ。


 また新しい獲物を見つけては、同じように追い詰め、最後にとどめを刺す。

 その繰り返しを何度目かこなしたところで、灯里さんが額の汗を拭いながら手を止めた。


「うん、だいぶ様になってきたね」


 灯里さんは、腕を組んで満足そうに頷いている。


「そろそろ、次の段階に行こっか」

「次の段階ですか?」

「うん。そろそろ森に行ってみようと思うんだよね」


 その一言に、少しだけ不安が過る。

 以前、茜さんに「まだお前には早いな」と言われた場所だ。


「あの、大丈夫なんでしょうか……」

「大丈夫、大丈夫、いきなり奥までは行かないから。今日は様子見って感じでね」


 灯里さんは軽い調子でそう言うと、迷わず森の方へ歩き出した。

 私は少し不安を残しながらも、その背中についていくことにする。


 森に足を踏み入れた瞬間、温度が変わったのがわかった。

 木陰の中に入るとヒンヤリと肌を冷やしてくる。

 それに草原とは比べ物にならないくらいあちこちに気配を感じるようになった。

 かなり魔物の数が多いようだ。


「うわ、なんかすごい……」


 思わず呟くと、灯里さんが振り返った。


「気配感じる?」


「はい。色んな方向からしてます」

「さすがだね。まあ、今日はあくまで様子見だから、安全第一で行くよ」


 灯里さんがそう言うと、私は頷いて慎重に歩調を落として進み始めた。

 どんな魔物がいるかわからないので、なるべく気配の薄い場所を選びながら進んでいく。


「じゃあ、いつも通り玲奈ちゃんが見つけて、私が続くって形で行こっか」

「わかりました」


 狩りを重ねているうちに、この役割分担が当たり前になっていた。

 私が気配を探って居場所を伝え、灯里さんがそれを聞いて動く。

 しばらく歩いていると、少し先の茂みに、今まで感じたことのない気配があった。


「あっちに、何かいます」

「了解、ちょっと見てみよっか」


 灯里さんに続いてゆっくりと近づいていくと、茂みの奥に見慣れない魔物がいた。

 象のように長く伸びた鼻を持つ、大きなネズミのような姿をしている魔物だ。


「パオラットだね」

「パオラット? 随分と弱そうな名前ですね」

「だよね。臆病で足は速くはないんだけど、気づかれたらすぐに逃げるから追いかけるのが大変なんだよ。危険度はかなり低いんだけどさ」


 すると、パオラットはこちらの気配を察したのか、耳をぴくりと動かして私たちがどこにいるのか探っているようだ。


「あの、私が行ってもいいですか?」

「いいよ。まあ、襲っては来ないだろうし、気軽にね」


 灯里さんの許可をもらって、私は一気に地面を蹴った。

 最近は、ペンギンドッグを狩れているので、魔石が手に入り魔装に吸収させることができるようになった。

 そのせいか少しだけ瞬発力が前よりも上がっている実感があった。


 私に気付き驚いたパオラットが、飛び跳ねるように逃げ出そうとする。しかし、その動きに追いついて、横っ腹へ思い切り拳を叩き込むことに成功した。


「よし!」


 怯んだ隙を逃さず、灯里さんが素早く距離を詰めて、首を一太刀で切り落とす。


「やった、倒せましたね!」

「玲奈ちゃん、今の速さすごかったよ! もう私より早いんじゃないかな」


 灯里さんが目を丸くしながら褒めてくれる。


「そんなことないですよ。まだ灯里さんには勝てません」

 少し照れるが、まだまだ灯里さんの方が早く動けるのを知っているので舞い上がらないように気を付けた。


「こいつはね、肉が結構売れるんだよ。煮込みにすると絶品なんだってさ。サイズもいいし、なかなか良い獲物だったね」


 灯里さんは、満足そうにパオラットの亡骸を見下ろしていた。

 パオラットを回収し終えたところで、遠くからブーンという大きな羽音が聞こえてきた。

 振り返ると、大きな塊がものすごい速さでこちらへ向かって飛んでくる。


「ランドビートルだよ、気を付けて!」


 灯里さんが叫んだ。


「外殻がすごく硬くて刃が立たないから、避けた後にスピードが落ちたときに攻撃するよ!」


 叫びながら、灯里さんが指示をくれる。

 でも、私にはそれほど脅威には感じなかった。

 ほぼ、反射的に真正面から突っ込んでくるランドビートルにタイミングを合わせて、私は思い切り拳を振り抜いていた。


バゴンッ!


 硬い甲殻ごと殴りつけると、宙を飛んでいたはずのランドビートルが地面に叩きつけられる。


「うそ、飛んでるのを殴り落とした!?」


 灯里さんが目を丸くしている。


「そっか。玲奈ちゃんは切ったりするわけじゃないから相性いいのね!」


 地面に落ちて動きの鈍ったランドビートルに、灯里さんが素早く近づいた。


「これなら簡単。外殻の隙間、ここを狙うの」


 灯里さんは、甲殻の継ぎ目にすっと剣を突き刺し、とどめを刺した。


「やったね!」


 思わず二人でハイタッチする。


「玲奈ちゃんがこいつを楽に倒せるなら、この森は意外と余裕かも」


 灯里さんにお墨付きをもらい、少しだけ自信がついた気がした。

 森だと獲物を持ち運ぶのも大変なので、倒した獲物は森の入口で一箇所にまとめておくことにした。

 ゲートが遠いので帰りが大変そうだった。


 その後もランドビートルは何度か襲ってきたけれど、要領を掴んでしまえば怖くない。

 私が殴り落として、灯里さんがとどめを刺す。

 それを繰り返しているうちに、獲物の山は少しずつ大きくなっていった。


 しばらく探索を続けていると、見覚えのある魔物と出くわした。


「あ、シカメレオンです」

「ほんとだね。こいつは慣れてるし玲奈ちゃん一人で大丈夫だよね」


 白浜ゲートでしか見たことがなかったが、やはりここにも出るらしい。

 私は慣れた様子でシカメレオンを即座に倒した。


「シカメレオンは森なら割とどこにでもいるんだよ。ほかのゲートでもよく見かけるらしいし、ダンジョンでは一般的なんだろうね」


 灯里さんは、大して驚いた様子もなく、いつも通りの調子でそう言った。

 獲物の山もそれなりの量になった頃、灯里さんが空を見上げて言った。


「そろそろ、切り上げの準備しよっか」

「はい」


 私も頷いたところで、ふと違和感を覚えた。

 今まで感じてきたどの気配とも、明らかに質が違う存在の気配を感じた。


「灯里さん、なんかすごい気配がします……今までのと全然違う感じがするんですけど」

「ん、どの辺りから?」


 私が指し示した方向を見て、灯里さんの表情が少し引き締まった。


「うーん……念のため、確認だけしておこうか」

「そうですね。ちょっと気になります」

「危なそうだったら、すぐ離脱するからね。玲奈ちゃんも、ちょっとでもやばいと思ったら遠慮なく言って」


 念を押されて、私は頷いた。

 気配の方向へ、できるだけ音を立てないように近づいていく。

 茂みの隙間から覗き込むと、そこには真っ赤な体毛に覆われた、見たこともない大きさのイノシシがいた。

 地面に鼻先を突っ込んで、何かを一心不乱に食べている。


 隣で灯里さんが、息を呑む気配がした。

 声を出さないまま、灯里さんが手のひらでゆっくり下がるよう合図してくる。

 私もその意図を汲んで、そろそろと後退した。


 物音を立てないように距離を取り、十分離れたところで灯里さんが振り返った。


「玲奈ちゃん! ここ、すごいよ!」


 さっきまでの緊張した様子が嘘のように、灯里さんは鼻息を荒くして詰め寄ってきた。


「レッドボアが沸く森が、こんな近くにあるなんて! あれ、火属性のレアモンなの!」

「レアモン……」


 時々聞いたことのあるワードだった。

 レアモンってことはレアなモンスターなのはわかるが、火属性は今まで出会わなかったし、火属性自体がレアなのだろうか。


「絶対倒すよ! 私一人だったら諦めて応援を呼んでたけど、玲奈ちゃんとならたぶん勝てる!」


 興奮気味にまくし立てる灯里さんに、私は少したじろいだ。

 あのサイズの魔物を相手にしたことなんて、一度もない。

 私は少し怖かった。


「あの、私たちだけで勝てるんですかね、あんなのに……」

「基本は私が相手するから。玲奈ちゃんは、攻撃できるタイミングがあったら殴りつけちゃってね。ヘイトは私が基本取るからそれだけで助かるよ」


 灯里さんの目は、すっかり獲物を見据える探索者の顔になっていた。

 こうなった灯里さんを止められる気はしなかったし、それに――少しだけ、私がどこまでできるのか興味が湧いていた。


「わかりました。やってみます」


 覚悟を決めて、私たちは再びレッドボアのもとへ引き返した。

 気配に気づいたのか、レッドボアが顔を上げて周囲を探り始めた。

 灯里さんが背後を取ろうと動き始めた瞬間、私とレッドボアの目線が合ってしまった。

 その瞬間、地面を蹴って一気に距離を詰めてくる。


 想像以上の速さに、反応が一瞬遅れる。


「危ない!」


 灯里さんが割って入り、剣で突進を受け流してくれる。

 私も慌てて態勢を立て直し、隙をついて拳を叩き込む。

 だが、分厚い体毛と脂肪に阻まれて、思ったほどの手応えがない。

 レッドボアが向き直り、牙を振り回してくる。

 避けきれず、肩を掠められて痛みが走った。


「大丈夫!?」

「平気です、まだいけます!」


 逆に痛みで頭が冴えるようだった。


 そして、私は灯里さんに合わせるために、動きを観察していた。

 レッドボアの攻撃を最小限の動きでいなし、隙を見つけては確実に一太刀を浴びせていく。

 まるで、何百回もこの魔物と戦ってきたかのような、無駄のない立ち回りだった。

 私も、灯里さんが作ってくれた隙を逃さず、攻撃を叩き込んでいく。


 何度も攻防を繰り返すうちに、レッドボアの動きが少しずつ鈍くなっていった。


「そろそろ決めるよ!『焦閃』!!」


 灯里さんが叫ぶと同時に、剣先が突然輝きだした。すると周囲の温度が一気に上がったのがすぐにわかった。

 灯里さんはそのまま大きく踏み込むと、剣を振り抜いて首元を深く切り裂き、レッドボアはそのまま大きな音を立てて倒れ込んだ。

 地震のような揺れが収まると、辺りがしんと静かになる。


「……勝ったの?」


 肩で息をしながら、私はその場にへたり込みそうになった。

 全く動く気配のないレッドボアを見て、私は勝利を確信した。


「や、やりましたね……!」


 息を切らしながらも、私は思わず声を上げた。


「玲奈ちゃんも、最後まで攻撃続けてくれて助かったよ! 一人だったら、やっぱり危なかったと思う」

「そんな、私は灯里さんが基本的に攻撃を受けてくれてたから戦えただけです。灯里さんの動き、本当にすごかったです……見惚れちゃいました」

「えー、そんなこと言われると照れるなぁ。でも、玲奈ちゃんも初めてであれだけ動けるのは普通じゃないからね!恐怖で腰が引けるくらい普通のことなんだから」


 お互いに褒め合っているうちに、緊張していた体から力が抜けていくのがわかった。


「それにしても、最後のすごかったですね。剣が光って見えましたよ」

「ああ、あれはこの子の能力なの。一時的に剣先に高熱を纏わせて切り付けられるんだけどね。あれを使うとすっごく疲れるからいざって時しか使わないんだ」


 灯里さんの魔装の能力を初めて見たが、剣がまとう光が綺麗で、かっこよかった。


「能力を使うだけで疲れるんですか?」

「能力もいろいろあってね、使用するのに代償が必要なものもあるんだよ。私の能力は体力を大きく削るから何度も使える技じゃないんだよね。その代わり威力は高くなるんだよ」

「へぇ。私もそういう能力がほしいなぁ」

「私としては玲奈ちゃんの能力の方がいいと思うけどね。代償が無いから常に能力を使っている状態で居られるんだから」


 確かにそうだけれど、やっぱり必殺技のようなものがほしいと思ってしまうのはしょうがないよね。


「よし、それじゃあ早速だけど……お楽しみの時間といこっか」


 灯里さんの目が、いたずらっぽく輝く。


「お楽しみですか?」

「魔石だよ。レアモンの魔石なんてどれだけの大きさなのか気になるでしょ? それに久々の火の魔石がこんな大物なんて、もうドキドキしちゃうよ」


 そう言われて、私も俄然楽しみになってきた。

 灯里さんが手早く腹を裂いていく。


「基本、いらない属性の魔石はそのまま死体ごと同盟に売ってるけど、これは借金してでも欲しいからねぇ」

「灯里さんの魔装は火属性ですもんね。でも、まだ借金があるって言ってましたよね。大丈夫なんですか?」


「うぅ……それは今は言わないでよ~。きっと何とかなる!その精神が大事なんだからね」


 うーん。これは大丈夫なんだろうか。

 ちょっと灯里さんのことが心配になってしまった。


「とにかく、魔石取り出すよ!今はこっちに集中しようね!」


 灯里さんは誤魔化すように、レッドボアのお腹を切り裂いた。

 必要な魔石のときは、こうして抜き取って、同盟には「売却ではない」と申告する必要がある。

 そうすると、事務方がパーティ内で報酬が偏らないように調整してくれる仕組みになっている。

 私がペンギンドッグの雷魔石をもらっているときも、同じように調整してもらっているので、灯里さんもそうするのだろう。


「今回の魔石で、灯里さんの魔装って進化したりしますかね?」

「どうだろ。でも、これだけの大物だから魔石のサイズも凄そうだし、進化したらうれしいんだけどね」


 灯里さんは腕まくりをして、慣れた手つきで腹を開いていく。


「あれ……?」


 途中で、灯里さんの手が止まった。


「どうかしました?」

「ちょっと待って、なんか別の物が……」


 灯里さんが引っ張り出したのは、銀色に輝く一本のネックレスだった。その中心には赤い水晶体が宝石のように埋め込まれている。


「え、これって……」

「魔装だ! 玲奈ちゃん、魔装出たよ!」

「おぉー!」


 灯里さんが大喜びしている。

 思いがけない収穫に、私も声を上げてしまった。

 でも、灯里さんの視線はすぐにネックレスの奥、まだ体の中に残っているものへと移っていた。


「……うそ、でっか」


 灯里さんが取り出したのは、今まで見たどの魔石よりも大きく、燃えるように赤い塊だった。


「これは、思った以上だよ……!」


 灯里さんは、両手でそれを掲げたまま、その場でくるりと小さく飛び跳ねた。


「私と玲奈ちゃん、パーティ組むときに決めてたよね。火が出たら私、雷が出たら玲奈ちゃんが優先で買い取るって」

「そうでしたね」

「だから、これは私が買い取りたいんだけど……いい?」


 灯里さんは、そこで少し困ったように笑った。


「正直、今日獲った素材全部合わせても、多分これには全然足りないとは思うけどね」

「まぁ、これだけの魔石ですもんね……」


 多分二キロくらいはありそうな大きさだ。

 正直、いくらで計算されるのか怖くて金額聞けないや。


「うん。だから――今回出たこの魔装は、どう考えても玲奈ちゃんのものになると思うよ」

「え、いいんですか?」

「うん。魔装も欲しいなんて言ったら破産どころの話じゃなくなっちゃうよ。まあ、正式な金額は同盟に全部提出してから決まるから、それでも足りなかったら、差額は借金なんだけどね」


 灯里さんは、ため息をつきながらも魔石を見てニヤついていた。


「もしかしたら、玲奈ちゃんの魔装の方が高い可能性もあるし、そうだったら助かるんだけどね」

「これがですか?」

「装飾系の魔装って、当たりだと結構すごい能力持ってること多いんだよ。防具も高いけど、装飾系は特に化けやすいっていうか。もし当たりなら、この魔石と同じくらいか、それ以上の価値がついてもおかしくないよ」


 灯里さんは、そう言ってからほっと息をついた。


「まあ、それがなかったら私、しばらく同盟にとんでもない借金背負うところだったから……魔装出てくれて、正直助かったよ」


 乾いた笑いをする灯里さんを見て、私もつられて笑ってしまった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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