楽しいミッション
神無月さんが何も気にせずに門を通ろうとしたところを、門番さんが槍で門を閉ざす。
神無月さんは、槍の目の前ギリギリで、止まる。…………心臓止まるかと思った…。
「え、私?というか…私のスピードについてこれるの?」
「当たり前だ。私は、騎士団の中でも上位の仕事、門番だぞ?」
「マジか…すげー!」
私たちは、レベル1だ。職業スキルも一つしかない、雑魚だ。レベル1にしては強い方だが、それでも、雑魚は雑魚。
そりゃあ、騎士団の方が強いに決まってる。
「嬢ちゃんたち、この街に入りたいのならば、通行書、商人証明書、等級カード、いずれかを提示してもらう必要がある。」
「……ふみふみ、こういう場合はどうするの?」
「それはフリーボックスに入ってるんだけど…その前に、降ろして…」
「あ、ごめんごめん。軽すぎて忘れてたよ~。」
フリーボックス…それは、私たちに与えられた、無限に入る鞄のようなものだ。ステータス画面を開き、フリーボックスという文字をタップすると、自分orパーティーメンバーにしか見えない空間が目の前に出てきて、自由に取り出すことが出来る。他人からは見えず、干渉できないようになっている。
「神無月さん、ステータス画面を開いて、ここにあるフリーボックス、っていうのを触ると、このように、目の前に出てくるので…」
「おー!すごっ!えーっと、等級カードだっけ?はい!これでいーよね?門番のお兄さん。」
「わ、私もあります…これでいいですか…?」
「等級カード……よし。通っていいぞ。」
「ありがとー!」
いけると分かっていても、ちょっと怖かった……こういうのって、謎のドキドキ感あるよね…
門をくぐると、そこには、ザ・異世界の街並みが広がっていた。左右に見慣れない店や、家があり、人もたくさんいる。
「すっご!え、すげー!この学園入ってよかった!」
「今!?」
まぁでも、そこまで興奮する気持ちも、正直分かる。ゲーム、異世界漫画の世界に来たようなものだ。VRゲームとは違って、自分自身が動いてるから、尚更。
武器屋を探して街を歩き回る。途中、巻物、罠、宝具、ポーション、宿屋など、色々と異世界ならではのものがあった。
「お!ふみふみ!ここは!」
「みて分かる通り、武器屋だね。」
「おー!武器いっぱい!短剣いっぱい買えるじゃん!」
私は、アーチャーを選んだ時点での初期装備として、弓と矢10本がある。矢は、敵に当たった後も、回収すれば無限に使える。弓も、耐久度はあれど、一日で壊れるようなことはない。
「あれ?ふみふみ、これ、取れないんだけど?」
「あ、実際に武器を買うときは、店主さんに話しかけると、目の前にホログラムでたくさんの武器情報が出てくるから。それを口頭で伝えたら勝手にお金が消えて、勝手にフリーボックスの中に買ったものがある、みたいな感じになるらしい。」
流石に全部覚えているわけではないので、覚えていないところは本を読んで補う。
「おっちゃ~ん!武器が買いたいです!」
「はいよ。何が欲しい?」
「お~!すげー種類!」
神無月さんが武器を選んでいる隙に、私も決めないと。
弓は、大丈夫。矢は……ちょっと補給しようかな。近接武器は……神無月さん任せで大丈夫かな。うん。そういうのがマルチのメリットだし。
エンチャント?とか、効き目とかすごく細かく書いてあってよくわかんなかったから、便利そうな「麻痺矢」と、あとは普通の矢を20本買って終わりかな。
「まいど。またな嬢ちゃん。」
「またね~」
「神無月さんは、何を買ったの?」
「私はね~、普通の短剣を五つと、このメリケンサックみたいなグローブ!」
「……すごくトゲトゲしたグローブだね」
まさかの武闘派。てっきり、麻痺&毒付きの短剣とか、そういうのを選ぶのかと思っていた。
「よし!それじゃー今度こそ、行くぞー!さっそく戦いだー!」
「まずは、魔の森で弱い敵を確実に倒して───って、そっちは敵が強いエリアだよー!」
「あ、狼だ!早速殴ッ…速ッ!?え、危ない!」
狼の突進に、間一髪で避ける神無月さん。
そりゃそうだ。この辺りは、推奨レベル10。私たちは1。だいぶカットしてしまっている。
ただ、多分、動物系なら、麻痺は効く。
少し遠くにいるが、問題ない。弓を引く動作をして、覗き込み、撃てば───
「当たった!」
「ナイスふみふみ!……あれ?露骨に動きが鈍くなった?」
「私の麻痺矢で麻痺してるんだと思う。少なくとも、万全の動きは出来ないはず。」
「おぉ!すげぇふみふみ!これなら…おりゃー!」
超スピードで、次々と殴る神無月さん。……血は出ないようになっているから、そこまでグロくないかと思ってたけど……直で見るとちょっとグロい…。
「あれ?消えた。」
「倒すと経験値になって消えるんだよ。」
レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。
「ほー…レベルが3になった!あと、この声なに?」
「聞き馴染みがあると思うけど、これは、さっきのAI。私たちのレベルが上がるたびに、AIさんが言ってくれるの。」
「へー」
私たち31人もいるのに、本当にどうやってやってるんだろう…本を読む限り、同じAIが分散して行っているらしいけど、理屈はあんまり分からない。
「それよりも、神無月さん?さっきの狼は1匹だから助かったけど、ここはまだ私たちには早い所なんだよ?」
「え、マジ?……一人で突っ走っちゃってごめん…」
「え、あ、いや、神無月さんが無事だったなら大丈夫だよ。」
もし狼の群れに遭遇していたら、本当にヤバかったかもしれない。神無月さんが速いというレベルの速さに、私たちは範囲攻撃系じゃないから。一匹ずつ、せめて二匹とかならまだしも、群れはヤバい。
「私、ゲームとかやっても、戦略とか建てられないタイプだから…今日は、ふみふみに従うよ。」
「え、わ、私も、そこまで考えてゲームするわけでもないから…」
「でも私、寝てたからどうやって動けばいいのとか分からないし…」
「じゃ、じゃあ、とりあえず一応、もっとレベルの低い地帯に行こう?」
「おっけー!」
レベルの低い所では、私の出番はほとんどなかった。だいたい、神無月さんのワンパンor切り刻む、で終わっちゃう。
「……やっぱり、さっきのところら辺でいいかもね…」
「まだレベル5だけど、いいの?」
「うん。一応、私たちはレベル5にしては強すぎるはずだから。ただ、問題はさっきの狼が群れで来た時なんだよね…」
「その時は、私がふみふみを持って逃げるよ!多分、私の方が速いし!」
「……うん。そうしてもらおうかな。足手まといでごめんね…」
「え、そんなことないよ!ふみふみがいなかったら、そもそもさっきの狼のところでどんどん奥に行って死んでたよ!」
やっぱり、神無月さんは優しい。
恐らく、神無月さんの勘の良さなら、狼一匹を倒した後に、身を引くと思う。それなのに、こうやって私を励ましてくれる。
「よし!私も気合入れてやるぞ!」
「おー!その意気だ!」
そして、推奨レベル10の地帯へ行く。
そこでは、狼以外にも、虫や骸骨、神無月さんより速いウサギ、などが出てきた。
特に、ウサギには苦戦した。というか、逃げた。私の追尾機能付きの矢でさえ、避けられてしまった。そうなったら、私にできることはマジでないので、神無月さんに持ってもらいながら、全力で逃げた。途中途中私が普通の矢で攻撃していたので、追いつかれることもなく逃げ切れた。
「あと少しで10レべ!」
「どんなスキルが手に入るのかな…」
スキルは、レベル10毎に獲得する。私たちが獲得できるスキルは、どれもバケモノ級のものばかりで、一気に高難易度へ挑戦することが出来るはずだ。そもそも、この世界は死ぬようにできていない。ポーションも全回復だし、色々とチートすぎる。みんなが俺TUEEE!状態だ。
「…あっちの方向に、狼が三匹いる。周りには…恐らくいない。」
「おっけー!行ってくるぜー!」
もうここまで来ると、私はただの敵を探すための人だ。ただの、遠くが見れる人。麻痺とかやる前に、神無月さんが倒しちゃうし。
レベルアップしました。
「レベル10だー!」
レベル10に到達しました。新しく獲得したスキルは、気配探知、です。詳細は、ステータスウィンドウを開き、確認してください。
言われた通り、ステータスを開き、早速確認する。えーっと…気配探知?説明…
【気配探知】
自分を円の中心として、半径50mの生物を探知することが出来る。このスキルは常時発動している。頭の片隅に、あの方向に生物がいる、などが分かる。敵の強さに応じて存在を強く感じることが出来る。
めっちゃ便利なスキルきた。
何気に、私への不意打ち対策になってありがたすぎる。
神無月さんが敵と戦っているときに、別の敵が私の近くにいたら、襲ってきたらどうしよう……という、ずっと、私が思っていたそんな不安が、これで解決された。
「おおおぉぉ!!すげぇ!」
「どんなスキルゲットしたの?」
「ふふふふ…見ててね?ふみふみ…」
そういうと、神無月さんは目の前から消えた。
一瞬、超スピードで私の視界から外れたのかと思ったが、違う。気配探知には、真後ろに神無月さんがいる、となっている。
「……あれ?いない」
後ろを振り向いたが、誰もいなかった。おかしい…ここに反応があるのに…
ゆっくりその反応へと近づいていくと、見えない壁に当たった。
「ん?あれ?何もないはずなのに何かある……ちょっとやわらか」
「ふみふみのすけべ!」
「えッ!?あ、ご、ごめんッ!!」
何もなかった空間から、急に神無月さんが現れた。
しかも、私の両手は、ちょうど神無月さんの胸にある。
「なんで私のおっぱいの場所が分かったの?」
「え、いや、胸の場所が分かったというか…気配探知っていうスキルを手に入れてて、そこにいる、というのは分かってたんだけど…神無月さんが見えてたわけじゃないから…そ、その、胸を触っちゃったのも、事故で…」
「ふ~ん…エッチふみふみではないってことね?」
「う、うん。…そ、それで、その、神無月さんのスキルは、どんなのだったの…?」
「私のは、気配遮断!言葉を発したり、攻撃するまでは透明!あと、なんかクリティカル?率が上がったらしい。」
「クリティカル……あ、クリティカルは、低%で攻撃時におこるもので、攻撃力が5倍される、らしい。」
「へ~。運だ。」
残念ながら、これは矢には適応されていない。刀などの、道具にも。
ただ、神無月さんのグローブなら話は別だ。あれなら、クリティカルが適応されている。
それから、どんどん魔の森の奥へと行った。すこし手ごわい敵は私の麻痺でどうにかなり。レベルが上がれば神無月さん一人でどうにかなるようになる。ものすごく、バランスの取れたパーティーだ。
「疲れたぁ!」
「ちょっと休憩しよっか。宿屋にでも行く?」
「うーん…行きたいけど、ここからじゃ遠くない?あと、時間とか大丈夫かな…」
「私たち、宿屋にマークしたでしょ?」
「あ、忘れてた!」
私たちに配られた、マーク。一度行った場所に、マークすると、一度だけ、その場所へワープすることが出来る。
もう一つは、ダンジョンの入り口にある。神無月さんが行きたい!と言っていたが、レベル的に断念した場所。
「時間は、残り2時間。そして、私たちのレベルは25。あの時いけなかったダンジョンも、このレベルなら、頑張ればいけるかも。」
私がレベル20で獲得したスキルは、【分析】。敵の情報を読み取ることが出来る。これは、明らかにハズレスキルだ。状態異常とか効かない敵が出てきたり、ギミック系の敵が出てきたら強いと思うけど、今の所0。マジで弱い。
そして、神無月さんの獲得したスキルは【投擲強化】。名前の通り、投げる力がアップする。スピードは、あまり詳しくは分からないが、亜音速?くらいはあると思う。すこし音が遅れて聞こえる感覚があったし。相変わらずのぶっこわれ具合だ。
「ポーションも一つも使ってないし、いったん、宿屋でスタミナを回復させて、ダンジョンへワープし、最後の一時間?とかで攻略すればいいんじゃない?それとも、このままダンジョンにワープする?」
「うーん……」
神無月さんはほとんど攻撃を喰らってないから、自然回復のみで大丈夫だったし、私に関しても、気配探知のおかげで一度も攻撃を喰らっていない。ポーションでは、スタミナは取り戻せない。だから、休憩した方が個人的には良いと思う。
「スタミナ回復ポーションとかって、ないの?」
「えーっと……流石に無いみたい。痛みを感じなくなるポーションとかはあるみたいだけど…。」
「うーん…それじゃあ、いったん休もっか!」
「分かった。じゃあ、マーク使うから、私につかまって?」
「オッケー!」
「……そこまで、抱き着く必要はないけど…」
「別にいいでしょ。」
「…まぁ、問題はないけど…じゃあ行くよ?…マーク使用。」
「おおお~ぉぉお、お~。」
目の前がぐにゃっとなり、一瞬で景色が変わった。まるで、目の前の景色をただ変えただけのように。
「なんか、不思議な感覚だったね…。」
「うん。なんか、目の前の景色だけ変わったみたいな感じ。」
やっぱり、そうだよね。移動した!とは感じないよね。
「いらっしゃい。何部屋借りるんだい?」
「じゃ、じゃあ、ふた」
「一部屋で!」
お金に余裕はあるし、二部屋にしようとしたら、神無月さんに上書きされた。
「はいよ。これが部屋の鍵だ。くれぐれも無くすんじゃないよ。」
「はーい」




