同盟ランキング
東海支部でダンジョンへ行く準備をしながら、リビングでお茶を飲んでいると、灯里さんが思い出したように顔を上げた。
「あ、そういえば今日同盟会議ってリーダー言ってたよね。ニュースやってるんじゃないかな?」
「ニュースですか」
「リーダー、今頃会場に着いてる頃だし、映るかもしれないよ」
そう言われて、茜さんが会議のことを言っていたのを思い出した。
「ちょっと見てみましょうか」
「そうしよ。ほかの同盟の人も見れるから面白いかもしれないよ」
灯里さんはリモコンに手を伸ばすと、いくつかチャンネルを切り替えていく。
三つ目のチャンネルで、灯里さんの手が止まった。
画面には、大きなビルの前に人だかりができている様子が映っている。
「あっ、たぶんこれだ」
テロップには「同盟会議 開催」の文字。リポーターが早口でなにか喋っているが、その周りもお祭り騒ぎのように人でごった返していた。
カメラが切り替わり、次々と会場入りする人たちの姿が映し出される。
リポーターが誰かに駆け寄ってマイクを向けるが、素通りされて空振りに終わる。
「これ、みんな取材されたくないんですかね」
「ランキング上位の人ほど近寄りがたい雰囲気出てるよねぇ」
何人か同じように無視される場面が続いたあと、ようやく足を止めてくれた一人にマイクが向けられた。
防具に身を包んだ、恰幅のいい男性だった。
「すみません、少しお話よろしいですか。グルメの会は今回初の同盟会議への出席だとお聞きしましたが、今日はどのようなお気持ちで参加を?」
「いやあ、まさかうちが呼ばれるとは思ってなくて。光栄です、本当に」
男性は、照れくさそうに頭をかいている。
「グルメの会は魔物の食材にこだわった活動をされている同盟だとお伺いしましたが」
「ええ。うちは食にはうるさいのが多いので。今日はこの後も、魔物の食材を使ったレシピ開発の会議が入っているんですよ。もっと魔物料理を浸透させたいと思っています」
画面の端に、小さく「同盟順位100位 グルメの会」というテロップが出ていた。
「わ、あの同盟聞いたことある」
灯里さんが笑いながら言った。
「有名なんですか?」
「うん。とにかく魔物の食材を求めてダンジョン潜ってる変わり者集団だって涼子さんが言ってたよ。たしか涼子さんも交流があったはずだしね。涼子さん食にはうるさいから」
「へぇ、魔物を食べるのはやっぱりマイナーなんですか?」
「そんなことないよ。探索者ならみんな食べた事くらいはあるだろうしね。ただ、一般の人はなかなか食べる機会がないんじゃないかな? それこそ白浜ゲートにやっと食べれる所ができたばかりだしね」
なるほど。魔物を食材としての需要はこれからってことなのかな。
あんなにおいしい物を知らないなんてもったいない。そう思ったが、私も探索者になるまで知らなかったしね。
中継はそのまま続き、また新しい一団が画面に映った。
今度は一人ではなく、揃いの黒いコートを着た数人が横並びで歩いてくる。
「同盟順位七位 七星」
テロップにそう出ると、集団がそのまま会場へ入っていった。
「あれ? ここのリーダーって誰なんですか?」
誰か一人が前に出るわけでもなく、横並びのまま歩いていく様子に、私は思わず聞いてみた。
「ああ、あそこは全員リーダーなんだよ。七人全員」
「え、七人ともですか?」
「うん。同盟を作ったときのパーティメンバーが、そのままみんなリーダーやってるんだって。何か決めるときも、あの七人の合議制で動いてるらしいよ」
「そんな同盟もあるんですね……」
同盟のリーダーは一人じゃなくてもいいのか。素直に驚いた。
七人もトップがいると、喧嘩でもしてうまく行かないように思うけど、そうでもないのかな。
カメラはさらに次の集団へと切り替わっていく。
しばらく知らない顔ぶれが続いたあと、不意に見覚えのある姿が画面に映った。
「あ、リーダーだ!」
灯里さんが声を上げる。
画面の中では、茜さんがまっすぐ会場に向かって歩いていた。周りからはまた黄色い声が飛んでいるようで、リポーターも慌てて近づこうとしているが、茜さんは目もくれずに通り過ぎていく。
「なんだかすごい人気ですね」
「でしょ? うちのリーダー、ああ見えて結構有名人だからね」
灯里さんは、自分のことのように得意げだった。
私もつられて、なんだか誇らしいような気持ちになった。
しばらくすると、ふいに周りの空気が変わったのがわかった。
リポーターの声のトーンが、心なしか硬くなっている。
「あ、あちらにいらっしゃるのは、同盟順位五位、アヌビスの審判のリーダー東条狂助氏です。同盟トップランカーとしての威厳を感じる風貌に皆さん圧倒されているのがわかります」
画面に映ったのは、他の誰よりも歩みがゆっくりとした男性だった。
周りにいた記者たちも、なぜか誰一人としてマイクを向けようとしない。
どこかのリポーターが、意を決したように一歩近づく。
「す、少しだけお話をいただけますでしょうか」
男性は足を止めることなく、ちらりとリポーターへ視線を向けただけだった。
それだけで、リポーターは詰まったように黙り込んでしまう。
「……なんか、他の人とちょっと違いますね」
私が呟くと、灯里さんも画面を見つめたまま頷いた。
「うん。あそこは別格って言われてるからね」
「別格、ですか」
「今のダンジョンのルールとか、常識になってることの大部分って、あそこが作ったって言われてるんだよ。同盟制度もあそこが作ったって言われてるし、今もダンジョンでの犯罪には厳しく対応をするってことで有名なの。昔は無法地帯みたいなものだったけど、あの同盟ができてからマシになったって、昔リーダーが言ってた」
灯里さんは、いつもの軽い調子とは少し違う声で続けた。
それを聞いて、以前涼子さんから聞いたワルキューレ誕生までの話が脳裏に過った。
「最初に立ち上げたのは、元自衛官の人だったらしいんだけど……その人はもう亡くなってるんだよ。当時、結構ニュースにもなったんだけど知らない? 今のリーダーは、その後を継いだ人だってことしか私も知らないんだけどね」
「いえ、その頃は仕事に追われてたので、ニュースとか見る余裕がなくて……」
「まぁ、そうだよね。当時は格闘家とか、武道やってた人をたくさんスカウトして束ねて、ダンジョン攻略に一番貢献した同盟だとも言われてるんだ。だから、実力だけで言えば実質一位だっていう人もいるくらいでファンも多いんだよ」
「一位……ですか」
「うん。国にダンジョンのことを意見できる同盟なんて、数えるほどしかないんだけど、あそこはその一つだから」
灯里さんの声には、からかうような響きは一切なかった。
画面の中の男性は、そのまま何も語らず会場の中へ消えていく。
その一瞬、カメラの方へ向けられた視線が、やけに冷たく感じられた。
まるで、画面越しの私まで見透かされたような気がして、背筋がすっと冷えていく。
思わずお茶を持つ手に力が入った。
「同盟のランキングって何を基準に決められてるんですか?」
「たしか、公表はされてないはずだけど、噂では魔石の販売実績だったり、所属人数だったりの総合点じゃないかって言われてるよ。実力順って言っても測りようがないしね。少数精鋭でやってる凄腕の同盟は結構あるけど、ランキングが下の方だったりするしね」
「そうなんですね。基準がわからないとどう頑張っていいのかわからないですね」
しばらく中継は淡々と続いていく。
ふと、周りの空気が一変した。
どこかの大人気アイドルでも現れたのかと思うほどの歓声が響きわたった。
「きゃー! ユウマさーん!」
「こっち向いてー!」
画面に映ったのは、金色の長い髪をなびかせた、まだ若い男性だった。
記者に囲まれても嫌な顔ひとつせず、次々と向けられるマイクに気さくに応えている。
「炎帝ユウマさん、本日はよろしくお願いします! 今回も同盟の顔として注目を集めていますが、意気込みをお聞かせください」
「ありがとうございます。まあ、いつも通り楽しんでいきますよ。堅苦しいのは苦手なんで」
軽い調子でそう言うと、集まった記者やファンに向けて片手を挙げて応えていた。
画面の端に「同盟順位一位 バベルの騎士団」というテロップが出ている。
あの人がランキング一位の同盟のリーダーなんだ。
愛想がよくて、感じの良い人。誰が見てもそう思うはずだ。
なのに、私はなぜか、その笑顔にちょっとした引っかかりを覚えていた。
うまく言葉にはできないけれど、なんとなく、うさん臭い。
「すごい人気ですね……」
「だよね。あの人はちょっと別格な感じかなぁ」
灯里さんは、画面から目を離さずにそう言った。
「灯里さんも、知ってる人なんですか?」
「当たり前じゃん……今一番伸びてる同盟のリーダーだし、憧れてる人はいっぱいいるよ。私もファンだしね」
少し照れたように、灯里さんが笑う。
「え、そうなんですか?」
「あの人、魔装の属性能力を初めて世に知らしめた人なんだよ。それが火属性だったから炎帝って呼ばれ始めてね。それに世界で初めて進化させたのもユウマさんだから」
「そんなにすごい人だったんですね……」
「うん。それがきっかけで一気に注目されて、同盟のリーダーにユウマさんがなったら、すぐに同盟一位まで駆け上がったんだよ。私の魔装も火属性なんだけどさ、あの人に憧れて頑張って買ったんだ。超高かったけどね。実はまだその時の借金が残ってるんだけどね。へへ」
灯里さんは、少し恥ずかしそうにそう言った。
一体いくらしたのか怖くて聞けなかったが、相当な金額になるはずだ。
まだまだ私にとって探索者は、計り知れないものだと思い知らされた。
炎帝と言われる人は、画面から消えても周りの歓声がなかなか消えることはなかった。
それにしても、灯里さんのギャルっぽい雰囲気と、あの華やかな炎帝とはお似合いだなぁ、となんとなく思った。もしかして髪の色もユウマさんに合わせたのかな。炎帝が画面から消えても、灯里さんはまだ画面を食い入るように見つめていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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