第二話 走れっ俺!!
「スゥー、ハアー、スゥー、ハア」
全然余裕だ。デケエ猪は体力が切れてきているのか、さっきより呼吸が荒くなっている。
そして、走りながら気がついたことがある。
体の状態を確認したいと念じると、どうやら透視で、俺の体の中で何が起きているのか調べることができるみたいだ。
今の体で起きてるのは、走るための循環器系、つまり心臓や肺がフル稼働していることだと透視で分かる。これもスキルの効果なのだろうか?
かつて、こんなに走ることができただろうか? しかも、トップスピードを保ったまま。景色自体は森林で変わり映えはしないが、躍動する空間に体を意のままに操り、大地を駆け巡る楽しさを俺は素直に喜んでいた。
あっ、これって――、ランナーズハイってやつ?
ふ、まあ、知らねーが。感動モンだわー。後ろのでかい猪さえいなけりゃ、もっとこの感動をゆっくり噛み締めていたのにな。
「「フガ、フガ、ブヒー」」
て、うぉい、なんか増えているんだが!!
出会った猪を先頭に、群れをなして後ろをついてきている。
「走れ、もっと走るんだ、俺ええええ!!」
くっそ、息切れこそしないが、これだけの数に囲まれたらひとたまりもない。
だが、先頭の猪は呼吸が荒くなっており、俺にずっと追いつけず苛立っている様子だ。
後ろの様子を見る。追手はきているものの、違和感を感じる。
そうか、先頭の猪が必死だからこそ、後ろの群れもペースが乱れて引き離されているんだな。多分、俺を見つけたあの猪はこの群れのボスなんだろう。
なら、まだ安心か。
「はあー、元の世界から来ていきなり猪に追われるとか、マジでついてないだろ、俺の異世界転移。」
猪と追いかけっこをしながら、ぼやく。
「それに、どうせ異世界転移するんだったら、営業部長に中指立てて会社辞めたかったぜ、まったく。」
流石にスーツで走るのも疲れてきたし、革靴の底も摩耗してきている。
うーん……あ、ふと思ったが、
そうか、別に中指立てなくても、俺が異世界転移したら今月の採算が合わなくなって、営業部長が責任取るんじゃねえか。
「うっは! こりゃ、サイコーだ!」
営業部長の顔が、憤りと責任を取るためのしゅんとした顔になるのを想像し、テンションがぶち上がった。
そして、心と体がすこぶるやる気に満ち溢れた俺は、猪を一瞥し、
「じゃーな、馬鹿猪共!! 追いかけっこはもう終わりだ、アデュー!!!」
そう言って、足に更なる力を込めて前進すると、俺の期待に応えるかのように、体からエネルギーが湧くような感覚を覚えた。
うぉ、なんだこれ、アドレナリンとも違う。エネルギーで満ち溢れるこの感覚、すげえ、凄えぞこれ!
トップアスリートがゾーン状態に入るように、ランナーがランナーズハイになるように、それらとはまた違ったエネルギーの生産と効率化が、今まさに体の中で起きていた。
元の世界だったら今頃トップアスリートだな、こりゃ。まあ、こっち来たからにゃ、その分楽しませてもらうぜっ、と!
地面を蹴る。
土煙が舞い、俺は更に加速して走る。
「ぬおおおおおおおお!!!燃えてきたっ!!!!」
そんな俺をよそに、猪は涎を垂らして息切れしている。次第に距離が開いていき、猪共はキョトンとした顔になり、各々が「何だ、あいつ?」と顔を見合わせているのだった。
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