新拠点生活
鍵をもらってから、二日が経っていた。
「……結局、一度もゲートに行けなかったなぁ」
ベッドを組み立てて、洗濯機と冷蔵庫を運び入れてもらって、細々とした生活用品を買い揃えて。
気づけば、丸二日がそれだけで潰れていた。
これで、一通り必要な物は揃った。
殺風景だった部屋も、こうして見ればしっかりとした生活空間に様変わりした。
問題は、実家から持ってきた肉の山だ。
用意した冷蔵庫が実家のものよりずっと小さいので、冷凍冷蔵ともに肉だけで満杯になってしまった。
「……どうしよう、これ」
まあ、これはこれで仕方ない。
できるだけ毎日自炊して肉を消費していくしかないよね。
荷解きを終えて、私はベッドに腰を下ろした。
窓の外からは知らない街の音が聞こえてくる。
実家の周りとは違い、バスの走る音や、誰かの話し声が窓から聞こえてくる。
思っていたよりもいろんな音が聞こえる部屋だった。
買ったばかりのマグカップでお茶を飲む。
たったそれだけのことが、いちいち新鮮で楽しかった。
「……なんか、旅に来てるみたいね」
住む場所が変わっただけで、こんなに心が浮き立つなんて思ってもみなかった。
「……もっと早くこうしていればよかったかも」
窓辺に立って外を眺めながら小さく笑った。
新しい生活は、思っていたよりずっといい方向へ進んでいる気がする。
私は押入れから戦闘服を取り出すと、袖を通した。
ようやく、これを着て狩りに行ける。
着替えを済ませて玄関を出たとき、この格好で外を歩くのは、今日が初めてだったことを思いだした。
今までは、家の中にゲートがあったから誰にも見られることはなかったが、いくら探索者の多いこの街でも、さすがに迷彩服姿の女は目立つのではないだろうか。
「……なんだか、そわそわするなぁ」
周りの人にどう見られているのか、気になって仕方なかった。
案の定、すれ違う人が、ちらちらとこちらに視線を向けてくる。
二度見してくる人もいた。
やっぱり、目立つよね。これ。
いたたまれない気持ちを抱えたまま、私は早足でゲートへ向かった。
河川敷にたどり着くと、見覚えのある屋台が並んでいる。
その中の一つから、聞き覚えのある声がかかった。
「おや、お嬢ちゃん」
振り返ると、先日話したあの屋台のおじいさんだった。
「本当に探索者だったのかい。その格好、様になっとるじゃないか」
「あ、どうも。お久しぶりです」
まさか覚えていてもらえるとは思わず、少し驚いた。
「今日はさっそくお仕事かい?」
「はい、やっと装備が整ったので。……あの、ちょっとお聞きしたいんですけど、ここって、どんな魔物が出るかわかりますか?」
せっかくの機会だ。聞けることは聞いておきたい。
「なんじゃ、そんなことも知らんと来たのかい。そうじゃなぁ。いろいろと出るが、よく狩られる魔物といえば、三種類くらいかのぉ」
指を折りながら、おじいさんは話し始めた。
「まずは、シカメレオン。鹿みたいな見た目をしとるが、カメレオンみたいに周りの景色に化けるんじゃ。気づくのが遅れると食われるぞ。このゲートで一番気をつけなきゃいかんのはそいつじゃな」
「肉食ってことですか……」
「そうじゃな。最近は犠牲者も減ってきてるらしいが。こいつは肉が美味いから人気があるんじゃよ。今は買取もしとるし、それ目当てで狩ってる探索者も少なくないんじゃ」
危険だけど、稼ぎになる。
いかにも探索者らしい話だな、と思った。
「次は、ハサミガエル。クワガタみたいなハサミを持った、カエルみたいな体の魔物じゃ。挟まれたら体が真っ二つになるくらいの力があるから気をつけないかんぞ。そんなに素早くはないらしいから滅多に挟まれることはないらしいが油断しないことじゃ」
「ま、真っ二つですか……」
「肉は食えるが、味がイマイチで売り物にはならん。だから探索者は、魔石だけ抜いて捨ててくらしい……ただ、あれは昆虫の仲間じゃないかと言われていてな。魔装欲しさに狩ってる連中も結構いるんじゃよ」
たしか、昆虫系は武器型の魔装を落としやすいんだったっけ。
「そして、運がよければ会えるのが、オーロラタマムシじゃな」
「オーロラ、タマムシ……?」
「見つけたら儲けもんじゃよ。あれは体が犬より大きく色も鮮やかなタマムシでな。……ただ、面白い特徴を持っててな。持っている魔石が決まっていないんじゃよ」
「決まっていない…とは、どういう意味ですか?」
「そのままの意味じゃよ。倒して魔石を取り出してみるまで、何色が出るかは誰にもわからん。だから、トレジャータマムシとか、ラッキータマムシなんて呼ばれたりもしとる。魔装もドロップしやすいっていう話もあるでな」
「開けてみるまでわからないって、なんだか宝箱みたいですね」
「同じようなものじゃな。それにな、体の割に大きな魔石を持っとることが多くての。見つけたらみんな目の色を変えて取り合いになる。あまり強くないらしいから、飛んで逃げられさえしなけりゃ楽に勝てる相手なんじゃと。ワシは見た事ないんじゃけどな」
思わず、頭の中でメモを取るように聞き入っていた。
「他にも、まあ色々出るがな。人気があるのは、そのあたりじゃ。初心者のうちはハサミガエルを狩るのがおすすめじゃよ。あれは数も多いでな」
「すごく参考になりました。ありがとうございます」
「なに、お嬢ちゃんも、気をつけて行っといで」
おじいさんは、そう言って軽く手を振ると、屋台の仕事に戻っていった。
私は人込みの中へ進み、まっすぐゲートをくぐった。
柵の内側は、相変わらず工事現場のような賑わいだった。
トラックのエンジン音を横目に、私は門のほうへまっすぐ進んでいく。
門をくぐった瞬間、空気が変わった気がした。
さっきまでの、のんびりとした雰囲気が嘘みたいに消える。
代わりに、じっとりとした湿った空気が肌にまとわりついた。
「……やっぱり家から入ったダンジョンとは感じが違うね」
思わず、声が硬くなる。
目の前には、草原とはまるで違う景色が広がっている。
背の高い木々が入り組んで生い茂り、足元は水気を含んで土が湿っている。
少し暗い上に、草木が邪魔で視界はあまり良いとは言えなかった。
ところどころに水たまりのような、小さな沼があり、前に進むのも気を付けなければ足を取られそうになってしまう。
私はおじいさんの話を思い出しながら、慎重に足を進めていく。
まずは、初心者向けだと言っていたハサミガエルを見つけたい。
耳を澄ませながら歩いていくと、少し開けた場所に出た。
小さな水辺があり、そこを囲うように丸々とした緑色の物体がいくつも見える。
ゴツゴツした肌をしているので苔の生えた岩に見えるが、頭の両脇から大きなハサミが二本突き出していた。
「……いた」
思っていたよりずっと大きい。
全長は、一メートルくらいはありそうだ。見た目が少し怖い。
一瞬目が合った気がするが、特に私を気にする素振りもなく、のそりと体を持ち上げて離れていく。
カエルにように飛び跳ねたりするのかと思ったが、普通に歩いていた。
おじいさんは、ハサミガエルは素早くないと言っていたが、確かにどんくさそうに歩いている所を見ると危険度は低そうに見える。
早速倒すために、私は駆け出し、ハサミにだけ気を付けるようにして距離を一気に詰めていった。
案の定、動きは鈍い。
ハサミガエルがこちらを向いて、大きく開いたハサミを振り上げるのが見えた。
挟まれたら、たしかにあの言葉どおり真っ二つにされそうな太さのハサミを、左に体をかわしながら側面をすり抜けた。
「せいっ!」
横から側頭部めがけて拳を叩き込む。
ぐにゃっとした嫌な感触が拳に伝わって、ハサミガエルの巨体が横に傾いた。
もう一撃、体勢を崩したところへ叩き込むと、緑色の体がどさりと沼のふちに沈み込んだ。
動かなくなったのを確認して、私は詰めていた息を吐く。
「ふぅ……本当に、大したことなかったな」
見た目のインパクトのわりに、危なげなく終わった。
油断しなければ大丈夫、というおじいさんの言葉どおりだ。
周辺には、他のハサミガエルがまだいるが、今のやり取りで逃げ出すかと思いきや、のんびり寝ている個体もいて、本当にどんくさい魔物なのだと実感させられる。
ハサミガエルの肉は売れないらしいので、このまますぐ解体をすることにした。
大きなお腹を開くと、中は大きな空洞となっていて、その奥に魔石が見える。
取り出してみると、青い魔石だった。こいつも水属性のようだ。
体が大きいくせに、魔石の大きさはウサギと同じくらいしかない。
「……青い魔石かぁ」
ウサギよりは楽に倒せるし、見つけるのも楽なことを考えれば、ハサミガエルの方がお得なのかもしれない。。
肉のほうは味がイマイチだと言っていたが、確かに全体的に白くぶよぶよしていて美味しそうには見えない。
おじいさんの言葉を思い出して、私は魔石だけを抜き取り、残りはその場に置いていくことにした。
周囲には、まだ五匹くらいは見える範囲内に確認できる。
こいつらは群れる習性でもあるのだろうか。
私は近い順から倒していこうと決め、残りのハサミガエルに向かって駆けだした。
一匹ずつ、確実に仕留めていく。
全滅するまでハサミガエルは逃げることはなく、静かに倒されていった。
「群れで居てくれると探す手間がないのは本当に有難かったわね」
ものの十分ほどですべて倒し終え、魔石の回収を済ませることができた。
明らかにウサギよりも効率的な獲物だったと思う。
「まだまだ余裕はあるし、もう少し奥に行ってみようかしら」
初めての場所だから、今日はあまりゲートから離れるつもりはなかったが、この調子ならまだまだいけそうだ。
少し奥へ進んでみようと足を踏み出して十分ほど歩くと、ふと視界の端に何かがいる気配を感じた。
気配の方を見てみるが、私には特に変わった様子があるようには見られない。
しかし、確かにそこに何かが居る気配がある。
この違和感に私は困惑していた。
「この気配は魔物のはずなんだけど、どこにいるのかしら……」
目を凝らしていると、周りの木の幹に鹿のようなシルエットがぼんやりと見えた気がした。
「……え、今のもしかして」
あれが、おじいさんが注意しろと言っていたシカメレオンだろうか。
意識して見ていないと、すぐに見失ってしまうほどに風景と同化している。
姿を見失わないうちに。そう思って私は迷わず駆け出した。
いつものように、全力で距離を詰めて拳を叩き込む――はずだった。
だが、振り抜いた拳は、空を切った。
「……え?」
初めてのことだった。
これまで、私の拳をまともに避けた魔物なんて一匹もいなかったのに。
シカメレオンは、ぬるりとした動きで私の攻撃をかわすと、同化していた本体が姿を現せた。
体は大きく、一般的な鹿より一回りくらい大きく、茶色と緑のまだら模様をしていて、頭には鋭く尖った角を持っていた。
鹿とは思えないような牙も口から生えていて、確かに肉食だというのもうなずける。
姿を現せると同時に、シカメレオンは角をこちらに向けて突き出してきた。
とっさに、右の拳でその角を殴りつけて弾き返した。
……すると、ガキィンと鉄でも殴りつけたかのような音が鳴り響き、その衝撃が拳を伝ってきた。
骨まで響くような硬さに、思わず顔をしかめる。
「うそでしょ、硬っ……」
まるで歯が立たない。
シカメレオンは怯む様子もなく、今度は横薙ぎに角を振り回してきた。
連続で振るわれる角を、拳で弾いたり、体をひねって避けたりして凌いでいく。
これまでの相手と比べて、明らかに強い。
息が上がってくるのが、自分でもわかる。
こんなに長く一体の魔物と向き合ったのは、初めてだった。
「はっ……はっ……」
角の一撃を紙一重で避けたところで、わずかに体勢を崩したシカメレオンの隙を見つけた。
迷っている余裕はない。
「うらぁ!」
私は年頃の女が出して言い声ではない唸り声をあげ、全力で踏み込んで、力の限り側頭部へ拳を叩き込んだ。
今度は、手ごたえがあった。
シカメレオンの体が、大きくよろめく。
好機だ。
私は畳みかけるように、続けて二発、三発と拳を打ち込んでいく。
崩れた体勢を立て直させる隙も与えず、最後は渾身の一撃を叩き込んだ。
鈍い音を立てて、シカメレオンの巨体が地面に沈む。
もう、動かない。
私は、その場にへたり込みそうになるのを、かろうじてこらえた。
「……はぁ……勝った……」
全身に、じんわりと汗が滲んでいる。
これまでの魔物とは、明らかに格が違った。
息を整えてから、私は慎重に近づいて解体にかかる。
腹の中から出てきた魔石は、これまで見たどの色とも違っていた。
「……茶色。これって、土属性かな?」
初めて手にする色だった。
苦戦した分、なんだか特別なものに思えて、私はしばらくその魔石を見つめていた。
シカメレオンの巨体を担ぎ上げると、思っていたよりずっしりときた。
それでも、野獣の牙をつけた状態なら、なんとか運べる。
明らかに100㎏は超えてる。下手すると200㎏以上あるような大物だが、これが私一人で運べるなんて、魔装様様だなと思った。
門まで戻ってくると、周囲がざわつきはじめた。
見学していた観光客らしき人たちだけでなく、装備を整えた他の探索者までもが、こちらを振り返っている。
「……なにこの視線」
心なしか、みんなの目がシカメレオンと私を交互に見ている気がする。
ほかの探索者もシカメレオンを持ち運んでいる人がいるのに、なぜ私に注目するのだろうか。
もしかして、持ち上げられないから引きずってきたのがいけなかったのだろうか。
あまり気分のいい注目のされ方ではなかった。
私はそそくさと解体場を素通りして、隣の買取窓口へ向かうことにした。
自分で解体するより先に、売り方や解体の仕組みを聞いておきたかった。
窓口の店員は、丁寧に説明してくれた。
「シカメレオンですね。自分で解体していただいた場合一キロにつき2000円で買い取らせていただいています。ただ、解体をこちらにお任せいただく場合は、半額なりますが、いかがなさいますか」
「解体しないで売るとそんなに安くなるんですか?」
「はい。解体の手間や肉以外の部位の分を差し引いておりますので、どうしてもこれくらいお安くなってしまいます。ご自分で捌かれた方が、その大きさですと恐らく二十万は差があると思いますよ」
どうしようか、少し悩んだ。
正直、食べてみたい気持ちもあるので解体するのも悪くない。
でも、ウサギのように小型ならよかったが、これだけ大きいと一人ではかなり大変なのは目に見えている。
面倒だということもあるし、お金に困っているわけではないので解体は任せたい。
「じゃあ、丸ごとお任せで、お願いします」
「かしこまりました。恐れ入りますが、探索者証をご提示いただけますか」
私は財布から探索者証を取り出して、カウンターに差し出した。
店員はそれを一瞥すると、手元の端末に何か入力していく。
「確認できました。ありがとうございます」
免許証を返してもらうと、店員に重量を図る場所まで案内され、そこで体重を測った。
「275㎏ですね。お支払いは27万5千円です。よろしいですか?」
「はい、お願いします」
店員さんは奥から茶封筒を持ってきた。
「27万5千円、こちらでお間違いないかご確認をお願いします」
封筒の中には、一万円札が二七枚と五千円が一枚入っていた。
どうやら魔石の買取所とは違って現金一括払いらしい。
現金で渡されるのは初めてで、少し戸惑った。
「あ、はい。大丈夫です」
思ったより手間なく、取引は終わった。
肉の分だけで生活できるくらいの収入になってしまったので、魔石の分を入れると日給が恐ろしい金額になりそうで正直震えた。
「うーん。まだ時間もあるし、もう一狩りしてこようかな」
柵の中を歩きながら、次はどこへ行こうかと考えていたときだった。
「あの、すみません」
背後から、男性の声がかかる。
振り返ると、装備を身につけた男性が二人、にこやかにこちらを見ていた。
「さっきシカメレオン狩ってきてたのって、あなたですよね?」
「あ、はい、一応」
「おお、すごいですね……。あの、失礼ですけど、パーティってどこかと組んでるんですか?」
「いえ、組んでは……」
「そうなんですね!同盟には所属していますか?してないですよね?もしよかったらうちの同盟に入りません?待遇よくするんで希望があればおっしゃってください。できるだけのことはしますので」
答える隙もないまま、質問が畳みかけられる。
この感じ、前にも経験したことがある。
というか、なぜ同盟に入ってないってわかるのだろうか。
うんざりした気持ちが顔に出そうになるのを、必死にこらえた。
「あの、私は――」
「ちょっと、あんたたち!」
鋭い声が割って入った。
振り返ると、すらりとした女性が、腕を組んでこちらへ歩いてくるところだった。
「やめなさいよ。困ってるじゃない」
男性二人は、ばつが悪そうに顔を見合わせる。
「いや、俺たちは別に、そんな……」
「無理な勧誘はマナー違反よ。嫌がってるのだって見ればわかるでしょ。ほら、解散解散!」
有無を言わせない口調に、男性二人はそそくさとその場を離れていった。
あっけにとられている私に、その女性が笑いかけてくる。
「ごめんね、いきなり。ああいうの、見てられなくて」
「あ、いえ……ありがとうございます。助かりました」
彼女を見ると、一般の人と同じような服装をしていたが、明らかに探索者の雰囲気を醸し出していた。
落ち着いた雰囲気と、身のこなしの隙のなさが、経験の長さを感じさせる。
「もしかして、一人で潜ってるの?」
「えっと……はい、そうです」
「へえ。さっき見てたけど、あのシカメレオンを一人で? やるわね」
感心したように言われて、なんだかくすぐったい気持ちになった。
どうやら見られていたようだが、どうやら一人であの大きさの魔物を運んでいたことで注目を集めていたようだ。
「私は涼子。今日は視察できてたんだけど、ホームはここじゃないのよ。よろしくね」
「あ、私は白瀬です。白瀬玲奈」
「玲奈ちゃん、か。……ソロでここまでやれてる女の子は珍しいわね。もしかして、その両手に嵌めてる魔装の能力のおかげかしら」
「あ、えっと。その……」
「ああ、詮索するようなこと言っちゃったわね。無理に聞いちゃってごめんなさい」
「い、いいえ……こちらこそすみません。探索者の方と話したことがあまりないもので緊張してしまって」
そういうと、涼子さんは少し目を大きくすると、驚いたように声を上げた。
「話したことがないって……探索者の経験はどのくらいなの?」
「えっと、まだ一週間とちょっとくらいですかね」
「一週間!?」
彼女は、驚いて口をパクパクさせている。
どこにそんなに驚く所があったのか、逆に聞いてみたいくらいだ。
「へ、変ですかね?」
「変というか……驚いたわね。少なくとも半年以上は潜ってるのかと思っていたわ。魔装も持ってるしね」
「この魔装は、偶然魔物から手に入れただけで、まだ探索者のこともあまりわかっていないんです」
何せ、ここのゲートを使ったのすら今日が初めてなのだから。
私がそう言うと、涼子さんは少し考えるような仕草を見せてから、声のトーンを落として話し始めた。
「誰か付き添ってくれる人はいなかったの?」
「いえ、周りに探索者をしている人がいなかったので」
「そう……女の子の探索者って少ないから、周りからじろじろ見られて嫌じゃない?」
やっぱり女性探索者ってだけで注目されてしまうものなんだな。
きっと涼子さんも経験してきたんだろう。
「あんまり気分のいいものではないですけど、しょうがないのかなって諦めてます」
「そっか。ただ、無理はしないようにね。この世界、思ってるよりずっと、あっけなく人が死ぬから」
その言葉には、どこか実感がこもっているように聞こえた。
軽い忠告というより、経験に裏打ちされた重みがあった。
「いつもこのゲートを使ってるの?」
「いえ、ここは今日初めてだったんですが、近くに引っ越してきたので、今後はここを使うつもりです」
「そう。私もこれから来ることも増えると思うから、その時はよろしくね。長く引き止めちゃってごめんなさい。また会いましょう」
「はい、ありがとうございました」
涼子さんは、それだけ言うと、軽く手を振って人混みの中へ歩いていった。
私はしばらく、その背中を見送っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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