第五話 人っ子、一人いねえ
体はベトベトで最悪だ、臭いもツーンと酸っぱい香りがする。
地面に座り込んだまま、スライムが溶けた周辺の小石にへばりついた残滓をじっと見つめる。
どうやら、再生自体はしないようだ。にしても、俺の嘔吐がこんなに効果があるなんてな。
安堵した俺は
アドレナリンが切れてきたのか、殴打された痛みと、地面に叩きつけられた痛みが蘇る。
「ん、ん??い、痛ってえええあああ、クッソ、、」
打ち付けられた、右半身とお腹を優しく触り痛みを確認する。服を捲ると、腹部にも拳の跡のように、内出血が広がっていた。
状態を確認するため、透視で自分の腹部を見る。
胃はキラキラと光っている。何かのスキルが作動しているようだ。
うーん?俺のスキルって、心臓やら肺、胃が強化されるスキルってことか?
だとしたら、ピーキーな能力だぞ。
体の内臓系が強化されるとはいえ、それは、まあ、一般人よりは強いとは思うが、使い勝手があまりにも分からない。
ましてや、胃酸が超強化されて、あのスライムを、一撃で溶かせるほどのものだ。
たぶん、俺の胃酸は相当やばい代物になってんだろう。あんなゴリラアームを無数に生やしたスライムを退治出来るくらいだからな。
たく、どんなスキルをあの女神は俺にくれてんだよ。それに、どうやって、この能力でこの世界を救うっていうんだよ?
無理ゲーだろ、こんなん。。
無理ゲーで、営業時代のことを思い出した。そういや、一人で絶対に不可能なノルマを課せられたこともあったな。
クソみたいな会社だった。それに、クソみたいな世界でもあったな。人を下にしかみない連中ばかり。助けてくれる奴なんていやしない。
思い返すと嫌なことばかり。これまでの人生で心臓が痛くても、這い回って客から蔑まれた目で見られて、部長に叱責されてきた人生より、よっぽどマシさ。
俺にはこれしかなかったんだ。痛くても、辛くても、自分の身を削ることしか、日銭を稼ぐことしかできなかった。
馬鹿に見えようが、仮面を貼り付けた笑顔で接客しようが、地獄のノルマを課せられようが、
働いて稼いで、自堕落に生きることがあの世界の俺の救いだったのさ。
だから、あの世界より、今の俺は自由なんだ!胸の痛みや蔑み、叱責、社会の歯車、全てから解放されたんだからな!
あんな、クソみてえな社会から抜け出せた俺はいま、悩みなんてない。あるとするなら、このベトつきと、食糧くらいだ。
元の世界で心残りなのは、両親だけだが、あの二人は今頃海外旅行でもしてることだろう。多分、俺が居なくても大丈夫さ。
哀愁を感じながら、よいしょと立ち上がる。
体に粘液を垂らしながら、軋む体を動かして歩行する。
ちまちま、歩いて行くが、周りは森ばかり、、
人っこ、一人もいねえのかよ!!!
心でそう、突っ込んだ。
見渡す限り、木、木、木、草、草!!
どうなっってんだよ、まったく、村人くらい居てもいいだろうよ。
そして、俺を勇者として祀りたてて貰いたい。
「本当、変なところに異世界転生したもんだな」
まずもって、前提知識が無いのは当たり前だが、ゲームの世界だとかに入り込むもんじゃねえのか?
陰の世界て、なんだよ。それは一体?
それに、ステータスもででくんねえし、適当にスキル名みたいなの言っとくか?
「ファイアーボール!!」
しーん。
そらそうだわな。じゃあ、
「サンダーボルト!」
…………。
◇
暫く、それっぽいスキル名を何単語が呟いてみるが、スキルが発現する兆しは見えない。やっぱり、俺の能力は、この体の内臓系の強化と、透視が出来るくらいだな。
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