第四話 スライムは忽然と
ミチミチッーー
俺は足を振り払おうと、スライムに掴まれた右足を左右に振るが、びくともしない。
くそっ、なんつう力だ。
ていうか、こいつ、スライムだよな?
フツー、スライムがこんな力を持ってていいのかよ?何だよ、こいつ、、この異世界が狂ってんのか?
「…ッッだら!!」
拘束されていない左足で、掴んだスライムの手を蹴るが、鋼鉄のように硬く、蹴った自分に振動が反響する。
かっった!?
くそ、どうすれば、、
するとーー俺の体が徐々に浮かび上がる。
土がぼろぼろと服に付着したものが剥がれ落ちるのを感じながら、嫌な予感がした。
「うそだろ?持ち上げる気か?」
下半身側から持ち上げられる、奇妙な感覚に何も抵抗できない俺に恐怖が襲う。抵抗しようと、手で地面を掴むが意味をなさない。
スライムは手を触手のように長く伸ばして、上方向へと俺の体全体を持ち上げた。
そして、鞭のように両手をしならせて、体を地面へと叩きおとしたのだ。落下エネルギーと、単純なパワーによる掛け算。
地面に激突する瞬間、逃げようと体を捻ってみたが、拘束された足は振り払うこともできず、
右半身が地面とぶつかった。
「ぬうぁああぁッッガ!!」
頭を抱える形で、地面と衝突した俺は、衝撃が全身に伝わる。
い、痛えええええ!!クソ………体が破裂したかと思った。叩きつけられた衝撃で右半身に内出血が浮かび上がる。
透視で体をチェックする。
あばらにひびが入ったようだ。幸い、骨折までは至っていない。
そして、功を奏したのか、体を捻ったお陰か、叩きつけた衝撃でスライムの手が緩んでいた。
痛みを堪えて、その隙をつく。
「おらっ!」
両手がするりと抜けた、やった!
スライムから、距離を取り、振り返ってスライムと対峙する。
スライムは、何食わぬ顔で伸ばした手を縮ませて、新たに何かに変形させようとしていた。
その間、俺は、痛みをどうにかして抑えるため、我慢するように、呼吸に意識を向ける。鼻から大きく空気を取り込み、喉から気管支、肺へと行き渡らせ、ゆっくりと細く口から息を吐き出す。
それを数回繰り返す。
ゆっくりと動作する、俺の中で鼓動が響く。
(ドクンっ、ドクン!!)
心臓の音が聞こえる。意思とは無関係に絶え間なく、自律的な独自のリズムを響かせていた。
徐々に痛みが和らいできた。これは、交感神経が優位に働いているのが、副交感神経へと急速に切り替わったためだろう。
なぜか、それを説明されずとも頭で理解できている。何だっていい。今、この場を突破出来るのなら、何だっていい。
「スゥー、ハア」
呼吸を整えると、痛みが馴染んできた。
どうやら、スライムの方も変形し終わったらしい、無数の腕が生え、拳が握られている。
殴る気満々て感じが伝わってくる。
これまで捕食したであろう、数々の化け物の腕がたった一匹のスライムから生えてる姿は、恐怖としか言いようがない。
ゴリラのように、手で地面を蹴って俺へと接近した。
ドドドドドドっっ
凄まじい、速さでやってきたスライムだが、俺も負けじと逃走を決め込む。
俺は生き残るからな、今度こそ幸せになるんだ!
確固たる意思を決め込むが、やはり、スライムの速度は常軌を逸していた。
走るのに慣れた強心臓とはいえ、魔物には勝てない。気付けばスライムと並走していた。は、速い!
よく分からんスライムが腕を無数に生やしてゴリラ走りされちゃあ、敵うはずもねえ。
だったらーー俺はファイティンポーズを取るのみ!
右足を前に、左足を重心に、右手を前に、左手を顎に構える。素人だが、ゲームセンスならその辺の素人よりもやってきた、だから分かる。
ふ、『ストレッチファイター』をやってきた俺になら、分かる!これだ、この構えで、牽制するんだ。
しかし、その構えは呆気なく崩されるのだった。
ゴリラのようなぶっとい拳で殴ってきたスライム、それをみた俺はガードするが、ボディーがガラ空きのため、拳が腹へ入った。
衝撃が波紋のように広がる。
「ガッはッッ」
口から、さっき食べた野草が外へ飛び出した。
そんなのお構いなしで
スライムは怒涛の拳をボディに喰らわせる。
サンドバックのように、無数に生えた腕で打ち込む。
「おえっ、ガハッ」
口から、胃液が吐き出される。
落ちた胃液はシューと音を立てて地面を抉るほど溶かした。
胃液。それは強酸性の塩酸。しかし、今、六腑の体に起こっているのは、塩酸を遥かに凌駕する、酸性の液体が作られていた。食欲から活性化された胃袋から作られるそれは、超酸と同等の酸化能力がある劇物だ。
スライムは殴打するのに飽きてきたのか、俺の意識が朦朧としてきたのに気付いたのか、無数の腕を変形させて、元の姿へと戻った。
ーーそして、人を飲み込めるほど大きくなり、俺へと覆い被さった。
粘性のスライムの体内で、俺は消化されていくのだろうと思った。
意識が朦朧としてる、息が出来ない。。さっき、お腹ばかり、責められたせいで、吐き気が、、、、
『ヴォ、ゴポゴポ、ごぼごぼぼぼ』
スライムの体内で盛大に胃液をぶちまけた。
すると、スライムの粘体が溶けていく。それも急速にである。
スライムは体を震わせ、逃げようとするが侵食された酸に溶かされ、気付いた時には、スライムの体は微塵も残っていなかった。
あとには、ベトベトになった俺が地面にくたばっていたのだった。
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