ミッションでの悲劇
「も~、気にしてないって~。」
宿屋で土下座し、神無月さんに止められても辞めず、結果神無月さんに担がれて、ダンジョンまでワープして、今に至る。
「本当に申し訳ないです……てっきり、キスしてって簡単に言うから、もうとっくに経験済みかと…」
「高校一年生でキスしたことある人なんてそうそういないって。ふみふみもないでしょ?」
「…………」
「……マジ?…脳破壊だーー!!!!」
「ち、違います!妹です!妹!悪ふざけみたいなもんですよ!」
「な~んだ。よかった。」
何がどうよかったのかはよくわからないけど…でも、私が神無月さんのファーストキスを奪ったことに変わりはない…
「本当にごめんなさい…これは、あくまでノーカンということで…友達なので。無かったことにしましょう!」
「ん~…それはなんか悲しいな~。別にいいよ。私のファーストキスはふみふみで。」
「………」
完全に神無月さんの歴史でトップレベルの汚点だ……私なんかが、ファーストキス…
ダメだ。考えれば考えるほど申し訳なくなる…
「も~、落ち込んでないで。いくよ!」
「はい……」
§
「うーん…楽勝すぎる…」
今の所、少しレベルが高い敵が来ても、神無月さんの投擲でだいたいは終わっている。
神無月さんの体力温存のために、私も積極的に撃っているが、だいたいは神無月さんの短剣投げによる撃破だ。
「ダンジョンボスって、強いの?」
「うーん……一応、ランダムかつ、情報無しだから、強いと思う…。」
「じゃあ残り30分くらいまでは雑魚狩りでレベル上げでもしてるか~。」
ほとんど作業だが、それでも油断してはいけない。……のは分かっているが、私の気配探知があれば不意打ちは不可能だし。万が一不意打ちされても神無月さんが倒してくれるだろうし、油断するなとは言われても、油断してしまうくらい私たちはチートだ。
「…あれ?ワンパンじゃなくなった。」
「ボス部屋に近づくにつれ、敵も強くなるみたい。」
それは、本にも書かれていなかったことだ。
ダンジョンに関しては、本にも書かれていないことがたくさんある。
「うわッ!!痛ッ!!」
「神無月さん!?だ、大丈夫?」
「うん。痛いだけー。」
急に、壁から矢が降って来た。その矢が、神無月さんの手に刺さる。……現実だったら痛いじゃ済まないな…
こんな風に、ダンジョンは分からないことだらけだ。
マジで、めっちゃ危険。最後にふさわしい場所だ。
「残り一時間切った?」
「うん。」
「じゃあ痛覚無効飲んじゃおうよ!」
「確かに。」
このポーションは、一時間の制限時間付きだ。
残り時間は一時間を切ってるし、ちょうどいい。
「ちょっと甘い!子供のころに飲む薬みたい!」
「何味なんだろう…これ…」
砂糖味というかなんというか……神無月さんの言う通り、確かに子供のころこういう薬のんだ気がする。
「あ、あれ、ボス部屋?」
「……っぽいね。」
ボス部屋だと思った理由は、至ってシンプル。明らかに異質な、巨大扉に、石像が二つ置いてあるからだ。
流石にボス部屋でしょ、これ。
「どうやって開けるの?これ」
「うーん……本には書いてない……ちょっと、分析使ってみるね。」
ドアを見るが……やっぱり、無機物には反応しない。
「分からないみたい。とりあえず、二人で押してみる?」
「やっているか~。」
私が左に、神無月さんが右に。
「じゃあいくよ~。せーのッ!」
「!?敵対反応!二つ!神無月さんの横と、私の横……って、この石像!?」
「おっけー!任せろ!」
神無月さんは、すぐさま私を持ち上げ、遠くへ運ぶ。
「ありがとう神無月さん。」
「チームは助け合いだよ!ふみふみ、敵の情報見れる?」
「…見れる!」
恐らく、さっきまでは本当に像という判定だったのだろう。そして、扉を開こうとしたら動くギミック。
私の分析は、敵にしか使えない。さっき試したが、罠に対しては使えなかった。つまり、この石像は、罠扱いだったのだろう。
「えーっと、二人とも飛べて、今も追いかけてきてる。攻撃力は他+高くて、何より防御力?がヤバいみたい。石みたいだけど、それとは比べ物にならない硬さ。とりあえず、避けるのは簡単だと思う。」
「おっけー!とりま避けて時間稼いどくね!」
「私を抱っこしたままで大丈夫?」
「スピード感は全く変わってないから大丈夫!」
そういうことなら、隅々まで調べつくそう。……なんか、神無月さんに抱っこされるの慣れちゃったけど、冷静に考えて結構絵面ヤバいよね…
…いや、そんなこと考えてる場合じゃない。とにかく、お荷物にならないように頑張らないと。
「敵の攻撃は基本的に突進などの近接のみ。えー、羽を壊せば飛べなくなるが、地上でも普通に動ける。コアは私たちと同じ心臓の位置。」
それといっていい情報が出てこない……
ちょくちょく攻撃しているが、全くダメージが通っていない。私の矢に関しては、弾かれたし…。
……ん?なんだこの表記…ウィークポイント?…つまり、弱点?
なにこれ。さっきまでなかったのに。
スキル説明欄にも……ん?…新しい文が追加されてる…
一定時間同じ敵に分析を使うと、ウィークポイントが表示出来るようになる。そしたら、ウィークポイント!と声に出すと、弱点を知ることが出来る。そして、弓を弾く動作を維持すると、ウィークポイントに対して自動追尾機能が使えるようになる。
なるほど……つまり、スキルには拡張性があるのか。全てのスキルにあるのかは知らないけど。
とりあえず、そんなことよりも今は目の前の戦闘に集中だ。
「ウィークポイント!」
出た!この敵の弱点は、背中。正確には、両方の翼が生えているその真ん中。
「神無月さん!敵の弱点は翼の生え際、その真ん中です!」
「おっけー!ナイスふみふみ!!」
「まずは私が攻撃します!」
えーっと、弓を引いて――あ、これか。目の前に、ゲージが見える。これが溜まったら離していいのか。
そして、弱点への自動追尾機能付きの矢は、グイッと曲がり、片方の敵の背中に当たる。すると、弾かれることもなく、その場所にヒビが出来ている。
「神無月さん、私の弓で何とかなりそうなので、神無月さんは引き続き敵の攻撃を避けていてください!」
「まかせて~!体力はまだまだあるぜ!」
もう一度、弓を構え、ゲージを溜める。
……絶対思っちゃダメなことなんだけど…これ、馬の上に乗って弓を引く、いわゆる流鏑馬みたいじゃない…?
いや、神無月さんは馬なんかよりも乗り心地もよくて、そんな、もう、比べるものですらないけどね!?うん。
「おお!石が崩れた!」
石が完全に割れ、中身が露わになる。…こう見ると、なんか、見た目が、まんま悪魔みたいだ。
翼がなくなり、地上を走って攻撃してくる。が、地上は完全に神無月さんのテリトリーだ。そのまま、ワンパンで沈められる。
「よし!ラスト一匹ー!」
同じように、弱点に矢を撃ち付け、石が崩れ落ちたら神無月さんが倒す。
「手強かった…」
「一発も喰らってないけどね!」
「本当に神無月さんのおかげだよ…。」
神無月さんがいなかったら、扉を開けようとして、石像が襲ってきて終了だ。
チーム組んでてよかった…
「体力は大丈夫?」
「もちろん!」
「じゃあ、行こうか、ボス。」
「遂に来た!行くぞーー!!」
ここまで、苦戦という苦戦をしてこなかった。
ここまで、大きなけがをしてこなかった。
だから、夏子も、神無月も、心のどこかで「どうせ勝てる」と思っていたのだろう。特に夏子文月。
そういう時に、悲劇は起こる。
§
「あれが…ボス?」
「スライムじゃん。よわそー。」
ボス部屋に入ったら、目の前には丸い球体。青色の、ぷにぷにしてそうな球体。
目とか口とか、そういうのは付いていないからどこを見ているのか分からない。そもそも、あれが敵なのか、ほんとにボスなのかもわからない。
急に地面からドン!ってくるかもだし。
「とりあえず…ふみふみ、分析は、どう?」
「最初期の敵みたいに弱い……とりあえず、弓やるね?」
ホイッとやってポンッ。コツを掴めば、弓は約二秒で放てるようになる。…仮想空間限定だけど。
そのまま矢は敵の方に向かっていき…当たる瞬間――――
「あ、変形した。」
「分析でも情報が変化しました!えー、防御性能に極振りしたような姿です!」
「よし、とりあえず、私がいつも通りふみふみ抱っこするから、ふみふみは遠距離で弓やっといて?とりあえず観察しよう。」
「はい!」
神無月さん、ルールを全く知らない所から、すぐにこの世界に順応して、いまや指示役だ。ポテンシャルが凄い…
「!刃みたいな形になった!」
「あれは…攻撃形態?…ッ!スピードの値が神無月さんと同じ!!神無月さん、全力で避けて下さ―――」
「ッ!!」
私が言葉を言い切る前に、敵が突進してきた。そして、その瞬間、神無月さんの左手が消えた。……攻撃を喰らったんだ。あの神無月さんが。
この短時間での分析結果、分かったことがある。
今の敵は、また最初の段階に戻っているが、あの状態に対して攻撃すると、無敵ガード形態になり、そこから攻撃形態になる。つまり、この状態で何もしなければ、敵から攻撃をしてくることはない。
「痛ッくはないけど痛い!!怖い!!」
「と、とりあえず、ポーションを!!」
「ふ~……これ、腕も生えるんだ。」
「この世界のポーションは全回復なので。」
それにしても…なんで、喰らったんだ?
神無月さんと同じスピード値なら、あの距離だし、ギリギリ避けれるはずなのに……
……もしかして………いや、それしか有り得ない。
「…神無月さん、私を降ろしてください。」
「え、なんで?重くないよ?」
確かに重さは全く感じないかもしれないけど……今の神無月さんのスピード値は、敵よりも少ない。
それはきっと、私を持っているからだ。
私が記憶していたのは、私を抱っこしていないときの神無月さんのスピードの値。
今の値は―――
「……やっぱり、減ってる。」
「何が?」
「神無月さんの、スピードの値です。」
「……本当?」
「はい。恐らく、私を抱っこしていなければ神無月さんは敵の攻撃をギリギリで避けれます。」
「そうだったんだ……」
持っても重くないとはいえ、走るときのフォームとか、走りづらさとか、よくよく考えればそりゃあ遅くなる。…それが関係あるのかは知らないけど。
「あの状態では、敵からは何もしてきません。私たちが攻撃すると、ガード形態になり、少し経ってからさっきの攻撃形態になる。攻撃形態では、一番近くの人へ向かって攻撃してきます。」
「うーん…つまり、攻撃形態中にダメージを与えないといけないのか…でも、私、攻撃避けたあとに反撃入れられるかなぁ…避けるの、ギリギリなんでしょ?」
「そうですね。そして、攻撃前の溜め段階は、無敵判定です。」
「つまり、避けた後にふみふみが攻撃すればいいのか!」
「…とりあえず、1回やってみましょう。」
ということで、私が遠距離から攻撃し、神無月さんが私よりもちょっと横の、前に出る。
「それじゃあ行きますよ!」
スライムに向かって、矢を放つ。そして、スライムはガード形態になり、少し経ち、攻撃形態になる。
「よし!こい!今度は避けるぞ!」
敵が突進した瞬間、弓を引いた。が、突進中に当たり、弾かれてしまった。
的は、突進中も無敵判定だ。
「よし!避けたぜ!弓はどうだった?」
「弾かれた…」
「マジかー…」
ボスの弱点を見たいんだけど…形態ごとに情報が違うせいで、まだ一定時間、に到達できていない。
「神無月さん、体力的に、まだ避けれそう?」
「うん!少なくとも、5回はいけるね。」
「それじゃあ、私はその間にウィークポイントを探すね。」
ということで、ウィークポイントが出るまでトライアンドエラーすること約3回、遂に弱点が判明した。
「次は、弱点を麻痺で攻撃するので、避けたあと、麻痺していたら、全力で攻撃してください。」
「おっけい!」
「それじゃあ、行きますよ!」
いつも通りの手順で敵を攻撃形態にし、攻撃形態になった瞬間に弓を引く。突進前の溜める時間のおかげでゲージはMAXになった。
そして、神無月さんが避けきった瞬間に、弓を引く。
「当たりました!敵は麻痺状態です!」
「もらったァァァ!!おらぁ!!」
神無月さんの攻撃が、敵にクリーンヒットする。
そして、その瞬間、神無月さんが吹き飛ばされた。
なんだあの形は!?………四つ目の形態!?
瀕死時になる形態。
周りの敵を吹っ飛ばし、麻痺を付与。そして、一定時間後に再度攻撃形態になる。
神無月さんは遠くへ吹き飛ばされている。しかも、麻痺で体が動かせない…つまり、ポーションも、飲めない。
この場合、次の攻撃は私だ。
……ただ、複数回敵の攻撃を見て…そして、さっきの攻撃で、気づいたことがある。
恐らく、アレに、知能はない。ホーミング機能も、ない。そして、狙っているところは、恐らく……いや、ほぼ100%左端、だ。
最初の攻撃の時点で、違和感はあったが、何度も見て、そして、最後の攻撃で、確信に変わった。
「……攻撃形態になるの早いよ。」
敵が、攻撃形態になった。
……刃の大きさ的に、左手を思いっきり広げれば、私の上半身の左半分を失うだけで済むだろう…。
足で弓を持って、手で引く。……よし、ゲージも溜まりだした。それじゃあ―――
半分は捨てよう
「ふみふみ!危ない!」
神無月さんが超スピードで私の方へ向かってくる。だが、それよりも敵の突進スピードの方が速い。
案の定、あの攻撃は、左を中心として捉えていた。恐らく、このボスはそれに気づけるかどうかが大切だったのだろう。
…私の左側にはもう何もないが、ポーションを飲めば、どうせ治る。その前に――
ゲージはもう、溜まっている。
「…ッ!当たった!!」
攻撃形態では弱点が丸出しのボス。その弱点に、麻痺矢を当てた。
「いまだ!神無月さん!麻痺で痺れてるうちに、弱点を!!」
「だいじょ……ッ!ナイスふみふみ!!うおおおぉぉぉ!!ふみふみとの友情コンボだー!!…ッ!クリティカル!!」
神無月さんのトゲトゲグローブパンチが、ボスの弱点にクリーンヒットする。しかもクリティカル。
これは―――私たちの勝ちだ。
「いえい!オーバーキルだぜ!」
私に向かってピースする神無月さん。
良かった。勝てたんだ…。
とりあえず、ポーション……痛みが感じないとはいえ、左側がむごいことになってるよ……
神無月さんの左手の時も思ったけどさ、血が出ないとはいえ、手がリアルすぎるから、結局グロいのよ。
痛覚無効って言われても、痛み感じるよ。……感じないけど。
ポーションを飲み、回復――――した瞬間、神無月さんが私の目の前にいた。
流石超スピード―――と感心したときには、もう持ち上げられていた。
「え、なッ」
「ふみふみは生きて!!」
言葉を発する間もなく、私は神無月さんにより投げられていた。
そして、次の瞬間、大爆発が起こった。
ボス部屋の扉を超え、その先の、石像の敵と戦ったところまで飛ばされ、思いっきり壁にぶつかる。…が、痛くない。
恐らく、神無月さんの攻撃、という判定を受けたのだろう。仲間からの攻撃は、ダメージ判定が無いから。
何が起きた?なんで爆発?いや、それよりも先に―――
「神無月さん!神無月さん!!どこですか!!!」
爆発により、さっきのステージの姿は跡形もなくなっている。
爆発で見渡しがよくなったはずなのに……何故か、人影が、見えない。
レベルアップしました。レベルアップしました。
「神無月さん!い、生きてるなら、ポーションを!」
レベルアップしました。レベルアップしました。
だ、大丈夫。爆風で飛ばされて、気絶してるだけだ、きっと。だから声も出せない。壁際を歩いていれば、いずれ見つかるはず……
レベルアップしました。レベルアップしました。
「……」
レベルアップしました。レベルアップしました。
………止まってくれ、レベルアップ。
レベルアップしました。
おかしい。こんなにレベルが上がるはずがない。
レベルアップしました。
私たちは二人パーティーだ。経験値は、二人で分けられるはずなんだ。
レベルアップしました。
「……神無月さんが…死んだ…?」
私を、助けたせいで?
私のせいで、死んだ?
レベルがアップしました。
レベルが30&40に到達しました。新しく獲得したスキルは、スキル、は……
AIが管理しているはずの、スキル発表が途中で止まった?……いや、今はそんなことどうでも良い。
分かってる、ここは仮想空間。恐らく、今は観戦者視点になって私を見ている。
心配させちゃダメだ。せめて、今だけでも、元気な素振りを……とりあえず、宿屋に戻ろう。ダンジョンクリアしたら、一度行ったことのある場所ならどこにでもワープできるはずだし…。
「…ワープポイント、宿屋。」
そして私は、残りの数分を寝て過ごした。




