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捨てられOL、ダンジョン入って牙を研ぐ  作者: 夢乃舞家


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24/30

初めてのパーティ

 あれから数日が経った。


 実家の管理は今後ワルキューレ側で行うことになり、準備が整うまでは白浜ゲートで活動するようにと言われている。詳しいことはまだ聞かされていないけれど、涼子さんに「もう少し待っててね」と言われたので、大人しく白浜ゲートで活動をしていた。


 そして今日は、灯里さんと初めてパーティを組んでダンジョンに潜る日だった。

 待ち合わせの白浜公園に着くと、屋台の匂いがふわりと鼻をくすぐる。

 平日の昼前だというのに、思ったよりずっと人が多い。


 きょろきょろと辺りを見回していると、遠くから元気な声が飛んできた。


「玲奈ちゃーん! こっちこっち!」


 金色に染めた長い髪を揺らしながら、灯里さんが大きく手を振っている。

 身につけているものはやけにしっかりとした装備だった。

 肘や膝には固そうな防具、胸元には何かの模様が彫られた胸当てが覆っていて、さすが先輩探索者だなと思える装備たち。ただ、それが揃いも揃ってピンク色に塗られているから、傍から見たらコスプレにしか見えなかった。もう防具というより仮装の域だろう。

 腰に下げた剣のせいで、アニメにでも出てきそうな女騎士を彷彿とさせる恰好に仕上がっている。


「灯里さん、お待たせしました」

「ううん、私も今来たとこだよ」


 私たちが話していると、通りすがりの探索者らしき男性が灯里さんに声をかけてきた。


「あれ、灯里ちゃんじゃん。久しぶりだな。元気してたかい?」

「あ、お久しぶりです! 元気ですよ!今日はこちらでお世話になりまーす」


 灯里さんがそう言って頭を下げると、男性は軽く手を上げて挨拶を返すと歩いていった。

 かと思えば、今度は別の二人組が通りすがりに声をかけてくる。


「あれ?灯里ちゃんだ。今日はこっちに潜るの?」

「はい、玲奈ちゃんと今日からパーティを組んだので、しばらくこちらでお世話になりまーす!」


 誰に対しても物怖じせず、気さくに返していく。

 よっぽど人に好かれているんだろう。


「灯里さん、知り合い多いんですね」

「あはは、まぁ、ここら辺で活動してる探索者は大体知り合いかな。岐阜だけじゃなくて、こっちでも活動していたことあるからさ」


 この見た目で、この気さくさなら誰とでも仲良くなれるんだろうな。

 今の私とは正反対な気がする。


「……いやぁ、久しぶりに来たけど、なんか随分と変わったね、ここ」


 灯里さんは辺りをぐるりと見渡しながら、しみじみとそう呟いた。


「そんなに変わってます?」

「うん。私、探索者になって半年くらいだけど、その頃はまだ岐阜にダンジョンがなかったからここに通ってたんだよね」

「そうだったんですね」

「あの頃はまだ屋台なんてなかったから人も少なかったんだけどさ、それがこんなになったんだぁって。多分最近のダンジョン開発の影響だろうね」


 灯里さんは、ずらりと並ぶ屋台を見て、楽しそうに眺めていた。


「最初は探索者としてやっていけるかどうか全然自信がなくて、それで岐阜から通ってたの」

「岐阜からだと、結構遠くないですか?」

「めちゃくちゃ遠かったよ……。でも、これならやっていけそうって思って、いよいよ引っ越すかって矢先に、岐阜にもダンジョンができちゃってさ。それで、そのままそっちで活動するようになったんだよね。だから、ここは私にとって始まりの場所、って感じなんだ」


 灯里さんは、少し照れくさそうに笑った。


「じゃ、そろそろ行こっか。中も、きっとすごい変わってるんだろうなぁ」


 灯里さんに続いて、私たちはゲートへと向かった。

 ダンジョン内に降り立つと、灯里さんは辺りを見てまた目を丸くした。


「おお、なんか建物建ってる!……こんなにちゃんとした場所になったんだね」

「私が来た時にはもうこんな感じでしたけど……」

「すごいよね。以前は周りに何にもなかったよ。たった半年足らずでここまで変わるもんだねぇ」


 灯里さんは、柵の向こうまで見渡せる区画をしげしげと眺めていた。


「へぇ、これを半年でねぇ」

「ダンジョンに参入する企業もどんどん増えてきてるから、これからもっと加速するかもね。……よし、それじゃあ玲奈ちゃん、今日はよろしくね」


 灯里さんはそう言うと、右手を差し出してきた。


「はい、よろしくお願いします」


 私も手を差し出してがっちりと握手する。

 お互いに気持ちを切り替え、表情を引き締める。


 門から出た場所を少し歩いたところで、灯里さんが足を止めた。


「じゃあ、まずは玲奈ちゃんの戦い方を見せてもらおうかな」


 辺りを見回すと、少し先の茂みでハサミガエルが数匹たむろしているのが目に入った。


「ハサミガエルでいいですか?」

「いいね。ちょうどいい練習相手じゃん」


 私はいつも通りに間合いを詰めて拳を握る。

 ハサミガエルは私の動きについて来られないようで、横に回り込んで一撃を食らわせるとあっけなく倒れた。


「うんうん。さすが玲奈ちゃん、余裕だね。……あ、そうだ。玲奈ちゃんは使えないかもだけど、これも一応教えとくね」


 灯里さんはそういうとハサミガエルを指差した。


「こいつ、後ろに小さい尻尾があるの、気付いてた?」

「え、尻尾ですか? 全然気付いてませんでした」

「これを切り落とすと、ハサミが動かなくなるんだよね。だから、刃物持ちならまずここを狙うのが定石」

「へぇ、そんな弱点があったんですね」

「まぁ、玲奈ちゃんの武器だと切り落とすってわけにいかないから、知識として頭に入れとくくらいでいいと思うけど」


 なるほど、私には使えない技だけど、覚えておいて損はなさそうだ。


「……どうして挟むのにしっぽが関係してるんですかね?」

「さぁ、なんでだろうね」


 灯里さんは軽く笑いながら、腰にある剣を抜くと、ハサミガエルの腹を割いて魔石を取り出した。


「よし、じゃあ次はシカメレオンも見せてもらおうかな。探すのに時間かかるかもしれないけど、この辺のメインになる魔物だしね」

「そうですね。探してみます」


 私はいつものように、気配を探るように意識を広げる。すると、少し離れた茂みの奥に、こちらに気付かれないよう息を潜めている気配があった。


「あっちにいます」


 迷わず指差すと、灯里さんが目を丸くした。


「え、もう見つけたの?」

「はい、こっちですね」


 そう言って、灯里さんを気配のする方へ案内した。


「あそこですね」


 二分ほど歩いた先に、風景に同化しているシカメレオンを見つけた。

 発見を報告すると、灯里さんは不思議そうにこちらを見ている。


「よくあそこから見つけられたね。さすがに見えるような距離じゃなかったと思うんだけどなぁ」

「えっと、たぶんこれは魔装の力なんですよ。周囲にいる魔物の位置がなんとなくわかるみたいで。茜さんにも、魔装の能力の一つだろうって言われました」

「マジかぁ、それめちゃくちゃいい能力だね。索敵系の能力が付いた魔装ってとんでもなく高いんだよ。それあるだけで効率変わるからね。こりゃ頼りがいのある相棒ができちゃったかなぁ」


 灯里さんは、心底嬉しそうな声を上げるので、私も喜んでもらえてうれしかった。

 たしかに、そういわれると獲物の位置がわかる能力ってかなりありがたいと思う。やっぱり欲しがる人も多いんだろうな。


 私は早速シカメレオンを狩るために、気付かれないように回り込んで、慎重に間合いを詰める。

 後ろに回り込んだので、気づかれないうちに全力で走り込み、隙をついて腹へ拳を叩き込んだ。

 一度では倒れずに、シカメレオンは鳴き声を上げてこちらを向くとすぐに攻撃を仕掛けてくる。

 しっかりと避けると、ダメージは入っているようで少しふら付いているようだ。

 私はすぐに体勢を整えて、側頭部を強打する。

 さらに足がおぼつかない様子でふらふらとしているので、さらに追い打ちにもう一度頭部に拳を叩き込むとようやく崩れて倒れていった。


「お見事。涼子さんに聞いてはいたけど、ほんとに一人で狩れるんだね。これなら連携だけしっかりできれば大丈夫そうだね」

「ありがとうございます……! 前より少し楽に倒せた気がします」

「玲奈ちゃんの武器、刃物じゃないから肉があんまり傷まなくていいよね。剣だと、勢い余って肉までズタズタにしちゃうことが結構あるから」

「そうなんですか」

「うん。売り物にならなくなっちゃうんだよね、そういうの」


 なるほど、拳で殴る戦い方にも、そんな利点があったなんて知らなかった。


「そういえば、肉が売れるようになったのって最近なんですよね?」

「んー、私はもうずっと普通に売ってたけどね。同盟通せばいいだけだからさ。国内はまだ売れなかったけど、国外に流してたみたいだよ」

「国外……なるほど」


 日本では販売できなくても海外なら売れる場所もあるのか。

 今後は売ることに困ることもなさそうだし、やっぱり同盟に入って正解だと感じた。



「あの、倒したのって、この後どうしたらいいんですか? 解体とか」

「ゲートまで運べば大丈夫だよ。門の所にポーター要員を待たせてるから」

「ポーター、ですか」

「うん。事前に同盟へ報告しとくとポーターを用意してくれるの。あの人たちは探索者じゃないから中までは入ってこられないんだけどね。だから、こっちで門の所まで運ぶ必要はあるんだよ」

「なるほど。探索者以外にもそういう人がいるんですか……」

「大手の同盟だと、人数多めでパーティ組んで、運ぶ係を作っておくのが普通なんだよね。うちはまだ東海エリアにメンバーが少ないから、そこまでできてないんだけど」


 灯里さんは、少し悲しそうに笑った。

 きっと今までメンバーが少ないことで大変だったことがあったんだろう。


「まぁ、これから人が増えれば、そのうちできるようになるからさ。一緒に頑張ろうね」

「はい、頑張ります」

「そうだ、今度は私のも見せてあげるね。もう一回シカメレオン探してくれる?」

「わかりました」


 私はもう一度意識を広げ、近くに潜んでいる気配を探す。そう時間もかからず、少し先の茂みにもう一匹の気配を見つけた。



「あっちにもう一匹います」

「よし、じゃあ今度は私の華麗な討伐を見せてあげるよ」


 灯里さんはそう言うと、倒したシカメレオンを引っ張り始めた。


「それどうするんですか?」

「コイツはさすがに持って移動できないから、木の陰にでも置いておいて、あとで取りに来ようと思ってね」


 そういうと、灯里さんは少し重そうにシカメレオンを抱えるようにして移動させている。


「私が持ちますよ」


 私はそういうと、片手でシカメレオンを持ち上げ、すぐ横の木の陰に移動させた。


「うぉ……」


 それを見て灯里さんが目を見開いている。


「どうしたんですか?」

「玲奈ちゃん力持ちだね。片手でこんなの持てるなんて」

「これも魔装のおかげですかね。普段はこんなの両手でも持ち上がらないですよ」

「ほぇ、ほんとに便利な魔装だね」


 そして私たちは次の獲物のもとへと向かった。

 しばらくしてシカメレオンが見えるようになると、灯里さんは腰の鞘から剣を引き抜いた。

 柄の部分が金色に輝いていて、思わず見惚れてしまうくらい恰好いい剣だった。これも魔装なのは間違いない。


 灯里さんは、迷う様子もなくまっすぐシカメレオンへ向かって駆けていく。近づいてくる気配に気付いたのか、シカメレオンも景色に紛れさせていた姿を解き、角をこちらへ向けて身構えた。


 それでも灯里さんの足は止まらない。真正面から飛び込むと、剣を一閃させる。

 次の瞬間、あれだけ打撃を弾き返すほどの硬さをもっていたはずの角が、あっさりと宙を舞った。


「え」


 私が驚くのも束の間、灯里さんは流れるように剣を返し、シカメレオンの首を一太刀で斬り落としていた。

 あっという間の出来事だった。


「灯里さん、すごいです……! あの角を切り落とすなんて」

「あはは、まぁね……って言っても、この魔装のおかげなんだけどさ。この魔装ならこの程度の魔物なら一撃で終わるんだよ」


 灯里さんは、照れながら魔装を鞘へと戻した。


「よし、一旦獲物を置きに帰ろうか」


 そういうと、灯里さんは切り落とした角を拾い上げる。

 体は重いので私が持つことになり、先ほどのもう一匹も回収し、二体とも私が引きずりながら持って帰ることになった。


「いやぁ、二体とも持たせてごめんね」

「大丈夫ですよ。それほど重く感じてませんから」

「これがそんなに軽くなるなんて、その魔装の能力が相当高いってことだね。これは今後が楽しみだよ」

 そんな話をしながら、私たちは門を目指して歩き出した。


「えっと、確かこっちの方角だったよね……」


 自信満々に前を歩いていた灯里さんだったが、しばらく進んだところで足を止め、辺りをきょろきょろと見回し始めた。


「あの、灯里さん?」

「あー……ごめん、なんか見覚えのある景色ばっかりで迷っちゃったかも?」


 森なので景色が似ているのは当然だと思うのだが、確かに迷いやすいのかもしれない。とはいえ、まさかこんなところで方向感覚を失うとは思わなかった。


「こっちですよ、たぶん」


 さすがに私は方向を見失っていなかったので案内すると、灯里さんは素直に「さすが」と笑って付いてきた。

 これからはちゃんと私が位置を把握しておかないといけない。そう自分に言い聞かせた。


 無事に門へたどり着き、待っていてくれたポーターの方に素材を預けると、ようやく肩の力が抜けた。

 ゲートを抜けて外に出ると、相変わらず屋台の賑わいが続いている。


「ねぇ、玲奈ちゃん。お腹すいたし、なんか食べてこうよ」

「賛成です」


 二人で屋台を覗いて回り、串焼きと甘い飲み物を買うと、近くのベンチに並んで腰かけた。


「ありがとうございました。いろいろ教えてもらえて、すごく勉強になりました」

「こちらこそ、玲奈ちゃんの戦い方見れて楽しかったよ。次も交互に倒して行こうか。奥に行かない限りお互いに一人で倒した方が速そうだしね。明日以降は連携をどうするか考えながら練習しよう。そしたらもっと強い魔物にチャレンジできるからさ」


 灯里さんと話し合い、まだお互いに慣れていないうちに強い魔物に遭遇すると危険なので、数日は様子を見ることになった。連携がうまく取れるようになれば、もう少しレベルの高い場所へ案内してくれるみたいだ。


 今日は串焼きを頬張りながら、洋服のことやネイルなどの普通の女の子の会話を楽しみ、午後からはまたシカメレオンの討伐を遅くまで楽しむことになった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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