嵐の前の静けさ
「…一部屋だと、ベッド一つしかないし、狭いけど…本当に良かったの?」
「もっちろ~ん。逆に何がダメなの?ダメな要素なんて、一つもないじゃ~ん?」
「いやその、一人じゃないと疲れが取れない…的な?」
「……もしかして、私と同室は嫌?」
「そ、そんなことは微塵も思っていません!神無月さんと同じ空間で休めるなら、むしろ最高です!!」
「でしょー?じゃあ問題ないね!」
まぁ、神無月さんが良いならいいんだけどね…?普通に、休息したいなら、一人がいいかなー?って思って。戦闘中は、超スピードを維持するためにずっと走りっぱだったから、疲れてるのは私じゃなくて神無月さんだし。
「お~!なんか、それっぽい部屋!めっちゃ木材!」
「シャワーもトイレも付いてるんだ…」
でも、仮想空間だからシャワーって意味なくない…?トイレも……トイレって、どうするんだ…?
えーっと、本によると、行きたくなったらステータス画面のトイレボタンを押して、トイレ専用空間にワープさせられるらしい。
トイレ専用空間って意味わからないけど、説明を読む限りでは、押したら現実の体の方も同じように動くらしい。そして、現実と全く同じ地形の、姿だけ違う場所にワープし、服装も制服に戻る。そこでトイレをすると、現実でも同じようにしているらしい。
だから、尿意だけは現実と全く同じ感覚らしい。
なんか、ミスりそうで怖い。…でも、ダンジョン行く前にはトイレ行っとくべきだよねぇ…
「じゃあ、寝よっかな。ふみふみも、一緒に寝よ?」
「え、いや、私は――」
「二人くらいは入れる大きさだよ?それに、私は小さいし細いから、よゆーだよ。」
「だ、大丈夫だよ。私は、あんま疲れてないから…」
「疲れは本人の気づかないところで溜まってるんだよ!ほら!入って!」
神無月さんの力とスピードで、為す術もなく、ベッドに入れられる。
「ふみふみにぎゅー!」
「ち、力加減気を付けてね?」
「大丈夫だよー。仲間には、攻撃できないようになってるんだから。」
「攻撃判定じゃなかったらどうなるんだろうね…」
そういう検証は、してみたい気持ちもある。知的好奇心がくすぐられる。が……流石に、リスクを背負ってまでやることじゃない。
「前々から思ってたんだけど、ふみふみって抱きがいのある体してるよね。」
「…どういう意味?」
よくミナにも言われるけど……いまだによくわかっていない。
「ふみふみ、おっぱいでかいよね…」
「えっ、きゅ、急にどうしたの?」
「いや、うらやましいなーって。」
「胸なんて大きくて良いことないよ…」
重いし肩凝るし視線が集まるし(特に異性の)、重いし、肩凝るし。何より、重いし。
歩いてるだけで疲れる。座ってても疲れる。筋トレでもしてんのか?って話だよ。
「それはおっぱいが大きい人にのみ許された特権だよ?」
「私は、本当に、神無月さんみたいな胸が良いんだよ…」
「ねぇ、バカにしてるでしょ?ナチュラルに。煽ってるでしょ?」
「えっ!?そんなことないよ!全部本音です!」
「おらー!生意気言ってるのはこのおっぱいかー!」
そう言い、私の胸を揉みしだく神無月さん。
「ちょっ、待ッ、や、やめっ…」
え、友達ってこんなことするの?こんな距離近いの?
少なくとも、私とむっちゃんは手を繋いだことすらないよ?抱きしめるとかならまだしも、胸揉むの?友達って。
「……なんか、ふみふみのおっぱい落ち着く…」
「私の胸にそんなスキルはありません。」
「おやすみぃ……」
「せめて胸から手をどかしてから寝てくださいよ……」
寝てもなお手は胸にある。……というか、寝るの早すぎじゃない?狸寝入りでしょ、これ。
「神無月さん?」
「……」
「……え、本当に寝てる?」
神無月さん側を向いて、神無月さんの顔を見るが……本当に、寝てる…気がする。
スース―言ってるし、呼吸も一定。本当に、寝てるのか………いや、早っ!寝るの早くない?
まぁ、それだけ、本当に疲れていたのだろう。…仮想空間なのに、肉体的な疲れを感じるって何?やっぱり怖い…
それにしても、かわいらしい寝顔だ。こう見ると、元気要素が消えて、小中学生くらいに見える。……なんか、妹みたいだ。
……私はあんまり疲れてないし、残りのお金使ってポーションでも買ってこようかな。
§
「……本当に、すごい街……ポーション以外にも、色々あるし…こういうの、ちょっとテンション上がる。」
ポーション屋以外にも、巻物とか罠とかなんか色々ある。拡張性が凄いな…
まぁ、私にうまく使える頭もないし、何より慣れない戦い方はしない方が良い。ので、結局買うのはポーションだ。
「いらっしゃい。錬金術師専用ポーションもあるよ…」
「ポーション買いたいです。」
「好きなの選びな…」
HP回復ポーション、攻撃力、防御力アップ、聴覚アップ、痛覚無効……まぁ、色々ある。
とりあえず、回復ポーションはあるし、痛覚無効でいいかな。これさえあれば、私の場合、腕一本捨てても片方の手と足で撃てるし。神無月さんも、足とか腕とかもげても、HPがある限り生きてけるし、ポーションで欠損部位を治すこともできる。
この世界、明らかに死ぬように出来ていない。スキルもチートだし、アイテムもチート。
「痛覚無効ポーションを2つ、お願いします。」
「はいよ。」
これで、残りは神無月さんのお金のみだ。
やることもないし……宿屋に戻るか。
……ん?…あれは…クラスメイトの……亜沙子さん…?
と、とりあえず隠れよう。殺されるかもしれないし。……あ、こういう時こそ分析だ!
「……レベル22、職業は剣士、スキルは千剣と第六感の強化?…ッ!」
い、今、目が合った…?
第六感の強化ってそういう…?
って、近づいてくる!?ど、どどどどどどどどどうしよう!?
「あの…」
「は、はいっ!」
「もしかして……夏子さん、ですか…?」
「は、はい…そうです…」
だ、大丈夫そう…?初手から切り刻んでくることはなかっし…さん付けしてくれてるし、殺されるようなことはないよね…?
本当に良かった……
「やっぱり!あ、もしかして、リリームーンの皆様とチームを組んでたりします…?」
「リリームーン?」
「はい!夏子さん、十六夜さん、神無月さん、玲美さん、如月さん、神無月さんの6人のグループを、私たちはリリームーンと呼んでます。神無月さんと小望さんから許可をいただいて………もしかして、神無月さんと小望さんから聞いていないのですか…?」
「うん…初耳。……あ、今は、神無月さんとチーム組んでます。二人三組で分かれることにして、ぐーちょきぱーで決まりました。」
「あ、そうでしたか!では、お互い頑張りましょう!神無月さんにもよろしく伝えておいてください!あ、あと、私には敬語必要ないですよ!では!」
手を振りながら、元気に去っていく亜沙子さん。……リリームーン?リリーって、百合の花のことかな…?
いや、まぁ、いいや。よかった。亜沙子さんが優しい人で。
「ただいまー……あれ、神無月さん?」
声がしない……って、まだ寝てる…本当に、疲れてたんだな……
そりゃあ、ずっと走り回ってたんだもんね。環境の変化での疲れもあるだろうし、あと、今日寝不足って言ってたし。
でも、終了まで残り1時間30分。神無月さんには申し訳ないけど、起こさないと。
「神無月さん、」
「……」
「神無月さん、起きてください。ダンジョン、行きますよ?」
「んー……無理…」
「ダメですって…ほら、起きてください!」
「うーん……あ、ふみふみ…」
めっちゃ蕩けた顔をしている。
神無月さんは、朝が弱いタイプかぁ。
「神無月さん、そろそろ出発の準備しないと、ダンジョン攻略する時間なくなっちゃいますよ!」
「えーーーーー……じゃあ~、ちゅーしてよ。ちゅーーーー。そしたら起きるからぁ!」
……妹のミナ然り、みんな当たり前のようにキスを要求するのはなんなんだ…?
普通なの?やっぱり。友達同士のキスって、意外と普通なの?さっきは簡単に胸も揉んできたし、やっぱり普通なんだろうな…
「…分かったから。その代わり、ちゃんと起きてくださいよ?」
「うーん…本当にちゅー出来るなら、ちゃんと起きるよぉ…」
「……」
やっぱり、キスって安らぎ、癒しになるのかなぁ…
まぁとりあえず、するか。うん。ここは、勇気を振り絞って。
何も、初めてじゃないし。ミナに散々されてるし、もう慣れっこだ。……ミナは妹で、神無月さんは友達だけど。
「…ほっぺでいいですか?」
「…え、本当にやってくれるの?」
「神無月さんが言ったんじゃないですか!」
「あははー!じゃあ、ほっぺはダメでーす!ちゅーなんだから、まうすとぅーまうすでしょ!」
声は元気なのに、目はずっと瞑ったまま。…本当にこのまま寝るつもりなのか…
しょうがない。やるしかないな。
かわいらしい寝顔の神無月さんを、上から見下ろす。……地味に、上からキスするのは初めてだ…。まぁ、ミナと違って、さっすがに舌を入れる必要はないだろう。
ちょんっと。ちょこっと当てるだけの、フレンチなキスで良いだろう。
そして、私は覚悟を決め、神無月さんの唇に、触れる。
5秒くらいにしようかな?と思ったら、一秒もしないで唇が離れた。というより、私の顔を神無月さんが両手で押した。
「え、え、え?え、今の、マシュマロ?」
「……何がですか?」
「え、イタズラ?マシュマロ、この世界にあるの?」
「イタズラしてないですけど…」
「え、じゃあ、本当に私にち、ちゅー、したの…?」
「?はい。神無月さんに言われた通り…」
「ええぇぇぇぇえーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!??」
声デカッ!!耳がキー―――ンってなった。本当に。ここが仮想空間じゃなかったら、超迷惑客だよ。
…それにしても、なんで、何に驚いてるんだ?神無月さん。
「そんな簡単にキスする!?」
「え、神無月さんがしろって…」
「じょーくだよ!ジョーク!」
「え…」
ジョークとガチの判断、分からない…。
ジョークなら冗談だよ~。って言ってくれないと!
「……私、初めてちゅーした人と結婚するって決めてるんだ…。」
「え!?!?!?!?!?ご、ごめんなさい!!え、本当に!?」
「嘘だよ~ん!せめてもの仕返しだー!」
「び、びっくりした…」
危うく、土下座千連発するところだった…。
「まぁでも、《《初めて》》なのは本当だけどネ」
私は土下座した。




