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謎の臓物スキルは俺に適正だった模様   作者: 未来が見えない
野外生活編

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第十六話 責任の所在など無いと運命が左右している物事に杞憂するのならばそれはまた下に嘆かわしき世の常

 諸行無常の響きあり、時は無常にも残酷で、あと一歩早ければ助けれたかも知れないのにという、人の業や欲望といったものを軽く無視する。どの世界に行っても嘆かわしい出来事は起こる。


 出会いや別れ、巡り合わせというものは幸せでもあり不幸でもある。それは人間が決めた感情の浮き沈みの事だから。


 どんな事情でも事象であっても、物事には原因があってその先に結果があり二つはセットになって必ずやってくる。因果律に抗うことなど出来ないのだ。タイムマシンで未来人がやって来たという事実がないのは、平行世界のもう一つの世界へと分岐しているから、或いはそんな過去に遡るといった因果を書き換える行為は、世界の崩壊を示唆するだろう。だからタイムマシンを観測する事など出来ないのだ。そしてそれが、この宇宙という原理原則に則った真理であるからだ。


 洞窟の一室でこだまする音が聞こえた。

 ピチャン、最初に聞いたつらら石から垂れた水滴の音じゃない。それはか細く切ない声だった。


 ニーシャは、まだ泣いている

 それほどまでに、大事な人だったのだろう。

 その場を見ている俺も断腸の思いであった。


 彼女が心痛のさなか、男の俺が彼女を抱きしめて「大丈夫だよ泣かないで」と優しく抱擁する気概もなければ、高校生くらいの身体に戻り、大人の風格を失った今の俺では、説得力がまるでなくて、彼女を苦しみから救い出すのは難しいだろうと思ってしまう。いや、大人だったとしても、同じ行動をとってはいる。どちらにせよ、役に立たない木偶の坊な訳だが……。


 はあ、男として情けねえよ。本当に。

 大事じゃない人でなくてもあの凄惨な姿を見たら誰だって心にくるものはある。それで空気になるようなら人間失格かもしれない。


 なーにが異世界交流だよ、馬鹿じゃねえのか。邪鬼とニーシャが争っていたのを余所目に奥の転移陣を踏んで逃げても良かったんだ。彼女を手助けして仲良くなれたことに舞い上がってた俺は、勝手に人様の事情に横入りして、勝手に胸を痛めて本当に図々しくて嫌気がさしてしまう。


 だけど、そんな心を持ち合わせてもいいだろ?

 人間なんだ。それが俺なんだ。困ってる人がいれば助けたい。営業時代に街で接客中に外国人が道案内してくれってせがまれて仕方なくスマホ片手に道案内したのも、俺がお人好しだからだ。


 当時を思い出す。


 その後、あの時接客していた客はどうなったか、俺が客を引き止めたのに、その営業マンが仕事を放り投げて何処かに行く訳だ。癇癪起こして罵詈雑言を浴びせられてもおかしくはない。急にきた外国人が困っていたからお人好しを発動してしまったわけだ。ある意味では目先の利益より、困った人を助けたともいえる。

 元の場所に帰った頃にはお客さんは居なくなっていた。そりゃそうさ、そういう運命だったんだ。


 ハッとする。こっちの世界にやってきた日のことを思い出す。あの女神は姿は見えていなかった。彼女は言った、元の世界で死んでこの世界にきたことがあなたの運命なのだからみたいなことを…。

 神だか何だかしらねえけど、人が必死に生きてそれで死んで、それに対してただ運命でしたって、そんな簡単に言われたら、腹が立ってもおかしくねえじゃん、でも腑に落ちる部分もある。辛い思いしてる時に、そういう運命だったんだよて言われたら、少しだけ楽になる自分がいる。どうしようもない事なんだって、生きること死ぬことに責任なんて感じる必要がないんだって。だが、俺がこの世界でやる事に対して運命の一言で終わらせようもんなら、神でもビンタをお見舞いしてやるぞ。

 それに神のくせに世界の命運を一人に託すって相当ダメだな、あの女神。駄女神だ。


 何処からか、コォーと吹き抜ける風が強まったような気がした。気のせいだろうか。


 気付けば、ニーシャは流した涙を拭っていた。

 決別出来たのであろうか?

 何とか、傷心した彼女が一歩前進しようと顔を上げた。どうやら、彼女は相当に心が強い持ち主のようだ。


 彼女は地面に転がった刃物を拾い、女性の残骸に刃物を向けた。そして、ブロンドの髪や衣服を切りとりポッケに収納していく。衣服は何やら少し大きめに切り取られていた。恐らく遺品として持ち帰るためであろう。


 そして、彼女は女性の残骸を地面に横たわらせて、立ち上がった。右手を前に腕を突きだして口を開く。

「ᛏᛖᚾᚥᛟᚢᚵᚪᛏᛁᛞᚪᛁᛏᛁᚾᛁᚺᛟᚢᛄᛟᚢᚥᛟᚪᛏᚪᛖᛋᛁᛏᛟᚴᛁ, ᛋᛖᛁᛗᛖᛁᛏᛟᚺᛟᛋᛁᚾᛟᚴᚪᚵᚪᚤᚪᚴᛁᚵᚪᚢᚾᛗᛖᛁᚾᛟᚥᚪᛏᛟᛋᛁᛏᛖᛗᚪᚥᚪᚱᛁᚺᚪᛣᛁᛗᛖᚱᚢ. ᚪᚪ, ᛋᚢᛒᛖᛏᛖᚥᛟᛏᛟᚢᛏᛁᛋᚢᚱᚢᚴᚪᛗᛁᚤᛟ, ᚥᚪᚱᛖᚾᛁᚺᛟᚾᛟᛟᚾᛟᛏᛁᚴᚪᚱᚪᚥᛟᚪᛏᚪᛖᛋᛁᛏᚪᛗᚪᛖ"ᚴᛟᚴᛟᚱᛟᛒᛁ"」


 それは、魔法を起こすための口上文なのだろうか聞き心地よい詠唱がつらつらと紡がれていた。

 突きだした手のひらにボウッと炎が生まれた。そして、聖火台にゆっくりと火を灯すように横たわった女性の残骸に火をつけた。

 パチパチッと燃え上がる炎。


 そうか、こんな所に骨を埋めさせたくないよな。心中を察した。彼女の一つ一つの所作に目を奪われていた。


 そして、暫く時間が経った。


 ◇


 此処は餓鬼の洞窟、人ならざる者が蔓延る魔の洞窟。そこは盗まれたものや三途の川を渡った者ばかり。


 その洞窟の一室では轟々と炎が揺らめいていた。俺はニーシャの側まで歩いて隣に立つ。無言で火葬されている女性だったものをみた。


 パチパチッと有機物が炭化し弾ける。炎の焔の中に俺とニーシャは感じることがあった。 

 まるで、星々が輝く夜空の中で、黄金の髪を靡かせた彼女がこちらを見て微笑んでいる気がしたのだ。いや、微笑んでいたのだ。彼女の思いだろうか、優しい光が辺りにポゥっと弾ける。狭い室内で揺らめく炎と小さな光はまるで、魂が焚き火台で踊っているように思えた。


 ニーシャは彼女の名前を呼ぶと、光っている魂が両手のひらに舞い降りてくる。魂を優しく掬い、天へとそっと見送ったのだ。


 俺は隣にいる彼女の表情を窺った。彼女の瞳は涙が溢れ輝いていた。それを見て俺も目柱が熱くなり頬に涙が伝っていた。そして、俺は立ち上る炎の方へ顔を戻した。


「……………ありがとう……」


 そう呟かれた気がした。

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