第十九話 囚われの身は心も在らず獄中生活を送る
あ、どーも。知りもしない疑いを掛けられている、心は二十七歳、身体は十八歳高校生の元世界だと営業サラリーマン、異世界だと絶賛無職引きニート中の五行六腑です。
清々しいほど彼の心は、悟りを開いているようだった。
本日も大変お日柄も良く向かってくる爽やかな風がとても心地が良いものですね。まあ、私、外に出られないのですが……
あ、そうそう、最近住まいを変えたんですよ?
ここは日本の都会のマンションより快適です。住まいは大田区、築浅で賃貸ワンルームキッチン付きで家賃10万だったのですが、物価が高騰している昨今ではこれよりも上がってるのではないのでしょうか?え、何?東京23区を基準に持ってくるなって?
そんな言葉も聞こえてきそうですが、一旦無視します。
いやーしかし、今住んでる部屋はそんな住まいより、好立地、良物件。ここはそうそう無いのではないのでしょうか?
ええ、私もこの物件を丁度住まわせて貰っていますが、是非、お客様にも契約して欲しいくらいの良物件です。
家賃、光熱費、水道代、ぜんぶ掛かりません。敷金、礼金全部タダです。勿論、住民税なんてありませんよ?
あ、そうそう此処には様々な工夫が凝らされています。床には謎の獣の毛がパラパラと散りばめられていたり、たまにでてくる黒い小さなお友達もいます。それにびくともしない鉄格子や陽の光は入り込まない石壁で出来てます。勿論外とは隔離されており、セキュリティは万全です。ガタイの良さそうなボディーガードマンが2交替勤務でしっかり警備してくれてるので安全ですね。
なので借金の踏み倒しにくるような輩もいませんし、訳のわからない宗教を流布するようなオバサンもいません。
そして、なんとこのお宅、三食タダ飯付きなんです!朝、昼、晩にガタイが良い優しい村人の方が給仕にくれ悪態をつくサービスをしてくれます。
食事メニューはトレイのようなものに乗った、乾パンとスープだけではなく、何とソーセージも貰えるんです!勿論献立表は全部同じです!毎日三食同じ物を食べれて健康的ですね!
何とまあ、慈愛に満ちているのでしょう。
あ、そろそろ夕飯の時間のようですね。
部屋の木目がついた扉が開き、ガタイのいい男が臭そうな目で俺を見る。
村人はノシノシと檻の前まで歩いてきて、茶色い汚い手で残飯のような食事を給仕する。
ーーカチャン
トレイに乗った物を鉄格子前から手に取り食べる。
獣のように貪り、白いカビが生えたパンと赤みの色が強いソーセージを両手で取り齧りつく。左にパン、右手にソーセージを交互に食べ、トレイを持って濁ったスープを飲み干す。
クチャクチャッズズッ
餌付けされた獣のように食事を求めてしまう自分がいた。こんなに屈辱的なことをされているのに、目の前に得体の知れない恐怖があるのに、人間の根源的欲求は拭えなかった。
最初にここに来た日を思い出した。
◇
獄中生活一日目
「疲れた……」
その一言だけが狭い空間の中に響く。
こっちに来て、楽しくなってきたと思っていた矢先にこれだからだ。笑えるのは毎回、何処かわからない所に転生したり連れ去られたり投獄されたり……このまま俺は何処に行ってしまうのだろうか。
頭の中で、ある一人の人物のことだけを考えていた。
ニーシャのことをずっと考えていた。たまにくる看守?のような村人に何かを言われたりしても気にも留めなかった。
食事の給仕をされても全く反応を示さず、体育座りの体勢でボーッとしていた。
脳内に繰り返されるのは、ニーシャが笑った顔。言葉が通じてハイタッチした時の優しい微笑み。仲間と死別し瞳に映った涙。そして、最後のなんとも言えない悲しみのある顔だ。
あの時、
ニーシャに強い口調で罵ったことが自分にも跳ね返り、辛くなる。自嘲した分だけナイフで心臓を突き刺すような痛みが走る。
ニーシャの仲間のことも頭によぎり、関係性だとかそういうのを考えて気持ち悪くなる。
考えが巡り巡る。堂々巡りで答えなんて出るはずもないのに、同じことをずっと考えていた。
何でああなったのか、何故、今この場にいるのか理解ができない。
気付けば夜は過ぎ、次の食事の給仕がやってきた。
獄中生活ニ日目
まだ、ニーシャのことを考えていた。彼女のことを信じてもいいのだろうか?悲しんだということは……ナッパーと口論していたのはやっぱり何か俺のために言っていたのでは、と
庇ってくれていたのではないか。
そうあってほしい、そうに違いないと事実と妄想が混在していき妄執に変わっていく。
だけど、彼女が助けてくれなかったのはなんで?
この問いがあると、その妄執も瓦解し、この世界で感じた素晴らしかった出来事も、素晴らしいと信じていたのに、信じられなくなる。
ーープツン
心の中の何かが切れる音がした。
体育座りから、横に寝て両膝を抱えて、赤ん坊のような体勢へとかわる。
人間不信というやつだ。
精神的苦痛によって、もう、誰とも関わりたくないという恐怖、いや苦痛とも取れる、そんな病を患ってしまったのだ。誰かと関わることでの面倒さ、強いられてしまうという感覚が芽生えてしまったのだ。そして、自身の中で出来ることを制限して狭い範囲でしか行動が出来なくなっていたのだった。虚無でしか満たされないその病は余りにも地獄だった。
もう、何も考えたくない。
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