第一話 スポーツ心臓?
燦々たる白線が垣間見える。手で眩しさから逃れようと顔を隠し指の隙間から微かに目を開ける。
声が聞こえてきた。女性の声だ。
手を退かし見開くと、淡く光る白の空間が眼前に広がっている。誰しもが聞き入ってしまう声が響き渡る。
「母なる銀河系のうち太陽系、第三惑星地球、通称"ガイア"で定着した魂よ、目覚めなさい。あなたは、黒猫を死に物狂いで追いかけ、ようやく、自分の弱さから逃げず目的を達成することが出来ましたね。しかし、その後は生きることはできず、あなたは死んでしまった。それでいいのです、それがあなたの運命なのだから。あなたには、このガイアの陰の世界を救わねばならない使命があるのです。」
状況が全く読めないが、今、俺は選別された魂てことなんだってことを何となく理解することが出来た。声を上げようとしたが、体はなく意識として認知する事しか出来なかった。
女性の声は清らかで包み込まれるような柔らかい声が続いている。
「ガイアは、陽と陰が乱れています。つまり、表裏一体。表の世界で実現出来なかった、あなたの運命は、陰の世界で実力を発揮するのです。」
矢継ぎ早に話した言葉が切れる。そして、最後の別れを惜しむようなトーンで言葉は紡がれた。
「さあ、あなたは己の最後に向き合ったこのスキルを受け取るのです。あら?何かが紛れてあなたに宿ったみたいですね、まあ、いいでしょう、それも、あなたの運命ですから………」
あたりが、まるで煌々とし始め、白い空間は黒い帷に飲まれ急速に閉じていく。それと共に、俺の意識も沈んでいった。
◆
意識が戻り目を覚ますと、土埃の匂いと共に、体の節々が痛みを覚えた。痛みが何なのか体をまさぐりながら状況を確認していく。
「いてて、何だったんだ一体?」
というか、俺、死んだよな?黒猫を抱えて。
地面と激突した衝撃は脊髄神経が切断されたような強烈なものだったが、圧縮されたフレームレートは僅かだった為、痛みも記憶として薄れ、思い出そうにもその一瞬で憚られた。
わざわざ、その痛みを感じて何か得るものは正直な所無い。ただ辛いだけだ。変な事を考えるより常態を確認すべきだ。
体を動作させてストレッチする。視線を周囲に集中させると、そこには見たこともない景色が広がっていた。
まるで、西洋ヨーロッパのような大きな木々が鬱蒼と生い茂り、かと思えば見たこともない草花やらが植生している。何ともいえない一体感をこの世界は異様さと奇妙さとも言える調和を成していた。
ここは、異世界?てことは、ステータス見れるのか?
「ステータスオープン!」
反応はしない。本来ならば目の前に情報を羅列したウィンドウ画面みたいなのが出てくるはずなのだが表示されない。
体を凝視する。何か違和感があった。
自分の体が透けて見える。そして、何故か肺や心臓などの臓器が淡く光って見えた。スキルの様なものだろうか?
な、何だこれは。ただ、臓器が透けて光るだけだって言うのか、この能力は?
名も知らない異世界で両手を上げて涙目になりながら叫んだ。
「クッソがあああああ、外れスキル掴まされてんじゃねえかよ!なんか、いい感じのこと言ってたから、俺、めっちゃ期待したのにいいいぃイイ」
ガサガサッ
大声を出してしまったからか、何か物陰から大きな影が迫ってる気配を感じた。土と草を踏みしめる音が聞こえてくる。
茂みから現れたのは、ひときわ大きな猪のような魔物が俺を見ていた。鼻息は荒くこちらを見据えた眼はいつでも「殺してやる」と、ある種の気概の様なものが伝わってくる。
な、何だ、あの馬鹿でかい猪は!?
「ブッヒーーー!!!」
猪のような獣は、けたたましくなき、涎を垂らして俺へと突っ込んできた。
やばい、殺される!
俺は、体勢を整え走り出す。最大出力で地面を蹴り手を交互に振る。テンポよくリズミカルに軽快に。
「はぁ、はあ、はあ……ん?」
体が軽い心臓が痛くない。普段の俺ならすぐばてるのに、何か違和感があった。走りながら、心臓を見る。なんだあ?淡い光がうっすら明滅してるように見えた。振り返ると、いまだに猪は涎を撒き散らしながら俺を狙っていた。
「ブヒブひっ!!!」
牙で邪魔な枝葉を折りながら迫る、その様子は
恐怖でしかなかった。
猪の目には五行の後ろ姿を完全に捉えている。
木々が生い茂る空間でスーツ姿の会社員と巨大猪の追いかけっこをしている。側から見れば、面白い風に見えるが当の本人は本気なのだ。
「クッソおおおお、いきなりなんだってんだよおおおおお」
俺は走りながら叫ぶが、猪はお構いなし。猪の巨躯は後ろ足と前足が大地を踏み締める度に音が『どん』と鈍い音が聞こえる。躍動する肉塊、あんなのに突進されたら、車で轢かれるより凄惨な事故になる。
風を切るように体から俺の足は地面に伸びていた。
ダダダダッダダダーー
これまでの距離10キロメートルを全速力で走り回っていた。汗は噴出し熱くなった体温によって気化する。
体の循環構造は老廃物を促し細胞を活性化させていた。
かなりの距離を走ってるというのに疲れない。これってまさか、俺の脆弱だった心臓がスポーツ心臓ってやつになったてことなのだろうか。
鼓動がリズムを刻んでいた。
女神からの祝福
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◯スキル
《臓物》五臓六腑が強化される
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◯権能
【猫の目】
履行中の対象状態を観測することが出来る
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